海に着くと、波打ち際で遊んでいる二人の五月と結愛。そして、それを離れたところで見ていることりの姿があった。
「あ、兄さん」
「お待たせ。ことりは三人と一緒に遊ばなかったの?」
「最初は行ってたんだけど、まだ冷たかったから引き返してきた」
苦笑いを浮かべながら答えることり。
水をかけあっている五月と結愛の姿を見ていると、あまり冷たいようには見えなかった。まあ、もう一人の五月が少し離れているので、冷たいのは間違っていないのだろう。
てことは、あの元気な五月は四葉か。結愛も受験の日には四葉と一番に仲良くなったからな。
「相変わらず元気ね、四葉は」
当たってた。
「うん。そんな四葉に付いていっている結愛ちゃんもすごい」
「結愛は私たち三人の中でも一番元気ですから。体力も三人で一番じゃないですかね」
「あはは、四葉にとっては遊び相手ができてよかったんじゃないかな。五月ちゃんじゃ相手するのも骨折れるだろうし」
後から合流した面々は、波打ち際で遊ぶ三人を見ながらそれぞれが感想を漏らした。
「上杉はお祖父さんと旅館?」
「ううん。あそこで釣りしてるよ」
ことりに上杉の所在を聞くと、近くの防波堤を指差して教えてくれた。
確かに、上杉とお祖父さんが二人並んで釣りしてるな。
「さてと。じゃあ、僕はこのまま待ち合わせ場所に向かうよ」
腕時計を見ながら次の場所に向かうことを皆に伝えた。
「あれ?先生どっか行くの?」
そんな僕に一花が質問をしてきた。
そういえば、五つ子達には言ってなかったな。
「ああ。この後立川先生と待ち合わせしててね。海岸沿いにあるお店に集合することになってるんだよ」
「聞いてない…!」
「そうよ。聞いてないわよ!てか、立川先生も来てたの!?」
芹菜さんと会う約束をしていることを伝えると、二乃と三玖がズイッと詰め寄ってきた。見た目が五月なので、なかなかシュールである。
「昨日会ったんだよ。立川先生も友達と来てるみたいだよ」
そう話しながら、防波堤の如く、僕の顔の前に両手を持ってきて、二人がこれ以上近づかないようにジェスチャーした。
「昨日、その立川先生のご友人の方から夕食を一緒にするように言われたの。それを和彦さんが丁重にお断りしたのだけど、それがどうも気になっていたようで。だから、今日のお昼くらいは、と私が提案したのよ」
二乃と三玖の追及に対して、今回の経緯を飛鳥が話した。
てか、話し方まで崩して。よっぽど仲良くなったんだな
「飛鳥は知らないかもだけどね。立川先生は──」
「和彦さんに告白している女性なのよね?ことりから聞いてるから」
二乃の言葉に被せるように飛鳥は答えた。
「大丈夫よ。私が許したのは昼食まで。その後はちゃんと戻ってくるから。ね?」
にっこりと笑顔で飛鳥に言われたのだが、その笑顔が怖い。隣のことりの笑顔もひきつっているくらいだ。
「あ…ああ。どこにいるか連絡してもらえれば昼食が終わり次第向かうよ」
僕の答えに満足したのか、飛鳥からはオーラのようなものが感じられなくなった。
「和彦さーん!」
そんなところに結愛が僕に抱きついてきた。
「……と。どう?結愛。疲れてない?」
「ううん。私は大丈夫です。でね、四葉さん凄いんです!どんなに逃げてもすぐに捕まっちゃうんですよ」
「いや~、結愛ちゃんの体力には驚かされましたぁ~。私も結構本気で走ってたんですけどね」
「あれでは私なんかでは見ているだけしかできませんよ」
興奮気味に話す結愛の来た方向から、頭に右手を持っていき、あははと笑いながら話す五月と、ため息混じりな五月がこちらに歩いてきた。話の流れからして、笑っている方が四葉で、もう一人が五月だろう。
あー!もう!まじで紛らわしいわ!
隣のことりも笑ってはいるが、内心軽く混乱してるだろう。
飛鳥と結愛は、お互いにさっきまで話していた相手と話しているから今はまだ大丈夫のようだ。
「さて。じゃあ、みんな揃ったし、おじいちゃんとフータロー君のところに行こっか」
「そうだね。じゃあ兄さん。連絡をするからまた」
「あれ?先生は来られないのですか?」
ことりが僕に話しかけた内容を聞いて、五月が疑問を投げかけた。
「逢い引きだそうよ。立川先生と」
「逢い引き!?どういう事ですか!」
一人の五月が芹菜さんとの逢い引きだと言うと、五月は驚いたようにそちらを向いた後、先ほどの二乃や三玖同様に詰め寄ってきた。
これはループするのか?
「ああ。それって昨日話してた立川先生って人とお昼ごはんの約束してたのですよね?たしか、他にもその立川先生のお友達が二人いたはずですよ」
「友達…?」
詰め寄ってきた五月は、結愛の言葉に反応してそちらを見た。
ナイスだ結愛。
「では、その友達の方も一緒ということでしょうか?」
「あ…ああ。多分ね」
「…………まあいいでしょう。しかし、先生はことりさんたちとここに旅行に来られたんです。そんなことりさんたちをほったらかしはよくないと思います」
「分かったよ…じゃあことり、終わったら連絡するから」
「うん。立川先生によろしく伝えといて」
そうして八人に見送られながら、僕は立川先生との待ち合わせの場所に向かうのだった。
「へぇー、そんなことが朝からあったんですね」
「本当に朝から大変でしたよ」
僕は今、芹菜さんとの昼食の約束のために海沿いにある海鮮バーベキューのお店まで来ていた。目の前では、いくつもの種類の海鮮が焼かれている。
その内の一つである海老の殻を剥きながら今朝あったことを芹菜さんに話していた。あ、お風呂の件は内緒にしている。
ちなみに僕の前には芹菜さん一人しかいない。友人も一緒ではないのかと尋ねると──
──友達にも私の気持ち伝えてて…せっかくなんだから二人で食べてきな、と
友人思いのとてもいいご友人がいて芹菜さんも嬉しいだろう。しかし、この状況をあのメンバーに知られたらと思うと……ゾッとする。
ま…まあ、黙っとけばなんとでもなるだろう。うん。
「それにしても中野さん全員が五月さんの格好をされているですか。うーん…見てみたい好奇心と、私には見分けられないだろうなという不甲斐なさを感じますね」
そう言いながら芹菜さんは苦笑いを浮かべて、網の上で焼けたイカを取り皿に取り食べ始めた。
「意外にいけるかもしれませんよ」
「そんなことないですよ。私は和彦さんほど五人と話していないですし……あ、このサザエもういいみたいですね。はい、どうぞ」
芹菜さんはトングを使ってサザエを僕の取り皿に乗せてくれた。
「ありがとうございます。ではさっそく…………うん、美味しいですね」
「ふふっ…ここは食材も新鮮ですし、何より目の前に広がるビーチもいいですよね。ロケーションも最高です」
「今はシーズンオフだからお客さんもまばらですけど、シーズンに入ると人がいっぱいなんでしょうね」
芹菜さんが目を向けたビーチの方に僕も顔を向けながら話した。
「海水浴かぁ…和彦さんは夏によく行かれるんですか?」
「うーん…どっちかと言うとプールに行きますかね。地元に帰った時は、今日旅行に来たメンバーを連れて行っていますよ。まあ、保護者兼運転手として、みたいになってますけどね」
「へぇ~、ことりさん達が羨ましいですね……こ…今年の夏は…私とも…海かプールに行きませんか?」
そんな風に芹菜さんは、恥ずかしながらも真剣な表情で提案してきた。
「……そうですね。まあ、二人っきりというのは難しいかもしれませんが、その時はお願いします」
「は、はい!ふふふ…なんだか初詣を思い出しますね。あの時もみんな一緒でしたから」
懐かしそうに、ホイル焼きをしたサーモンを食べながら芹菜さんは話した。
僕も芹菜さんに続いてサーモンを食べることにした。
「うん。このサーモンも美味しいですね」
「ええ。今度はあの二人とも来たいです」
「ご友人のお二人はどちらに行っているんですか?」
「えっと…海鮮丼が美味しいお店があるとかで、そっちに行ってますよ」
「へぇー、海鮮丼ですか。今度はそっちにも行ってみたいですね」
「……じ…実は、うちの近所にも美味しい海鮮丼のお店があって。よ…よかったら、今度一緒に行きませんか?」
「いいですね。芹菜さんの家の近所なら車を使わなくてもいいですし。僕もまだまだ近所のお店の開拓は出来ていないので、そういった情報は助かります。REVIVALも芹菜さんに教わってからはよく行ってますしね」
「そう言っていただけると嬉しいです♪」
そう言うや否やゴクゴクと芹菜さんはビールを飲み始めた。すでに三杯目…本当にお酒が好きなようだ。
僕も付き合い程度ではあるが飲んでいるが、そんなにお酒に強い方でもないので、あまり飲み過ぎるとこの後の合流が出来なくなってしまうかもしれない。そうなると、それはそれで詰め寄ってくるに違いない。
「結構な量を飲んでますが、この後はどこにも行かないんですか?」
「?このくらいなら全然ですよ。この後は二人と合流して島を散策する予定なんです。あ、すみませーん。ビールもう一杯お願いします」
本当になんてことないようだ…
「あ、散策で思い出したんですけど。この島にはちょっとした観光スポットがあるんですよ」
「観光スポットですか?」
「ええ。少し登ったところに誓いの鐘と言う鐘があるそうですよ。この後三人で見に行く予定なんです」
「へぇ~、誓いの鐘ですか」
「なんでも、その鐘を二人で鳴らした男女は永遠の愛で結ばれると言う伝説があるんです」
「永遠の愛、ですか…」
どっかの誰かさん達が食いつきそうな話だなぁ。待てよ。この島の旅館を予約したのって飛鳥だよな。てことは、初めから知ってる可能性があるな。
「ロマンチックですよねぇ。まあ、そんなところに女三人で行くのはどうかと思いますが……」
あははと笑いながら、芹菜さんはビールを飲みながら自虐的に口にした。
「僕もそういう伝説的なの嫌いじゃないですよ」
「え?」
「まあ、僕の場合は別の考え方だからロマンチックとはほど遠いですけどね」
「……和彦さんはどんな風に考えていらっしゃるんですか?」
「そうですねぇ……誓いの鐘って言ってるくらいなので、これからも一緒にいようと誓う場所なのではないかと。そうすれば、自ずと永遠の愛。つまりは、結婚まで進むんじゃないかなって。ね?ロマンチックからはほど遠いでしょ?」
自身の考えを伝えた後に笑いかけると、芹菜さんはぼーっとしたような顔で返事がなかった。
うーん、女性には話すべき内容じゃなかったか。
「そういう意味では、ご友人と行くのもいいんじゃないですかね。ほら、三人で鳴らしてこれからも友達でいようって誓うみたいな」
「ふふふ。本当に面白いことを言いますね。じゃあ、その案を使わせてもらいますね」
最後には笑ってくれたので少し安心した。そんなところにことりからメッセージが届いた。
『四葉から聞いたんだけど、この島には誓いの鐘って言うのがあるんだって。せっかくだから行ってみようよ!』
狙ったかのように来たなぁ。そうだ。
「もし良かったらなんですけど──」
一つの提案をすると、芹菜さんは喜んで承諾してくれ友人に連絡した。すると、その友人からも了承を得られたので、僕もことりに連絡をするのだった。
「へぇ~、これが誓いの鐘」
芹菜さんとの昼食も終え、ことりからの提案もあったので、僕達は少し山を登ったところにある誓いの鐘まで来ていた。
そこは展望スペースにもなっており、山々や海が見えて風景を見るだけでも楽しめそうである。
「景色もいいねぇ~」
「そうだね!晴れてよかったぁ!」
ことりと結愛が柵まで行くと景色を眺めながら喜んでいる。
「ま、私たちは昨日来たんだけどね」
「伝説のことはそこで四葉に聞いた…」
「そうなんだ」
「上杉さんもいたんですよ。ここで偶然会ったんです」
「あの時はビックリしたけどねぇ」
「上杉君のお父様が来た途端、お父さんがすぐに移動してしまったのであまり話せなかったんですけどね」
「ふむ…」
僕の近くにいた五人の五月が昨日のことを説明してくれた。
まあ、どれを誰が説明したかは分かんないんだけどね。上杉さんと言ってるのが四葉で、上杉君と言ってるのが五月ってとこか?
ちなみにその上杉も来ていて、先ほどから何やら考えながら五つ子をチラチラ見ている。
「それで?」
「ん?」
「なぜあの方たちがいるのでしょうか?」
僕の隣に来た飛鳥からそんな質問が来た。
飛鳥が見ている方角では、三人の女性が楽しそうにスマホで写真を撮りながら話している。
「案外普通な鐘ね」
「静……そんな身も蓋もない事言わないの」
「そうよ。小百合の言う通りで、ここに来てまで言うことじゃないでしょ」
芹菜さんとその友人の二人である。
「ことりに連絡した通りだけど。昼食の後に行く場所が同じなら一緒にどうかって僕から誘ったんだよ。別に飛鳥達をほっとく訳じゃないからいいだろ?」
「それはそうなのですが…」
僕の説明に納得が出来ない顔でいる飛鳥。まあ、気持ちは分からんでもない。ただ、どうせ五つ子とも一緒にいることになるのだ。そこに芹菜さん達が加わるのも問題ないだろう。
「この後は四人での時間を作るからそれで勘弁してくれ」
「……絶対ですよ」
返事の変わりに頭を撫でてあげると、少しは納得したようで飛鳥はことりと結愛のところに向かった。
その後は各々で過ごしていた。五人の五月に戸惑いながらも、芹菜さんと友人の二人も五つ子やことり達と仲良く話している。
「そんな怖い目で見てると二乃あたりに怒られるよ」
「…っ!先生…」
そんな楽しんでいる皆のことを、少し離れたところからじっと見ていた上杉に話しかけた。
そして、そのまま柵に寄りかかりながら景色を眺め話を続けた。
「上杉は皆と一緒にいなくていいの?」
「俺はいいですよ」
僕の質問に答えながらも、上杉は皆の方を見るのを止めて僕の横に並んで立つと景色を眺めた。
「どう?見分けられそう?」
「駄目ですね。まったく違いがわかりません。先生は見分けられましたよね?何かコツがあるんですか?」
「うーん…僕の場合はその場の雰囲気っていうか、勘だから当てにならないよ。その証拠に、ここから見たらどれが誰か分かんないし」
「そう…ですか…」
僕の言葉に、上杉は柵をぎゅっと握りしめて遠くを見つめていた。
「……ちなみに、昨日の夜上杉と話してたのは誰かは知ってる」
「え!?」
「本人から聞いたからね。間違いないよ」
「ちょっ…ちょっと待ってください。え?じゃあ、家庭教師を辞めてほしいって思ってるのが誰か分かってるんですか!?」
「そうだね…」
興奮したように話しながら詰め寄ってくる上杉に対して、僕はいつも通り答えた。
「誰なんですか!?」
「ごめん。それは言えないかな。これは自分で解決した方がいいよ」
「そ…!それは…」
僕が教えられないと伝えると、先ほどまでの位置まで戻った上杉は下を向いてしまった。
「ふっ…そんな彼女から君に伝言だ」
「伝言?」
「ああ。私を見つけてほしい。明日の朝、広間で待ってるから、そこで私が誰かを当ててほしい、てさ」
「!」
「男の見せどころだよ上杉」
拳を作って上杉の胸に軽く当てて笑顔を向けた。
「今まで上杉が五つ子と培ってきた時間は無駄じゃない。僕はさっき勘で分かったって言ったけど、それは上杉にだってあるはずさ。上杉だからこそ感じられる何かが」
「俺にだけ感じられる何か……」
そう。僕は二乃と三玖からは好意を。五月からは兄として慕う気持ちを向けられているからこそ分かるもの。
それが上杉にだってきっとあるはずさ。
そんな風に考えながら雲一つない青空を見上げるのだった。
今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。
今回はほのぼのとしたお話を書かせていただきました。
主要キャラを一つの話に出したのは実は初めてなのでは?
さて、風太郎君も見分けようと一生懸命になっております。果たして見分けることが出来るのでしょうか。
次回は、旅行二日目の夜のお話を書かせていただこうかと思っております。
次回の投稿は9月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。