少女と花嫁   作:吉月和玖

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94.呼び出し

「結構回ったねぇ」

「そうね。やっぱり海沿いに色々あったわね」

「……和彦さん、大丈夫ですか?」

「あ…ああ…けど、もう歩けそうにないからお風呂に入って部屋で休憩かな」

 

誓いの鐘で五つ子と芹菜さん達、上杉と別れた僕達四人は、島を観光するために色々と見て回った。

飛鳥が言っているように、やはり海沿いにお店が多く、つまんで食べれる物もあったので、それらを食べながら楽しんだ。手にもお土産などがいっぱいだ。

 

「まったく…日頃から運動しないからだよ。お兄ちゃんってば、こっち来てから全然なんだもん」

「そうなのね。言ってくれれば荷物持ちましたよ?」

「まあ、男として女の子に持たせるにはって思ったんだよ」

 

そんな荷物を一番持っている僕は、旅館に着いた途端限界が来てしまい、結愛に心配されてしまったのだ。しかも、ことりには体力がないことに呆れられてしまう始末である。

 

「なんだかんだで私たちも疲れてはいるし、部屋に戻ったらお風呂いきましょうか」

「だね」

 

飛鳥の言葉にことりが賛同しながら僕達は部屋に戻ることにした。

 

「あ……先生!」

 

そんな僕達の後ろから元気な声で呼び止められた。姿は五月だが、五月にしては元気すぎるか?

 

「みなさん今戻られたんですね」

「うん…えっと……」

「あぁー、四葉です」

 

ことりが誰か分からないような仕草を取っていたので、自分は四葉だと名乗り出た。

やっぱ四葉だったか…

 

「四葉さんたちはあれからどこかに行っていたんですか?」

「いえ。あの後は旅館に戻ってゆっくりしてましたよ」

 

四葉と分かると、結愛が四葉に笑顔で近づきながら質問をした。

本当に結愛は四葉に懐いたなぁ。

 

「まあ、ここはお祖父さんの家でもあるしね。島の中はあらかた散策してるでしょ。それで?何か用事?」

「はい!えっと……先生に折り入ってご相談がぁ……」

 

何か用事があるのか四葉に聞くと、どこか申し訳なさそうな顔で僕を見てきた。チラチラと他の三人も見ているようなので、僕一人をご指名のようである。

 

「ことり、飛鳥。悪いんだけど荷物を部屋まで持っていってくれる?」

「わかった」

「私たちは部屋でゆっくりしてますよ」

「またね、四葉さん」

 

どうやら三人とも察してくれたようで、すぐに部屋に向かってくれた。まあ、これが二乃や三玖、芹菜さんだったら分かんなかっただろうな。

 

「じゃあ……そこでいいかな?」

 

ソファーやテーブルが置かれた雑談するスペースを指差しながら四葉に確認をした。

 

「はい!」

 

四葉としても問題ないようだったのでソファーに二人並んで座った。座る前に飲み物も買ったので、それを四葉に渡した。

 

「ありがとうございます!」

「いいよ。それで?話ってのは?」

 

自分の飲み物のプルタブを開けながら、四葉に相談内容を促した。

 

「えっと…その……ことりさんのことで……」

 

四葉も僕から受け取った飲み物を飲んだ後に話し始めたのだが、飲み口を親指で擦りながら話そうとしている。

 

「ことり?何?あいつ何かやらかした?」

「い、いえ!まったくそういうのではなくですね…その…以前に恋愛相談したじゃないですか。その時には、ことりさんは上杉さんを好きじゃないって、先生が言ってくれたんですけど、今日のことりさんを見てると不安になってきて…なんと言いますか、やたらと近いと言いますか…」

 

なるほど。僕が見ていないところでもスキンシップが過剰になってたか。こりゃ、四葉もそうだが、一花も並々ならぬ思いでいただろうね。

 

「あー……うん。ことりは上杉を好きになったらしい」

「うっ…!やっぱりですか!」

 

僕の言葉に頭を抱えるように四葉は反応した。

 

「まあ、それだけ上杉が魅力的だってことだろ。四葉やことりが惚れるくらいなんだ」

「うーー…風太郎君の魅力が他の人に伝わるのはすごく嬉しいんです。でもぉ……」

「その分ライバルが増えていく、か」

 

コクンと四葉は頷いた。

なんとも難しいものだ。自分の好きな人が周りから嫌われてしまうことも嫌ではあるが、魅力が伝わり別の者が好きになることもまた焦りを感じてしまう。

 

「実際に姉妹の中にも風太郎君を好きになってる子もいるので…」

「それって一花のこと?」

「知ってたんですか!?」

 

僕が一花の名前を出すと、四葉は驚きの表情でこちらを見た。

まあ、知ってたというか、本人から聞いたというか。

 

「……まあ、消去法だね」

「消去法?」

「あー…四葉も知ってるだろ?二乃と三玖の気持ち」

「はい。二人は最近になって積極的でしたからね」

「そ。だから、この二人は除外。後は、一花と五月になる訳だけど…五月が恋愛してる風には見えないんだよねぇ…だから残りの一花ってわけ」

「なるほど……うーん…先生って察しがいいのか鈍感なのか…

「ん?」

「いえいえ。私たちのことよく見てるなって」

 

口ではそういう風に言っているが、なぜか苦笑いな四葉。

今の言葉に間違いでもあっただろうか。

 

「しかしあれだね。一花にことりと、また強力なライバルができたもんだ」

「本当ですよ…うー…ことりさんみたいに積極的にした方がいいのかなぁ…」

 

どうしよう、と困った顔でいる四葉。

うーん…手助けしてやりたいんだが、如何せん相手の気を引く方法なんて考えたことないからなぁ…でも。

 

「四葉の強みって、やっぱり天真爛漫な笑顔だと思うんだよね。後は、困ってる人を助けたいっていう優しい心。まあ、五つ子皆可愛いからそこは一花やことりとは差はつかないと思うよ」

「うーー……か…可愛いですか…」

「ああ。だから、その長所を生かした方がいいんじゃないかな。あんまりことりみたいにしてると、上杉も困って逆効果な気がするし」

「可愛いはスルーですか…さすが先生ですね。でもそっかぁ、ことりさんの真似も良くないのかぁ。うーん…でも、私の長所を生かすにはどうすれば……」

 

腕を組んで悩み始めた四葉。だけど…

 

「そのままでいいよ」

「え…!」

「そのまま上杉のこと傍で支えてやるといい。それで、自分のタイミングで想いを伝えるといいさ」

「それでいいんでしょうか?」

「ああ。傍で笑って、励まして。それだけでも効果ってあるもんだよ。上杉ならきっと見てくれるさ」

 

にっこりと微笑みながら伝えると、四葉も笑顔を見せてくれた。

 

「はい!私、これからも風太郎君のために頑張ります!ししし」

 

うん。その笑顔があれば、あのことりにだって負けないだろう。

 

「いやー、ことりさんみたいな真似は、やっぱり私には無理だなって思ってたので、先生に相談してよかったです」

「まあそれでも、さりげなく隣に座ったりとかはいいかもね。別にくっつく必要もないんだし」

「なるほどぉ…」

 

その後も、お互いに知っている上杉の話をして盛り上がるのだった。

 

・・・・・

 

夕食も終わり、部屋でゆっくりする時間帯になったのだが、少し一人の時間を作りたいと三人に伝え、外に行こうとしていた。

やはりと言うべきか、三人は難色示してたなぁ。付いてこようとしてたし。はぁぁ……

そして玄関に差し掛かったところで見知った二人の姿があった。

 

「こんばんは中野さん。娘さんとお散歩ですか?」

「おや、君かね」

「せ、先生!?」

 

そこにいたのは中野さんと五月。まあ、姉妹の誰かは今時点では分からんが。

その五月は僕を見るなり驚きの顔になっていた。

 

「いやなに。うちの二乃君が見当たらなくてね。外に捜しに行こうとしていたところに一花君に話しかけられてね」

「二乃さんが?」

「その反応……どうやら君たちのところには行っていないようだね」

「ええ」

 

親を心配させて…どこに行ったのやら。

そんな風に考えてるとスマホに着信が入った。

 

『誓いの鐘のところで待ってるから来てくれない』

 

相手は二乃。すいません中野さん、僕も関係者みたいです。

どうするかなぁ。

 

「僕も一人で散歩をと考えてたので、ついでに捜してきましょうか?」

「……君が外で二乃君と待ち合わせ。あまり考えたくないが、それもあり得るわけだ。そんな男を信用しろと?」

 

鋭い!二乃には申し訳ないが、ここは旅館で大人しくしておくか。

そんな考えが出た時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「では、私が吉浦先生と一緒に行きます。それでどうでしょう?」

 

振り返るとそこには、思った通り芹菜さんが立っていた。

 

「君はたしか…」

「名乗らず申し訳ありません。私は旭高校で教師をしている立川と申します。中野五月さんの担任を勤めております」

 

お腹あたりで両手を重ねて、一礼をしながら芹菜さんは自己紹介をした。

 

「私と吉浦先生が一緒にいれば、娘さんと吉浦先生が二人っきり、ということはないと思いますが、いかがでしょう?外も広いですし、こちらの方が効率的かと」

「ふむ。いいだろう、では僕は海の方に行くとしよう」

「では私たちは山の方ですね」

「分かりました。じゃあ一花。二乃から連絡、もしくはどっちからか見つかった連絡があったら、その連絡もお願いできるかな」

「わかった」

「では先に行かせてもらおう」

 

そう言うと中野さんはすぐに玄関から出ていってしまった。

 

「では私たちも」

「ええ。と……一花」

「?」

 

玄関先に進んでいる芹菜さんを待たせた状態で一花に声をかけて近くに寄った。

 

二乃には僕から謝っとくから。一花はちゃんと足止めしようとしてたって伝えとくよ

「──っ!ごめーん、せんせーい

 

申し訳なさそうな一花の頭をポンポンと撫でてから芹菜さんの隣に近づいた。

 

「すみません。じゃあ行きましょうか」

「はい」

 

そして、芹菜さんと並び、二乃がいるであろう誓いの鐘に向かうのだった。

 

「それにしてもタイミングよく来てくれましたね」

「私もビックリです。本当にたまたまでしたので」

 

僕の言葉に笑いを交えながら芹菜さんは答えた。

 

「それで、どうなんですか?」

「え?」

「その……中野さんの仰ってた通り二乃さんと本当は待ち合わせしてたとか……」

「あ…ああ……」

 

まあ、普通に考えたら気になるところだろうな。

 

「僕は一人の時間を作りたかったので散歩でもと思っていたんですけどね。ただ、玄関に着いたところで二乃から外で待ってるから来てほしい、と連絡がありましたね」

「やっぱり…」

「しかし、夜にこんなメッセージを送られちゃあ、心配で行かざるを得ないでしょ。あの子は策士ですね」

「うーん…見習わないといけないかもですね」

「やめてください……と、そうだ。はい」

 

呆れながら答えた僕はあることを思い出して、芹菜さんに手をさしのべた。

 

「え?」

「ここから、さらに暗くなりますので、手を握っておいた方がいいかな、と。必要ありませんでした?」

 

さしのべられた手を見てキョトンとしている芹菜さんに、暗くて怖いのではないかと聞いた。すると、スッとその手が握られた。

 

「やっぱり、和彦さんって素敵な人ですね」

 

そしてそのまま、芹菜さんはこちらに身を寄せてきた。

 

「歩きづらくないですか?」

「いいえ。この方が落ち着きます。ふふっ、ある意味二乃さんには感謝しないとですね」

「それ。二乃に知られたら怒られますよ」

「じゃあ、内緒ということで」

 

そんな上機嫌な芹菜さんを連れ、先を進むのだった。

 

しばらく歩くと、件の誓いの鐘が見えてきた。その近くには人が佇んでいた。多分二乃だろう。

 

「こーら、不良娘」

 

近づきながら声をかけると、笑顔の二乃が振り返った。

 

「和にぃ!来てくれたのね………て、なんで立川先生がいるのよ!」

 

その笑顔も僕の隣の芹菜さんの姿を見たことでなくなり、お怒りモードに切り替わってしまった。

 

「こんばんは、二乃さん。駄目ですよ、こんな時間に一人でこんなところにいては」

 

逆に芹菜さんはニコニコと上機嫌である。ちなみに手を繋いでいたのは、先ほどほどいたところである。

 

「和にぃ?」

「あー…旅館を出るところで中野さんに会ってね。それで僕だけでは信用が出来ないって言われて」

「そこで偶然居合わせた私が一緒に、という訳です」

「むーー…一花は何してたのよぉ」

「一花を責めてやるなよ。きちんと足止めはしてたんだから。会った場所が悪かったんだよ」

 

僕が中野さんと一花の二人に会った時は、一生懸命一花が中野さんに話しかけてたからな。そんなところに僕が来たんだ。そりゃ一花も驚きの顔になるか。

 

「あ~あ、やっぱこんなに知り合いが多いと出し抜くのも難しいわねぇ」

「てか、呼び出すならこんなとこじゃなくても旅館の中でも良かったのに」

「それこそパパの目があるでしょ。それにここがよかったのよ」

 

そう言った二乃は誓いの鐘を見上げた。

 

「さすがにこの時間に鳴らそうとは思ってなかったけど、永遠の愛で結ばれるって言われてる鐘の下で二人っきりになったらロマンチックじゃない」

 

少し恥ずかしそうに振り向いた二乃は、月の光に照らされて、どこか幻想的に見えて見惚れてしまった。

 

「和彦さん?」

「え…」

「ボーッとされてどうされましたか?」

 

どうやら様子のおかしい僕に芹菜さんが声をかけたようだ。

さすがに二乃に見惚れてたとは言えないな。

 

「すいません、ちょっと疲れてるのかもしれないですね。そういえば、今は五月の格好してないんだね」

「さすがに二人っきりで会うのに五月の変装はしないわよ。それだと、和にぃは五月と話してる風に感じるじゃない」

「ふっ…たしかに」

 

さも当然のように話す二乃に僕も笑みが溢れてしまった。

 

「先ほどから気になっていたのだけど、和にぃって……」

 

そこで芹菜さんが一つの疑問を投げかけた。

そういえば、人前ではその呼び方を使わなかったはず…

 

「いいでしょ?なんか特別感があって。前から二人の時はそう呼んでたのよ。立川先生だって、二人の時は下の名前で呼びあってるでしょ?」

「それは…そうだけど…」

「これからは二人の時だけじゃないところでも呼ぼうって思ってる。いいわよね、和にぃ?」

「それでもプライベートとかにしといてよ。特に学校では絶対に使わないこと」

「わかってるわよ」

 

二乃だったら多分大丈夫だと思ってはいたが、一応学校で呼ぶことがないように注意しておいた。

 

「ならいいんだ。じゃ、帰るよ。中野さんも心配してるんだし」

「はぁ~い。じゃあ、手ぐらい繋いでもいいわよね?どうせさっきまで立川先生と手繋いでたんでしょ」

「うっ…」

「はいはい。旅館に着く前までだよ」

「やった♪」

「て、そんなにくっつかなくてもいいでしょ」

「むー…和彦さん、反対側は私が繋いでもいいですよね」

「へ?芹菜さんまで!?」

 

両脇の二乃と芹菜さんはもう腕を組んでいると言っていい程僕の方にくっついてきていた。

歩きにくいんだが……

されるがままの状態で、三人並んで旅館に戻るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、四葉の恋愛相談第二弾と二乃の呼び出しを書かせていただきました。
和彦は恋愛に対してはそこまで詳しくないので、当たり障りのない回答しています。積極的な四葉も書いてみたいですが、ことりとは違うアピールが出来ればなと思ってます。
また、二乃の呼び出しですが、和彦に芹菜が一緒にいることでマルオの許可を取る形にしました。

次回は旅行三日目。風太郎の五つ子ゲームの結果を書かせていただこうかと思っております。

次回の投稿は9月30日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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