少女と花嫁   作:吉月和玖

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95.私を見つけて

チュン…チュン…

 

夜が明け、外からは雀の鳴き声が聞こえる。

布団から起き上がるとカーテンからも日が差しており、今日もいい天気になりそうである。

とはいえ、今日はチェックアウトしたらそのまま昼の便で帰るので島の観光は出来ない。

 

「スー…スー…」

 

隣を見れば気持ち良さそうに眠っている結愛の姿があった。

昨日の朝に飛鳥が僕の布団で寝ていることが見つかったこともあり、昨日の夜になると隣に寝る順番であった結愛が布団で一緒に寝たいと言ってきたのだ。

ふっと笑みを溢しながら寝ている結愛の前髪を上げてみた。

 

「んー……和彦さん…?」

 

すると目を開けた結愛が目を擦りながらこちらを見てきた。

 

「悪い。起こしたかな」

「ううん。えへへ…起きたら傍に和彦さんがいるなんて幸せぇ~」

 

寝惚けているのか、結愛は僕に答えるとそのまま僕の腰あたりに抱きついてきた。

 

「もっと頭撫でてぇ~…」

「はいはい」

 

結愛に応えてそのまま頭を撫でてあげる。

このまま撫でてあげたいけど、二人が起きたらまた面倒──

結愛の頭を撫でながら、ことりと飛鳥の寝ている方向を見ると、ニコニコした二人がこちらを見ていた。

 

「「ふふっ……」」

「…………」

「?どうしたの和彦さん?」

 

僕が撫でる手を止めたからか、結愛は腰に抱きついたままこちらを見上げてきた。

 

「いつから見てた?」

「んーー?お兄ちゃんが、『悪い。起こしたかな』、て言ってたくらいだよ」

 

最初からじゃないか!

 

「はぁ~あ、見ていて微笑ましく思えましたぁ。私は普通に起こされましたのに」

 

お前の場合は、夜更かししすぎて寝坊しただけな。そのせいで二人に見つかったんだから。

 

「んーー?なんだぁ、二人も起きてたんだぁ。せっかく和彦さんに癒してもらってたのにぃ」

「残念ね。さ、本格的に起きましょうか」

「そだね。うーーん…」

「それはいいんだが、早く浴衣をきちんと着ろ。はだけて胸元まで見えてるぞ」

 

起きたばかりということもあり、起きて伸びをしていることりと飛鳥の浴衣ははだけており、もう下着まで丸見えだ。

 

「別に妹のくらいどうってことないでしょ」

「そうですね。私も昨日もっと見せている訳ですし、このくらいどうということはありません」

「ちょっ!飛鳥、本当にお兄ちゃんと温泉入ったの?」

「ずるい!」

 

そう答えたことりと結愛は、ばっとこちらを見て訴えかけてきた。

 

「入らないよ」

「でも、飛鳥とは入ったんでしょ?」

「あれは入ったんじゃない、乱入してきたんだ。僕はすぐに上がった」

 

とは言え、色々見えてしまったことは本当だが。

 

「それに、元はと言えばお前が三玖をそそのかしたからだろ」

「うーー……だってぇ…」

「まあいい。さっさと朝食を食べて帰りの用意をしよう。昼の便には乗るんだから」

「はぁ~い。ねえねえ、お兄ちゃんはなしにしろ、三人で後で朝風呂に行こうよ」

「いいわね」

「うん、いいよ!」

 

そうして、朝食のために大広間に向かうのだった。

 


 

~風太郎side~

 

ガラッ…

 

朝起きた風太郎は、和彦に言われていた待ち合わせのために広間に来ていた。障子を開けて中に入ると、五月の姿をした一花が佇んでいた。一花は、風太郎が入ってくることに気づくと、風太郎に向かい合うようにした。

 

「先生から聞いている。お前が初日の夜に俺と話した五月ってことでいいんだよな?」

「はい」

「そうか…」

 

風太郎は一度、対面している一花を上から下まで見て判断をすることにした。

 

(やはり駄目だな。ぱっと見た感じでは違いはわからん。だが、ここでこいつを見分けることが、五つ子と向き合っていく覚悟だということだ…!)

 

──上杉にだってあるはずさ。上杉だからこそ感じられる何かが

 

──相手の仕草、声、ふとした癖を知ること。それはもはや愛と言える。お主に孫たちと向き合う覚悟はあるのか?

 

そこに、風太郎の頭に和彦とお祖父さんに言われた言葉が過った。和彦は、昨日の昼間に誓いの鐘のところで言われたが、お祖父さんには昨日の晩に聞いていた。五つ子を見分けるためのコツを聞いた時にそう言われたのだ。

 

「一つお前に謝らなければならないことがある」

「え?」

 

・・・・・

 

時は遡り、旅行二日目。誓いの鐘のある高台で和彦達と芹菜達と別れた五つ子と風太郎は旅館に向かって歩いていた。

 

「上杉君、少しいいですか?」

「……誰だ?」

「五月です。今は五つ子ゲームをしていないので、話し方でわかると思うのですが?」

「無茶言うなよ。いつお前の真似を姉妹がしてないかわからんだろ」

「ま…まあ、否定はできませんが…」

 

二人の前を歩く他の姉妹に目を向けながら話す風太郎につられて、五月も前の姉妹達を見ていた。

 

「はぁ……それで?何か用か?」

「そうでした。上杉君はいつから家庭教師として勉強を見てくれるのですか?試験が終わってからというもの、全然来られないじゃないですか」

「……っ!お前…今なんてっ!」

「?ですから、家庭教師としていつ来られるのかと…」

 

五月の言葉に風太郎は思わず聞き返してしまったが、それを不思議に思いながら五月は同じ言葉を伝えた。

 

(家庭教師を続けてほしいと言っている。と言うことは、五月は初日の夜に会った五月じゃない…!)

 

思わぬところで舞い込んできた情報に、風太郎は右手で口を覆い考え込んでしまった。

 

「なんなのですか、先ほどから」

「あ、ああ。悪いな、家庭教師だったな…」

「まったく。ことりさんはしっかりと家庭教師としての業務を努めていますよ」

 

(ほとんどおしゃべりで終わっていますが……)

(俺はそのことりがいるから距離を置いてるんだよ…!)

 

五月と風太郎はそれぞれの思いからか、お互いに顔を背けてしまったのだが、それを二人は気づいていなかった。

 

「ま、まあ…新学期からは始めるから安心しろ。今は俺もバイトで忙しいからな」

「はぁぁ……仕方ないですね。あなたの事情もあるのでしょうから、そこまでは言いません。よろしくお願いしますね」

 

この話はここまでといった形で五月は話を切り上げた。

そんな五月の横を風太郎は神妙な顔で歩くのだった。

 

・・・・・

 

「俺は、すでに五月から家庭教師を続けてもらうように言われた。だからお前は五月じゃない。そうだろ?」

「正解です。まさかそんなことがあっていたとは、私も甘く見ていたようですね」

 

風太郎としては見た目で見分けた訳ではないので、あまり良いことではないのだが、今はどんなことをしても見分けたいと思っていた。

 

「それと四葉もないな。あいつはお前ほど完璧な変装をできないからな」

「……正解です」

 

(ふぅー…先生が言っていた通り、あいつは嘘をつくのが一番下手だからな。あいつだったら、これだけ話せばどこかでポカしそうだ)

 

「そして二乃も違う」

「え!?」

「あいつは足の爪に塗る……ぺ、ペディ…」

「ペディキュアですね」

「そう!それだ。それを落とし損ねている。で、今確認したんだが、お前はそれを塗っていない」

 

──見た目で判断するので一つだけ情報をあげるよ

──情報っすか?

──ああ。二乃は足の爪にペディキュア……まあ、マニキュアみたいなやつだね。それを塗ったままにしてるんだよ

──よく知ってますね、そんな情報

──本人と話した時に足元を見てね…

 

(先生、助かりました!)

 

和彦からのアドバイス通りに対面している一花の足の爪を確認した風太郎は、見事に二乃ではないことを見分けることができた。

 

「正解ですが……顔の判別もつかないのに、なぜペディキュアを塗っているのが二乃と分かったのですか?」

「そ…それは……」

 

問われた風太郎は、答えることができずに目線を逸らしてしまった。

 

「はぁぁ…先生ですね。まあ、情報収集をすることも大事なことです。よしとしましょう」

「ふぅぅ……」

 

目の前の一花によしとすると言われた風太郎は一つ息を吐いた。そして、風太郎の中で残るは一花と三玖。だが──

 

「後は一花か三玖かだが…俺にはまだわからない」

「そう…ですか…」

 

そうなのだ。ここまでは、今日まで風太郎がこの旅行で経験したことや和彦にアドバイスしてもらったから分かったもの。だが、一花と三玖とはここに来てから接点も少なく、また二人の変装は完璧なために、今の風太郎では判断が出来ないでいたのだ。

そんな風太郎の様子に一花は目を見開き、手をぎゅっと握った。

 

(私…何期待してたんだろ…)

 

──上杉にチャンスを与えてやってくれないか?

 

和彦に言われてこの場を作った一花。彼女の中ではもしかしたら自分のことを見つけてくれるのではないだろうかと、淡い期待があったのだ。

だが、今の風太郎からは自分のことを見つけてくれそうにないと、一花は思ってしまった。

 

(一花と思えば一花に見える。だが、それは三玖も同じ…)

 

「……」

 

風太郎は黙ってしまった一花を見ながら、一花と三玖のどちらなのか真剣に考えていた。

 

(今ここで特定するしかない。先生や爺さんの助言なしに!俺にその資格はないかもしれない。だが!このまま終わらせるわけにはいかない!)

 

「お前さ…えーっと…俺のこと呼んでくれない?」

「!上杉君、その手にはかかりませんよ」

 

(くっ……)

 

風太郎の呼び方は五つ子で違う。以前、林間学校で五月を見つけたときもそれのお陰であったが、一花にはすぐに気づかれ、五月が普段呼んでいる上杉君で通した。

 

「徳川四天王って、酒井、本多、榊原とあと誰だっけ?」

「わかりません」

「内緒話があるから耳を貸してくれ」

「左耳ならどうぞ」

 

(ん~~~っ!なかなかボロを出さねぇ。ということは三玖…いや、女優の一花だってありえる)

 

その後も色々と風太郎が思いつく限りの特徴を見出だそうとしたが、どれも一花によって躱されていった。

 

(もうやめようよフータロー君。こんなこと意味ないよ。君では私を見つけられない)

 

一花はもう諦めに入ってしまった。風太郎が自分を見つけてくれることを。

 

「だめだ、わからん。お手上げだ」

 

そんなところに風太郎がお手上げと言って両手をあげてしまった。

 

「そう…ですよね…」

 

そんな風太郎の仕草にただただ一花は悔しさが込み上げてきてしまった。

 

「ああ。そうだ、あいつを呼んできてくれないか?」

「あいつ?」

「ほら、あいつだよ。お前らの末っ子の…(いつ)(いつ)…」

 

(ああ…そういうこと…)

 

「五月のこと?」

「ハハハハハ!かかったな!もしお前が一花であれば五月ちゃんと呼んでいたはず。つまりお前は三玖だ!」

 

してやったり、といった風太郎の態度に、一花は心の中で泣きながらも精一杯の笑顔を風太郎に見せた。

 

「へぇー…フータローにしてはやるじゃん…」

「!」

 

そこで一言文句でも言ってやろうとした風太郎であったが、何か違和感を感じた。

 

(なんだ?ここにいる五月は三玖のはず。こいつだって自分を三玖と認めている。それなのに、なんだこの違和感は……)

 

「?フータロー?どうしたの固まっちゃって…」

 

──上杉にだってあるはずさ。上杉だからこそ感じられる何かが

 

そこでまた和彦の言葉が風太郎の頭を過る。

 

ヒューーードォォーーン

 

「!」

 

そして、風太郎の目の前では花火が上がる風景が見えたのだ。

 

「お前…お前のその笑顔…」

「?どうしたの?」

「…………一花か?」

「!?」

 

風太郎の言葉に一花は目を見開いて驚いてしまった。

 

「……な…なんで…三玖って…」

 

驚いた一花はそのまま後ろを向いて、風太郎に背を向けるようにして話しかけた。

 

「いやっ、すまん。なぜか自分でもわからんが。お前の笑顔を見て、お前らと行った花火大会を思い出したんだ」

「え……?」

「懐かしいよな。あの時もお前は作り笑いをしていた…あの笑顔と今のお前の笑顔が被ったんだ……ふっ…やっぱお前って演技の才能ないんじゃね?」

 

笑みを浮かべ、皮肉っぽく伝える風太郎であったが、一花の涙腺は限界のようで、目から次々と涙が溢れていた。

 

「ヒック…ずるい…すんっ…ずるいよ、()()()()()()

 

涙を流しながら背を向けている一花を見ながら、風太郎はふとあることを思い出していた。

 

(そういやぁ、先生が無事に見分けられたら、俺から伝えた方がいいとかなんとか言ってたなぁ。たしか……)

 

「なあ一花」

「グス…なに…?」

「その…お前に関係性を聞かれたじゃないか。で、俺はパートナーだって伝えたわけなんだが……」

「すんっ…?」

 

風太郎が言葉の途中で止まってしまったために、何事かと一花は涙を流しながら振り返った。

 

「あー……んんっ…俺とお前らは教師と生徒っていう関係でもあるが……まあ、なんだ……友達……だとも思っている…」

「とも…だち…」

「そのぉ…だから…困ったことがあれば言えよ。友達として、聞いてやる」

 

風太郎が腕を組んで少しそっぽを向きながらそこまで伝えるも、一花からは何も返答がなかった。そんな一花の様子に風太郎は何かまずかっただろうかと不安になり、一花の方を見る。その一花は、下を向いたまま何やら考え込んでいるようだった。

 

(あれーー?先生、大丈夫なんすよねぇ?)

 

「ことりは…」

「え?」

「ことりは……フータロー君にとって私たちと同じ友達?」

 

一花は顔を上げたかと思うと、そんな言葉を風太郎に投げかけた。

 

「まあ…そうだな。お前らと変わらんな」

 

何を聞きたいのか分からない風太郎は、顎に手を添えて考えるように伝えた。

 

(そっか……じゃあ、もう気負わなくてもいいんだ…!)

 

一花はそう自分に言い聞かせると、ウィッグを取り風太郎に抱きついた。

不意をつかれた風太郎は、そのままお腹にしがみついた一花と一緒に後ろに倒れ込んでしまった。

 

「イタタ…お前なんだよ急に……」

 

顔だけ起き上げて一花の方を見るも、その一花は風太郎のお腹あたりに顔を埋めていた。だか、次の瞬間には顔を上げて、先ほどとは打って変わった笑顔を風太郎に見せていた。

 

「私ねフータロー君。君のことが大好きだよ♪」

「へ?」

「ことりにも誰にも負けない。絶対にフータロー君は私に振り向かせてみせるから、覚悟しててよね」

 

最後はウィンクを見せる一花。

当の風太郎はと言うと──

 

(はあぁぁぁーーーーーー!?)

 

心の中で絶叫をあげているのだった。

そんな二人の様子を、襖越しに声を聴きながら見守っている者がいた。その者のスマホに着信が入る。

 

ヴー…ヴー…

 

『お兄ちゃんどこいるの?朝食食べちゃうよ?』

 

(はいはい…さてと……上杉よくやりました。まあ、これからの方が大変だろうけどね)

 

ふっと笑みを浮かべた和彦は、静かにその場を立ち去るのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回のお話で風太郎がとうとう一花を見分けられました!
どんなところで見分けようか悩んだのですが、やはり風太郎と一花で言えば、花火大会で風太郎が一花の笑顔を指摘したところかなと思い、そこで見分けることにしました。
そして、勢いのまま一花も風太郎に告白です。ここからどうしよう…とも考えている訳ですが、まあどうにかしていきます。
今更ですが、和彦は女の子三人と同じ部屋に泊まってる訳で……羨ましすぎます!

次回は、原作でもあった旅行最終日のお風呂のお話を書こうかなと考えております。

次回の投稿は10月5日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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