少女と花嫁   作:吉月和玖

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98.おはようのキス

~ことりside~

 

「ふわぁあ~~……」

 

朝、起き上がったことりは上に伸びをしながら横に目をやった。

 

「ふふふ…」

 

ことりの目線の先では和彦がスヤスヤと眠っている。

昨晩は旅行の間和彦の隣に、もとい和彦の布団で一緒に眠れなかったことりが、和彦の部屋で眠ることになったのだが、ことりの押し切りもあり結局同じ布団で二人は眠ったのだった。床に敷いた布団が虚しく見えてくる。

そんな訳で、起き上がったことりの横に和彦が眠っているという状況なのだ。

 

(無防備なお兄ちゃん♪そぉーっと……)

 

チュッ…

 

起きないように用心しながらことりは和彦の唇にキスをした。

それでさらに嬉しくなったことりは、上機嫌なまま持ってきていた服にその場で着替え部屋を出ていくのだった。

 

チチチチ……ボン…

チャカチャカチャカ……

 

部屋を出た後のことりは、洗面台で洗顔などを済ませキッチンで朝食と和彦用の弁当作りに取りかかった。

 

「おはようことり、早いのね」

「あ、おはよう飛鳥。四人分の朝食だからね。どれくらいかかるかわかんなくって」

「手伝うわ」

「ありがと」

 

既に身支度などを終えている飛鳥がことりの隣に来て料理の手伝いを始めた。

 

「そう言う飛鳥だって早いじゃん」

「私も同じこと考えてたから。私がいる間はゆっくりしてもいいのよ?」

「ふふっ…普通逆でしょ。飛鳥はお客様なんだからこういうのは私の役目だよ」

 

二人は福岡にいる頃からキッチンに並んで料理をしていたので、お互いに息ぴったりに朝食とお弁当作りを進めていた。ことりがお弁当を作る横で、飛鳥がお味噌汁を作るといった形である。

 

「それより、今朝は妙にご機嫌ね?何かあったのかしら?」

「えー?そりゃあ、朝からお兄ちゃんの寝顔が見れたし、おはようのキスもしてきたからね」

 

えへへ、と頬を緩ませながらご機嫌な理由をことりは飛鳥に伝えた。

 

「……ちょっと待ちなさい。あなたって風太郎君のことが好きなのよね?」

「うん!大好きだよ」

「じゃあ、なんで和彦さんにキスしてるのよ。ああ、ほっぺにってこと?」

「ううん。唇にしてきたよ。もちろん、起こさないようにしたけどね」

 

飛鳥の言葉に気にしない風を装って話すことりに、飛鳥は軽い頭痛がしてきた。

 

「あなた、和彦さんを諦めた訳じゃないの?」

「え~?そんなこと言ってないよぉ。今でもお兄ちゃんが大好きだよ♪だから、飛鳥はライバルだね」

 

屈託のない笑みでそんな風に言われた飛鳥は、ため息混じりに朝食の準備を続けるのだった。

 


 

「じゃあ、いってくるわ」

 

朝食を食べ終わった僕は仕事に行くために靴を履いた後に振り返った。

そこには、ことりと飛鳥と結愛の姿があった。

 

「いってらっしゃいお兄ちゃん。帰りは遅くなりそう?」

「そうだね。年度末だしちょっと遅くなるかもね。遅くなりそうだったら連絡するよ」

「わかった」

「気をつけていってきてくださいね、和彦さん」

「いってらっしゃい、和彦さん」

 

ことりに遅くなるのか聞かれたので、遅くなりそうなら連絡すると答えた。いつものやり取りだ。その後の飛鳥と結愛の言葉にも軽く手を上げて返して玄関を出た。

 

「おっ。おはよう一花。朝から仕事かい?」

「おー、先生。おはよう」

 

エレベーターホールまで行くと、ちょうどエレベーターを待っていた一花と遭遇した。方向も同じなため、途中までは一緒に行くことにした。

 

「春休みだってのに大変だな。まあ、女優業に春休みはないか」

「あはは、先生もおんなじでしょ?」

「まあそうなんだけどさ。無理はすんじゃないよ」

「わかってる……あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

「ん?何?」

 

また上杉の事だろうか。そういえば、上杉が見分けられたことは軽く報告されたけど、告白したことまでは聞いてなかったんだよなぁ。僕は現場にいたから知ってるんだけどね。

 

「……みんなにバイトしてもらおうと思ってるんだけど、どう思う?」

「バイト?」

 

予想していた内容ではなかったので、聞き返してしまった。

 

「うん……実は、私って今は収入のことだけを考えてて、仕事を選んでられなかったの。でも、そろそろ自分のやりたい仕事に挑戦したくって。そうなってくると、収入も安定しないかもって…」

「なるほど。そうなると、家賃や光熱費やらを払えないと。それで他の姉妹に助けてもらう、と。まあ、いいんじゃない」

「ホントに?成績大丈夫かって反対されるかと思ったよ」

 

ちょうど信号が赤になったので立ち止まると、驚きの表情を一花は向けてきた。

 

「そりゃ、成績のことは気になるさ。悪くなるようなら、バイトを辞めてマンションに帰るっていうのも良いかもね」

「むっ…!そうきましたか…」

「ふふっ…でも、一花の挑戦する気持ちにはすごく感心してるよ。応援してるから、何かあったら言いな。何しろ僕は君達のお兄さんなんだからね」

 

笑みを浮かべながら一花の頭をポンポンと撫でてあげると、目を見開いて一花はこちらを見てきた。それでもすぐに、いつもの笑顔に戻ったので少しは気持ちが通じたようだ。

 

「頼りにしてるよ。お兄ちゃん♪」

 

そして、バイトについては姉妹に相談することになった。そこで一花は、家賃や光熱費などを五等分することを思いつき、払えない人はマンションに強制退去させるとのことだ。

やることなすこと極端である。

 

・・・・・

 

「ん……ちゅっ…はぁ……」

 

次の日の朝。なぜか口元がぬるぬるする感触があり、目を開けると、目の前にはドアップで飛鳥の顔があり、キスをして一生懸命自身の舌を僕の口に入れようとしていた。

 

ガシッ…!

 

「ひあっ…!」

 

そんな飛鳥の頭を掴んで僕の顔から引き剥がした。

 

「おはよう飛鳥。お前は朝から何をしているんだ?」

「あら、おはよう和彦。えっと…本当は軽くキスするつもりだったんだけど…つい、ね…」

 

僕から目線を外すように飛鳥は答えた。まあ、本当に最初は軽くのつもりだったのだろう。そこもまずおかしな話なのだが。

ただ、こいつは一度キスを始めるとスイッチがついたようにどんどん激しくなるからなぁ。将来が心配だ。

そこでもう一つ気づいたことがあった。

 

「後お前……」

「なに?」

「なんで服着てないんだよ!後下着も!」

 

顔を遠ざけたことで布団の中が一瞬見えたのだが、こいつはあろうことか裸の状態でいるのだ。

 

「………私って普段は服着ないで寝るのよ」

「福岡では着てただろ」

 

目を合わせないように話す飛鳥に、じっと目線を剃らさずに追及した。

 

「…だって…この方があなたが喜ぶと思って…男の人は女性の裸が好きなのでしょ?」

 

毎回思うのだが、そういう情報はどこから仕入れてくるんだ?

 

「分かったから。その意見は否定せんけど、あまりそういうことするんじゃないよ。ほら、向こう向いとうけんそのうちに服を着な」

 

そう言って寝返りをうち、飛鳥を見ないようにした。

 

「はぁ…仕方ないわね」

 

パチッとする音など着替えしている音が生々しくて、一気に目が覚めてしまった。ある意味いい目覚ましではあったが…

 

「紳士的なあなたも好きよ……ちゅっ…」

 

着替えが終わったのか、僕の頬にキスをした飛鳥はそのまま部屋を出ていくのだった。

 

「はぁぁ…起きるか…」

 

ベッドから起き上がった僕は伸びをしながら床に敷かれた布団に目が行った。

 

「マジで敷くの意味なくないか」

 

旅行から帰って、ことりと飛鳥が順番に僕の部屋で寝ているが、床の布団に寝てくれないのだ。

 

「なんか交代交代で僕の部屋で寝るみたいだから、今日は結愛だよな。結愛はちゃんと床の布団で寝てくれるといいんだけどなぁ」

 

淡い期待を持ちながら、洗顔などの用意のために僕も部屋を出ていくのだった。

 

・・・・・

 

バサッ…

 

数学準備室で仕事をしていたところに、五つ子の一花以外が訪ねてきたので、中に通した。勉強でもしに来たのかと思っていたら、テーブルに何枚ものチラシを出したのだ。

うーん、と唸りながらソファーに座る四人の傍に行き複数枚あるチラシのうち一枚を取って中身を見た。

 

「なんだ、バイト始めるんだ」

「そうなのよ。昨日、一花が仕事から帰ったらいきなり家賃や光熱費なんかを五等分にするって言い出したのよ」

「しかも、払えなかったらマンションに強制退去…」

「という事で、どのバイトが良いかみんなで考えようということになったんです」

「どのみち働こうとは思っていたので、求人募集は集めてはいたのです」

 

なるほど、それでこの量か。しかし一花も行動が早いな。昨日のうちに姉妹に相談……じゃないな、伝えるなんて。

 

「コンビニ…新聞配達…みんな大変そう」

 

じっとチラシを見ながら三玖が呟いた。まあ、楽な仕事はないわな。ただ、そのチョイスは大変なバイトなやつだな。

 

「全員で同じところでできたら安心できるのですが…」

「そんなに募集してる職場はないわ。それに得意なこともそれぞれ違うんだし」

 

五月が全員で同じ職場でバイトをしたいと望みを伝えるも、二乃が無理であると伝えた。五月の希望も分からんでもないが、四人も募集しているところなどないだろう。

 

「と言うかだな。家でやりなさいよ、家で。何でここでバイト決めをやってるかなぁ」

 

持っていたチラシをテーブルに戻して、途中までしていた仕事を再開するために机に戻った。

 

「あら。私は別にバイトを決めるために来たわけじゃないわ。和にぃに会いたくて来たんだから」

「一人で学校に行こうとしていた二乃を私が捕まえた」

「ここに来るには制服に着替えないといけないのがネックねぇ。すぐに行き先がバレたわ」

 

なるほどな。それは三玖は許さないだろう。

 

「そして、三玖も制服に着替えたところに私たち二人も気づいて、どうせなら先生にも相談してみようと四葉が提案したので今に至ります」

「なるほどね」

「いやー、先生ならそういうバイトとかの経験もありそうでしたので」

「ほら、生徒の相談に乗るのも教師の仕事でしょ?」

 

申し訳なさそうな顔で話す四葉と違い、にんまりと笑って二乃は話しかけてきた。

そう言われると何も言い返せない。しかしバイトねぇ…

 

「う~ん…僕から言えるのは、さっきも二乃が言ってた通り自分の得意なことや好きなことで選べば良いんじゃないかな。僕は本が好きだったから本屋にバイトしてて、途中から教師を目指すために家庭教師とかやってたかな」

「先生も家庭教師をされてたんですね」

「ああ。大学の三回生辺りからかな。ちなみに高校ではバイトしてなかったな」

 

ま、高校まではそれどころじゃなかったし。

 

「なるほど…私もバイトをするからには、自分の血肉となりえる仕事をしたいのですが…都合よくそんなもの見つかりませんね…」

「血肉って…まかないが出るってこと?」

「私を上杉君と一緒にしないでください!」

 

すまん五月。僕も二乃と同じこと考えてたわ。

 

「まあ、でも好きなことで選ぶっていうのは和にぃに同感だわ」

「あ!上杉さんと言えば、こんなバイト募集を見つけたよ」

 

そう言って四葉が一つのチラシを皆に見せた。

 

「ここって…フータローが働いてるケーキ屋さん?」

 

上杉のってことはREVIVALか。

 

「そういえば、店長さんが新しいバイトの子を探してるって言ってたっけ」

「このお店はたしか先生のよく行くお店でしたね。お裾分けも頂いてましたし」

「ああ。料理が得意な二乃なんかちょうど良いんじゃない?」

「そうねぇ…上杉がいるっていうのが釈然としないけどね」

 

迷ってる風には言っているが、多分心の中ではもう決めているのだろう。後は……

 

「後、向かいのこむぎやっていうパン屋も常連でね。朝食のパンはそこで買うことが多いんだよ。確かそこもバイト募集してたな。そっちは三玖はどうかな?パン作りの経験も出来るかもよ」

「せ…先生がよく買ってるの?」

「ああ。仕事帰りにね」

「ふーん…」

 

僕の答えに笑みを浮かべながら返事をした。

 

「帰りに見に行ってみるよ」

 

うん。これで二人が決まったかな。

 

「私はここにします。お掃除のバイトです!普段から一花の部屋の掃除をしているので」

 

ああ、例の汚部屋ってやつね。まさか一花が片付けをしない人間とはね。初めて聞いた時は信じられなかったが、今の部屋にお邪魔をした時に寝室を見たら、一花の寝ている場所だけが散らかっていたからな……

まあ、何にせよこれで四葉も決まりだな。後は……

 

「………」

 

まだ決まっていない五月だけが、テーブルの上に散らばるチラシをじっと見ていた。

 

「ま、今すぐに決めないといけない訳じゃないんだからじっくりと決めていけば良いよ」

「はい……」

 

血肉になるような仕事ねぇ。まかないではないのなら、自分の経験となるような仕事をしたいということだろうか。

となると、五月は教師を目指してる訳だから家庭教師や塾講師となってくる。が、今の五月のレベルでは人に教えるのも難しいだろう。多分、本人もそこは理解しているから踏み出せないでいるのだろう。

塾…塾ねぇ…誰か塾関係で知り合いがいればいいんだが。

その後は、その場で四人の座談会が始まり、僕は途中で相槌を打ちながら自分の仕事を続けるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は、ことりと飛鳥の朝の様子と五つ子のバイト決めのお話を書かせていただきました。
ことりも飛鳥も新婚さんのような朝のやり取りですね。羨ましいです。
五つ子のバイト決めは和彦の数学準備室で行わせていただきました。普通だったら駄目なんだろうなぁ…

さて、次回はちょっと結愛を中心に書かせていただこうかと思ってます。

次回の投稿は10月20日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


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