少女と花嫁   作:吉月和玖

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99.アピール

「ただいまぁ~」

 

今日は比較的早く帰れた僕は玄関で靴を脱いでいた。

するとそこに、駆け足で飛鳥が出迎えてくれた。

 

「おかえりなさい。お仕事ご苦労様」

 

その飛鳥は、夕食の準備中なのだろうかエプロンを着けたまま笑顔で迎えてくれた。

 

「鞄持つわよ」

「え?ああ…ありがとう」

 

部屋まで持っていくので別に自分で持っても良かったのだが、笑顔で言われれば無下には出来ない。預かった飛鳥も上機嫌そうだから正解だったのだろう。

 

「どうする?夕食もすぐに準備できるけど、お風呂先に行く?」

「そうだね。お風呂先に行こうかな。ことりと結愛は?」

 

なんだろう。帰ってきた時にする普通の会話なのだろうけど、妙にむず痒くなってきた。なので、話題を変えてみた。

 

「二人は部屋で荷物整理してるわ。昼間は三人で遊んできたから、夕食までは整理しようって話してたから……ふふふ」

「どうした?」

 

話の途中で急に飛鳥が笑い出したので、気になって尋ねた。

 

「ううん。こういうの良いなって思っただけ。なんだか新婚さんみたいなんだもの」

「うっ……」

 

ちょっと考えていたことでもあったので言葉に詰まってしまった。

 

「ふふっ…なんだったら…お風呂…一緒に入る?」

 

にんまりと笑いながら飛鳥が提案をしてきた。それを僕は飛鳥の頭を軽くチョップしながら答えた。

 

「阿保か。鞄、部屋に持ってきてくれよ」

「もう、つれないんだから」

 

飛鳥の横をネクタイを緩めながら通りすぎると、飛鳥もそれに続いた。

お風呂から上がると、ことりと結愛の片付けも終わっていたので、四人で夕食を囲んだ。

 

「へぇ~、三玖たちバイト始めるんだ」

 

そんな夕食の場で今日あった出来事を話した。

 

「一花が自分のやりたいことに挑戦したいんだってさ。それで家賃や光熱費なんかを五等分だってさ」

「そのバイトのお話もいいのですが、なぜ和彦さんのところで四人は話し合っていたのですか?」

「さあ?暇だったんじゃない」

 

向かいで夕食を食べている飛鳥の質問に惚けながら答えた。本当は二乃が僕のところに来るところを三玖が発見しての流れだったらしいけど、まあ言わなくて良いでしょ。てか──

 

「二乃。もしくは三玖ですね」

 

ほらね。飛鳥なら気づくと思ったよ。

 

「そっか。お二人が和彦さんのところに行きたくて。いいなぁ。私まだ制服ないから行けないんだよなぁ」

 

飛鳥の隣で夕食を食べている結愛が、五つ子は僕のところに来れることを羨ましそうに呟いた。

 

「あなたはまだ来月から行けるのだから良い方でしょ。私なんて、和彦さんの仕事場に行けないんだから」

 

羨ましそうに飛鳥が結愛に伝えた後、今日の夕食でもある魚の煮付けを口にした。

そんな感じで、その後もいつものように雑談を交えながら夕食の時間を過ごすのだった。

 

・・・・・

 

今日の僕の部屋での睡眠は結愛。

一応、床に敷いている布団を促したのだが他の二人も一緒に寝たのなら自分もと拒否された。

さらに困るところと言えば、結愛は抱きつく癖があるのか、僕の腕を抱き枕のようにしてしがみついてくるのだ。

 

「……結愛さんや。その……寝にくくない?」

「ううん。和彦さんの傍にいられてぐっすり眠れそうです。ふわぁ~~…」

 

僕の質問ににっこりと答えた結愛は眠そうに欠伸をしている。

 

「眠いなら、そろそろ寝ようか」

「うーー……まだ和彦さんとお話ししたいよぉ……」

 

言葉とは裏腹に結愛はうとうとしている。

 

「これからは一緒に暮らしていくんだ。今じゃなくても話くらい出来るだろ?」

「うーーん……じゃあ、頭撫でてぇ…」

「はいはい」

 

結愛の希望通りに空いた手で結愛の頭を撫でてあげた。そんな結愛は満足そうな顔をしている。

飛鳥のお願いからしてみれば結愛のお願いなんて可愛いものだ。

暫く結愛の頭を撫でていると、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

「すぅー…すぅー…」

 

ようやく寝たか。今日もことりと飛鳥の三人で色々と遊び回ったと聞いている。疲れが出たのだろう。

かくいう僕も仕事で疲れているから、すぐに寝てくれたのは助かっている。

そんな考えをしていた僕も、すぐに眠りにつくのだった。

 

次の日の朝。朝食を作る担当も、なぜか僕の部屋で寝た人がすることになっており、今日は結愛が張り切って作っていた。

今日のメニューは、オーソドックスに焼き鮭に卵焼き、そしてご飯に味噌汁だ。飛鳥の前以外には納豆も置かれている。

 

「うん。美味しいよ。卵焼きもうちの味付けと同じだね」

「ありがとうございます。和彦さんのお母さんに吉浦家の味付けを一通り習いましたので」

「なるほどねぇ。お母さん喜んでたでしょ?」

「うん。いつでもお嫁さんに来ていいからね、て言われたよ」

「ゴホッ…ゴホッ…」

 

ことりの言葉に嬉しそうに結愛が話しているのだが、あんの母親はぁ~~。

立花家の両親が僕を気に入っているように、うちの両親も飛鳥と結愛のことを気に入っている。酒の席でもお互いの子同士で結婚出来れば良いと話しているくらいだ。

 

「あらあら。いつの間にそんなことしてたのかしらね」

「ふふん。和彦さん、お姑さんとの関係は良好だよ」

「いや……そもそもまだ結婚すらしてないんだが…」

「まだってことはいつかしてくれるの?」

 

おう……朝から結愛は攻めてきますなぁ。目をキラキラしながら隣に座っている結愛から詰め寄られている。

 

「五人の内誰かとは結婚までいくかもしれないけど、それが結愛だとはまだ決まってない。そういうことでしょ?」

「わかってるよぉ…」

 

飛鳥が動揺を見せず、至って冷静に話しているので、結愛は頬を膨らませながら朝食を続けた。

 

「まあ、その五人以外の人の可能性だってあるよねぇ」

「「──っ!」」

 

ことりがニヤニヤしながら話すものだから、朝食の手を止めた飛鳥と結愛はこちらを見てきた。

こいつ面白がってるな。

ことりはというと、気にしないように味噌汁を飲んでいる。

ちなみにことりって選択肢はないからな。

 

「和彦さん…その…まだ他にも好意を寄せられている方がいるんですか?」

「いや、現時点で僕への想いを知ってるのは五人だよ。それ以外はまだないから」

 

心配そうにこちらを見てきた結愛に、正直なことを伝えた。

 

「まだ。と言うことは、これからあり得るということでしょうか?」

「お前なぁ…そりゃあ、自分で言うのもなんだけど、他に告白してくる人がいるかもしれないだろ。それに......」

 

飛鳥の問い詰めに朝食を食べながら答えた。

 

「それに、なんです?」

「......これは君たちに言う事じゃないけど、もしかしたら他に好きな人ができるかもだろ」

「そ...それは...」

「そうかもですけど...」

 

僕の言葉にどこか沈んだように箸が止まってしまった飛鳥と結愛。やはり言うべきではなかったのかもしれない。

 

「そんなもしもの話なんて気にしてもしょうがないんじゃない?」

 

そこに一切動じず朝食を食べ続けていたことりが二人に声をかけた。

 

「私だったら、そのもしものことが起きないようにアピールしていくけどね」

 

僕の方にウィンクをしながらことりは続けて宣言をした。

それは上杉を見通してなのかそれとも...

 

「ふふっ、そうね。私としたことがつい動揺しちゃったわ」

「そうだよね!うん、私も頑張る」

 

ことりの言葉に勇気づけられたのか、飛鳥と結愛の二人は決心したような顔で朝食の続きを食べ始めた。

なんか余計に発破かけちゃったような...

そんな気持ちはすぐに現実に起きることになった。

 

「じゃ、行ってくるわ。今日も三人で出かけてくるの?」

「いってらっしゃい。うん。今日は三玖たちのところに行ってるよ。一応私も家庭教師としての仕事をしないとだからね。飛鳥も一緒に教えてくれるんだって」

 

飛鳥と一緒にお皿などの洗い物をしていることりが答えた。

高校は違えど学年一位の飛鳥だ、五つ子達にうまく教えてくれるだろう。

 

「そっか。飛鳥、皆のことよろしくね」

「ええ。任されました。いってらっしゃい」

 

キッチンの二人に声をかけた僕は玄関まで来て、後ろを付いてきていた結愛から荷物を預かった。

 

「ありがとね」

「いえ。あ、ネクタイ少しだけ曲がってますので綺麗にしますね」

 

そう言うと、結愛は僕のネクタイに手を伸ばして直してくれた。

まっすぐになったのか、満足気な顔でネクタイを見ていたのだが、ある一点で目が止まりじっとそこを見ている。

 

「どうした?」

「い、いえ。その...このネクタイピンですよね、五月さんから贈られた物って...」

「よく知ってるね。前からネクタイピンはそんなにしなかったんだけど、せっっかく貰った物だしね。それにデザインも気に入ったから身につけるようにしてるんだよ」

「そう...ですか」

 

?何か変な事を言っただろうか。結愛が何かを考える素振りを見せている。と...もう出ないとな。

 

「じゃあ、行くね」

「あ......忘れ物です!」

「え?何か忘れてたかな...?」

 

玄関のドアを開けようとしたところで忘れ物があると声をかけられたので、振り返って結愛を見た。すると──

 

ちゅっ...

 

「は?」

 

結愛から頬にキスをされたのだ。

 

「えっと...」

「...いってらっしゃいのキスです...唇はまた今度してくださいね」

 

そして、結愛のはにかんだ笑顔でそのまま見送られるのだった。

 


 

〜結愛side〜

 

和彦が玄関を出ていくのを手を振って見送った結愛は、ドアが閉まるや否や両手で顔を覆い一人恥ずかしさで顔を赤くしていた。

 

(うーーー...恥ずかしいよぉ。キスは前からしたいって思ってたけど、ほっぺだけでこんなに恥ずかしくなるなんて思わなかったよぉ。これで唇なんてしたらどうなっちゃうんだろう...)

 

「でも、もっとアピールしていかなきゃだもんね。うん」

 

そして一人玄関で決意をするのだった。

その後、ことりと飛鳥の片付けも終わったので、五つ子のいる隣の部屋に三人は向かった。

まだ高校も入学していない結愛が行ったところで何も出来ないかもしれないが、一人で待っているよりかはマシだと思い、ことりと飛鳥に付いてきたのだ。だが──

 

「すごいです!この問題わかるんですね」

「はい。数学だけで言えば、高校二年生のレベルまで勉強していますので。あ、次の問題も間違えてますよ四葉さん」

「はうっ...!」

 

四葉の隣に座っていた結愛がちょうど数学の勉強をしていた四葉に間違っているところを指摘したのだ。

 

「へぇ〜、姉妹揃って頭良いわね。何?数学が得意って和にぃの影響?」

「はい。和彦さんの部屋にあった参考書を見ていたら、自分も同じくらいになりたいって思いで勉強しました」

「部屋って、先生の実家?」

 

生き生きと話す結愛に対して、三玖が質問をした。

 

「はい。たまに和彦さんのお母さんと一緒に部屋の掃除をしていましたので、その時に参考書を見つけたんです」

 

(行ってみたいわね、和にぃの実家)(先生の実家どんな感じなんだろう...)

 

結愛の話を聞きながら、二乃と三玖は和彦の実家に思いを向けていた。

 

「そうだ。皆さんに聞いてみたかったんですけど、キスってされたことありますか?」

『──っ!』

 

突然の結愛の言葉にその場にいた全員が驚きの表情になった。

 

「キ...キキキ...キスッ...ですか?」

「五月。あんたは動揺しすぎよ」

「しかし!」

「五月したことあるの?」

「えーーー!?なぜそうなるのですか!」

 

一番動揺している五月にツッコミを入れた二乃であったが、これに更に動揺してしまった五月に三玖は質問を投げかけた。

 

「だって一番動揺してたから…」

「誰だって動揺しますよ!」

「ど…どーどー…五月。落ち着いて」

 

三玖の発言に尚も動揺を隠しきれない五月を四葉がなんとか宥めようとしている。

ちなみに、こういった話を聞いたら盛り上がりそうな一花は仕事のために今はいない。

 

「ま、五月はほっとくとして。そうねぇ、やっぱ好きな人とのキスは女の子の憧れよねぇ」

「少し…わかる…」

「へぇ~」

 

うつむき加減に二乃の言葉に同意した三玖に、二乃は面白そうな顔で見ていた。

 

「それにしても、どうしたの結愛?いきなりそんな質問をしてくるなんて」

「え~、結愛ちゃんだって恋する女の子なんだよ。気になったりするよねぇ」

「う…うん」

 

中野姉妹とは逆にいつも通りなことりと飛鳥。そんな二人の様子を見た結愛はあることを確信した。

 

「二人はしたことあるんだ、キス」

「「え!?」」

 

結愛の発言にことりと飛鳥は固まってしまった。

 

「だって二人ともいつも通りなんだもん。それってしたことあるからだよね?」

「あはは…残念ながら私はしたことないんだなぁ。五月の慌てっぷりを見て落ち着いてるだけだよ」

「う~…ことりさんまで酷いですぅ」

「ごめんごめん」

 

ことりの言葉に五月が文句を言ってきたので、それに対してことりは笑いながら謝った。

実際にはことりは和彦とキスをしている。どれも軽くのものではあるが。しかし、この場で打ち明けるのも良くないと判断をして、経験したことがないと発言したのだ。

 

「そっか...じゃあ、お姉ちゃんも一緒?」

「そうねぇ……私は経験したことあるわよ。もちろん和彦さんと」

『──っ!』

 

飛鳥が自分の唇に人差し指を付けながら発言したことで、その場には激震が走った。

 

「う、嘘でしょ」

「本当よ二乃。昨日の朝もおはようのキスしたしね。まあ、調子に乗って和彦さんに怒られもしたんだけど…」

 

軽いキスではなくディープキスまでしようとしたことと裸でいたことは、飛鳥も流石に話さないようにした。

 

「それで?結愛は何が聞きたかったの?」

「その…私も今朝、和彦さんのほっぺにいってらっしゃいのキスしたんだけど…」

「あら。私たちのいないところでやるわね」

「おー、積極的だぁ」

 

結愛の発言に飛鳥とことりは落ち着いたようにしているが、中野姉妹の四人はどこか落ち着かない様子で聞いていた。

 

「本当は唇にしたかったんだけど、恥ずかしくって…だからそういった恥ずかしさはなかったのかなって」

「ふむ…なるほどね。私はなかったわね。和彦さんとキスがしたい。その気持ちでいっぱいだったから」

「そっかぁ…」

「ちなみに。和彦さんとキスがしたいのであれば、積極的にいけば大抵向こうから折れるから。後は、不意打ちが効果的ね」

積極的に…

不意打ち…

 

飛鳥の言葉に二乃と三玖はボソッと口にしたのだが、ちょうどその二人に挟まれている飛鳥には聞こえてきて、満足そうに笑みを浮かべていた。

 

「あ……あの…そろそろ勉強の続きをしませんか?ことりさん、ここを教えてほしいです」

「いいよ。うーんと、ここはねぇ──」

 

こういった話は苦手なのだろう。五月が静かに手を挙げて勉強の続きをお願いした。

 

「ふふっ…じゃあ、私たちも続きをしましょうか。二乃と三玖はわからないところない?」

「私は今のところ大丈夫よ」

「じゃあ私…ここの英文の訳教えて」

「ええ。ここは、さっき教えた文法を使うの──」

 

ことりが五月を教え始めたのを見て、キスの話はここまでと考えた飛鳥は、両側にいる二乃と三玖に分からないところを聞いて教え始めた。

 

「みんな切り替え早いなぁ…す、すみません…結愛ちゃん、また数学教えてくれますか?」

「え?はい!いいですよ」

 

そして、結愛は四葉に数学を教え始めた。

そんな結愛は教えながらある人物を見ていた。

 

「ふぅ……」

 

その人物は一息吐くと、そのまま自分の勉強に取り組み始めるのだった。

 

 




今回の投稿も読んでいただきありがとうございます。

今回は結愛が中心となったお話です。結愛も結愛なりにどうアピールしていこうか考えているようですね。飛鳥みたいにいきすぎなければ良いのですが…

さて、この『少女と花嫁』もいよいよ次回で100話に突入です。次回からは新学年のスタートを考えています。

次回の投稿は10月25日を予定しております。
次回の投稿も読んでいただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

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