―家に帰ると、同棲中の恋人が包丁を持って立っていた―







注釈
1:当作品はVtuberの白雪いろは(@shirayuki_iroha)氏のツイートより作成した小説です。(URL:https://twitter.com/sirayuki_iroha/status/1653658562609160192?s=20
2:当作品は別個人サイトでも掲載されています。(URL:https://www.fujirobert.net/cgi-bin/ssmaker/c3view.cgi?env_no=1&mode=ssview&ssid=18&page=1&muse=0&img=0&comm=&tate=

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プラナタリア・エクスチェンジ

5月の半ば、もう梅雨も近いこの季節に、俺は10年来の友人と会っていた。

女ではあるが、特にそういった関係であったことも無い、普通の友人である。

彼と話をしていると、互いの恋人の話になった。よくあることだ、恋バナなんてのはいつであっても話のタネにはちょうどいいだろう。

彼女のターンが終わり、「お前の方は?もう1年だろ、何か進展とかあったのか?」と聞いてくる。

彼女に促されるままいつもの恋人の様子ややり取りなどについて話していると、彼の顔は少し暗くなってきた。「どうした?」と聞くと「なんでもない。ただその、かなり仲がいいんだな…」と少し引いた様子で返される。「そんなこともないさ」

そう答えつつも、確かに少し、愛が重いところもあるのかな、などと思案する。

そのあとは特に変わった様子も無く、時間は過ぎて行った。

 

 

 

「それじゃ、またこんど」

「あぁ、また」

短く言葉を交わし、分かれる。さて、家に帰ろう。愛する彼女が待っているんだから―

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ゆーくん」

家のドアを開けた時、そこにいたのは包丁を持った美沙―つまり俺の恋人だった。いつものようにあだ名で俺を呼ぶ彼女の眼は、いつものようにどこまでも透き通ったモノではなく、暗く淀んだモノになっている。

「…どこ、いってたの?」

そう問いかけてくる彼女の声は何か、狂気をはらんだようで。少し背筋が冷えたが、そんなことは表に出さず友達とメシ行ってた、と答える。

「友達…?ただの友達なの…?」

「うん、小学生のころからの幼馴染」

「ふーん…」

彼女はうつむくと、ブツブツとこちらには聞こえない声で何かを呟く。

「…じゃぁ、じゃあさ、なんでゆーくんから、他のメスの匂いがするの?」

「いやメスって……まぁそりゃ女の子だったんだから、当たり前でしょ」

「…へぇ…やっぱり…そっか」

そう呟くと彼女は顔を上げた。彼女の顔はヒマワリの造花のような、明るい笑顔だった。

肩で息をする彼女は、やがて言った

 

「プラナタリアってさ…身体を切り刻んで分裂したときに、その切り刻まれたパーツごとに脳を作るんだってさ―」

 

「―そのとき、新しく生み出された脳って元の個体の記憶とかを引き継ぐらしいの」

 

なんでそんな話を―そう思った時にはすでに、彼女が俺を押し倒して馬乗りになった後だった。

 

「だから、さ。ゆーくんの身体の一部をわたしに取り込めばさ、ゆーくんと一緒になれるよね!?そうすればずっとずっと、ずぅぅぅぅぅっとわたしに夢中になってくれるよね!?わたしの愛をぜーんぶ感じてくれるよね!?!?」

 

彼女の声にも表情にも、もう正気なんてものは無かった。

 

「ごめんね、ゆーくん。でも、仕方の無い事なの。これも全部、ゆーくんとわたしの幸せの為だから」

 

彼女はそう言って、俺の左の薬指を切り飛ばし、呑みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでが俺の記憶。一度気絶したのだろうか、閉じられていた目を開ければ―

 

 

 

―左薬指の無い“俺”が“俺”に馬乗りになられていた―

 

 

あぁ、どうやら彼女の言っていたことは、本当だったらしい


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