アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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冬待つアオの午後 -鹿野千夏の場合-


 冬色も深まりつつある十一月の街を女三人連れ立って、さてどうしたものか。

 私だってしないといけない事はあるけど、親友のためだからそっちは後回し。我ながら面倒見の良い事で、夢佳の世話を焼いてあげるのを優先してあげているわけだ。

 どうも危なっかしいというか、夢佳はただでさえひねくれてるのに色々有りすぎて折れ曲がった螺旋階段みたいになってるからなぁ……。どっかで支えてあげないと不安だ。いやまあ私も花恋に同じようなこと言われてるけどさ、うん。

 事の始まりは夢佳が送ってきたLINE。そろそろクリスマスの予定を考えないといけないから、相談に乗ってくれとかそんなのだった。

 クリスマス、クリスマスねぇ。そう言えば夢佳も彼氏持ちだ、時期的にはデートとかプレゼントとか考えだしてもおかしくない。むしろ私もそろそろ考えないといけないんだよね、実際。なんせ今や私は一人暮らし、大喜くんと過ごす時間も長くとれる。その分プランは練らないと、ね。

 じゃあ今度の週末に、と待ち合わせを決めて現在こうして漫ろ歩き中。

 とりあえずファミレスでも入って作戦会議だな、集まってから勢いだけでウロウロし過ぎだ。ノープランでこれ以上歩き回っても仕方ない、どうにかしよう。

 

 それでもってThe三名様御入店、席に落ち着いて一つ。私はふと気づいたことを口にする。

「昨日今日付き合いだした訳じゃないし、去年も一昨年もクリスマス一緒だったんじゃないの? これがお初って事も無いでしょ」

 うに、とランチメニューを弄びつつ言う私を夢佳は信じられないバカをみるような目で見据えてきた。

 なんだろ、これは。ただでさえ目付き悪いのに、こうなると人相悪化するなー。

「いやマジかお前、中身ちゃんと入ってんのかその頭。必要なもんグロス単位で抜け落ちてるんじゃないだろうな、出荷元にクレーム入れるぞ単細胞」

 失礼な、質はともかく一式全部フルセットで入ってるよ。まったく口が悪いんだから、私じゃなかったら怒ってるぞ。

「憚りながら言わせて貰うがな、去年のクリスマスはお前と試合してたろうが。出掛ける予定なんか入れられねぇわ」

「あー……そうだったねぇ……」

「んでもって一昨年はお前の試合見に行ってたんだよ、お前の彼氏のチキンタツタ野郎にチケット貰って」

「大喜くんはナイスアシストだったねぇ」

 そう言えばそうか、毎年クリスマスはウインターカップに重なる訳だし。

 とは言えそれは私も同じ、大喜くんとクリスマスデートなんてしたこと無い。

 私には参考に出来るような経験がない、と。

 ならば他から意見を貰う他無いわけだ。

「ねぇねぇ、クリスマスにお出掛けとかそういう話ないかな――()()()()

「正気ですか千夏先輩」

 急に話を振ったせいだろうか、蝶野さんは心底意外そうな顔をしている。さっきから全然喋ってないし、もしかしたら機嫌悪いのかな。まあ夢佳と二人きりだとデートとか置いといてバスケの話するだけで終わっちゃうから、と強引に連れてきたからそれもあるだろう。……渚は県外だし花恋や菖蒲ちゃんがいると『リア充怖い』って夢佳怯えちゃうし、手近に誘えるのがいなかったんだもん仕方ないじゃないか。

 とにかく三人よれば文殊の知恵だ、是非話に参加してほしい。

「一応言いますけど無いです。一昨年は大喜に振られたばかりだったし去年は菖蒲たちと女子会でした。あと私は先月やっと初彼氏できたんで、デート経験もロクにありません」

 こんな事言わせんな、とカフェオレを一啜りして蝶野さんはため息を吐く。むう、態度が良くないな。私ら先輩だぞ。

 まあなんにせよ、なんにせよ。とりあえず三人でじっくり考えよう、せっかくの休日だ。

 

 女三人寄れば姦しい、なんて言うけど。横道脇道獣道、大脱線の応酬で時間だけが過ぎていく。お喋りって楽しいから仕方ないんだけど、さ。

 中学時代の部活帰りに戻ったみたいな気さえする、これで蝶野さんじゃなくて渚がいたら完璧だな。

 こうやって長々と駄弁るだけじゃ良くない、一応話し合うつもりはあるのだ。

 ……しかしそもそもの話として、私夢佳はともかく彼氏さんの事は殆ど知らない。ひねくれてて大変めんどくさいこれと付き合えるくらいだから、相当に好い人なんだろうけど。

 まあプレゼントの基本は相手の趣味に合わせる事だ、奇をてらうより安牌を狙うべき。

「趣味関係とか、好きなものから無難に行ってもいいんじゃない?」 

「宗介の好きなもの、かぁ……」

 虚空を見つめ考える事、一分程。クルクルと回っていた夢佳の人指し指はピタリと停止し、そして指し示す――自らの顔面を。

 ああ、そうだね。宗介くんが一番好きなのは夢佳だ、間違いない。

 間違いないけどさ、間違いないけどね。

 他に何か無いかなって話なんだよバカはバカなりに頭使ってよバカ。

「いっそ本人に聞いたらどうです? サプライズより安定ですよ世の中」

「んー……あのバカ偏ってっからさ、変に話聞くと拗れるんだよ。前もツインテにしてくれとか、ニーハイソックス履いてくれとか言い出してな」

「それは……それは色々難儀ですねぇ夢佳先輩……」

 大喜くんはそういうの無いから、楽って言えば楽なんだよね。まあ私の方が触りたくなったりするんだけどさ。

 私が一番欲しいのは大喜くんだし、大喜くんが一番欲しいのは……私だろうなぁやっぱり。照れる照れる。

 夢佳の性格考えたら、そういう話は絶対いやがるかムッツリスケベめ。私がラッピングしてやって、イヴの夜に彼氏さん宅へ送りつけるって手もあるんだけど。……蝶野さんに手伝ってもらってそれやろうかな私、あーそれより大喜くんを持ってくる方が良いかな。でも大喜くんああ見えて力あるし、新体操部の腕力じゃ難しいか……。

 大喜くんと私の関係、いまだキスまでだからなあ……。同衾はしたけど眠くてその先は無理でした、うーん惜しかった。

 思い返せば、大喜くんからそういう気配を感じる事は今まで無いな。私が先導してるというか、総受というか。

「……ふむ」

 口実さえ作れば、どうにかなるかも。でもなあ、前に押し倒した時でさえ一方的にドキドキしただけだった。意外と鈍いというか奥手なのかな、大喜くん。猪股家にいた時は由紀子さんの目があったから仕方ないにしても、今は平気なのに。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、そうじゃない。今日は私じゃなく夢佳の事を考えてあげないと。

 だけどそうなると、どうしようか。

 定番である「体験の共有」となると趣味が一致しないと厳しい、夢佳は性格がネジ曲がってるだけでアスリート気質ではあるし。下手すると彼氏さんおいてけぼりで熱中しかねない。あとこいつはインドア系が壊滅してるガラッパチ女だから、地味な共同作業も無理だ。

 いっそ原点に立ち返るか、まずは自分が何を求めてるか――って。

 蝶野さんと何やら話している夢佳、でもその視線は話し相手ではなく。偶然近くを通っていった、一台のベビーカーへと注がれていた。

 …………うん、良いよね確かに。だけどそれは、えーとその……まだ早いんじゃなかろうか。

「夢佳、それはその……また今度にしなさいね」

 

 

 そこからはまあ、なんというか。哲学者の対話は常に物別れに終わると言うけど、私たちみたいなのはいつだって何の結論も出ないまま終わるのだ。相談会なんだか雑談会なんだかわかりゃしない、休日を思いっきり浪費してしまった。

 なによりアレなのは、それが楽しく思えて仕方ないという事だ。夢佳はいつの間にやら蝶野さんと仲良くなっていたし、それが成果って事で構うまい。

「さて、……と」

 クリスマスまで一ヶ月と少し、私はどうしたものかな。一人になった帰り道、今更ながら考えてみる。

 猪股家で過ごした最初の冬、高校二年のあの時。ウインターカップで押し潰されそうな不安の中、大喜くんを抱き締めたのを覚えている。我ながらよくあんな事したな、まだ付き合ってもいないのに。

 そして年が明けて付き合いだして、でも高三のクリスマスは大喜くんと過ごすことはなかった。夢佳との最後の試合を控え、自分を研ぎ澄ます時間が必要だったから。

 親を困らせ周囲を振り回し強引に続けたバスケ、それを「終える」事に寂しさや躊躇いは勿論あった。

 しかしそれ以上に強かったのは、清々しさ。

 なにもかも出し尽くし、一切合財ブン撒いた。もう逆さに振っても叩いても、なにも出やしない。戦って戦って戦って、悔いも未練も燃え尽きた。真っ白な灰も残らない、完全燃焼。

 そしてこれからまた新しい夢を見る、大喜くんと二人で歩んでいく。

 喜びは歌に、怒りは足踏みに。悲しみもメロディに変え、そして――お楽しみはここからだ。

 いつか心が離れる日が来ても、その時は笑って終わろう。

 

 

 

 

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