アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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毎回の事ですが、千夏ママの名前は扇町さんのオリジナルです。
本名不明なんですもの。


懐かしきアオの日々と次なるアオへ

 最近うちの愚息が、どんどん成長している気がする。私に似て先走る癖にバカだから、いつまでたっても子供な感じのままだったあれが、なんとなく大人びてきた気がするのだ。その理由はまあ一つだろう、恐らくは千夏ちゃんだ。

 千夏ちゃんを預かってから大喜は目に見えて変わった、柄にもなく格好なんか付けてみたりバドミントンへの打ち込み方が一気に深まったり。

 朝練は前からだから良いけど、土日もバタバタと練習に向かうのは正直大変だ。誰がその練習着を選択すると思ってるんだ、千夏ちゃんは手伝ってくれるから良いとして。

 とは言え旦那に似て奥手でヘタレなんだろう、千夏ちゃんに所謂そういうえっとその、……そっち方面の()()を向けるような事はしていないようだ。多分きっと、……うん。

 もしそうなってしまったら私は全面的に千夏ちゃんの側につくし、なんならあのバカから苗字を毟り取って追い出さないといけない。

 若気の至りで済む話じゃないんだし、その辺はちゃんとしないと。

 でもなあ、まさか本人に問いただす訳にもいかない。どうしたものか。

 

「――って事なんだけどさ」

「いきなり来るのはともかく、結構な重さの話ぶつけてくるわね由紀子……」

 湯呑みを手にしたまま溜め息を吐くのは嘗てのチームメイト、鹿野春架。そして苗字は変われど我が親友にして、千夏ちゃんの母親だ。

 春に千夏ちゃんを残して旦那さんと海外に渡った彼女だけど、色々あって九月中だけ日本に戻ってきている。どうせなら母娘でうちに滞在したって良いのに、マンスリーマンションなんか借りくさって水臭いったら。

 マトモに顔を合わせて話す機会はそうそう無い、まして二人きりなんて。だからこそ千夏ちゃんが学校にいる真っ昼間に訪ねてみたんだけど、なんだろうなこの感じ。話す場所も違うしお互い皺も増えた、なのになんだか放課後に家で駄弁っていた頃と雰囲気が変わってない。

「んー、千夏は顔だけ私に似たけど、中身は冬樹さんだからね。大喜くん()手を出したりはしてないと思うわよ、多分まだ」

 あ。……そうか、そっちも考えないといけなかったか。というかこの女の娘だ、そっちの方が有り得たな。

 なんにせよ、高校生だからなぁ二人とも。一回暴走すると歯止めが効かなくなる年頃だ、私らもそうだったそうだった。

 バスケに燃える日々のなか、生まれてはじめて誰かを好きになって。今までの自分を否定し逃げ出したかのような罪悪感を覚えつつ、自分も大人になっていくんだなという背伸びした満足感もあった。

 そして、そして。……春架と初めて大喧嘩したのも、そのせいだった。

 同じ人を好きになった、()()()()なのに。無二の親友を出し抜こうとする自分が許せなかったし、春架の無神経に見える行動にも苛立って。同じように向こうも悩んでいるなんて考えもしないで当たり散らし、結局殴りあいにまで発展させたっけ。

 まあどっちも付き合ったりはしなかったんだけどね、睨み合ってる間に他の子がかっさらって行ったから。……何のためにあんなルール無用の残虐ファイトしたんだか、今思えば呆れるばかり。

 高校生同士の色恋沙汰なんてそんなもんなんだ、と気が付いたのはずっと後。当時は本気で悩んだものだ。

 あれから沢山恋をして、しちゃいけない事も沢山して、知っちゃダメな事も沢山知った。良い意味でも悪い意味でも、私は大人になったという事。

 ……本当にバカなんだよなぁ私って、うっかりしすぎ。まあその勢いがなかったら大喜産んでないし結婚もしなかっただろうけどね、うん。

 

「でも、さ。大喜くんも男の子な訳だし、私としては――そうなってもおかしくないとは思ってるわ。前に言った通りに、ね」

 ええい春架め、茶菓子片手にほざきよるわい。

 本当あっさりと言ってくれるな、この女は。股を痛めて産んだ娘をなんだと思ってるんだか、まったく。

 でもまあ、確かにそういう話は以前もした。私としても千夏ちゃんに夢を果たさせたい、私たちが辿り着けなかった頂点まで行って欲しい。

 だから空き部屋を貸すくらい何でもないけど、でも大喜がいるのは千夏ちゃんにとって好ましくないのではないか。

 一つ下の男子なんてあの年頃の子にしてみれば野良犬か野生の猿みたいなもんだ、集中を乱すどころか取り返しのつかない事態に成りかねない。

 もしそうなっちゃったら本人も気の毒だし私の立場はどうなるのよ、気まずいなんてもんじゃないわ実際。

 そんな事を悩みはしたんだけどな、ホストマザーとしては。バースマザー(産みの親)は一貫してこの有り様だけど。

 私が考えすぎなのかこれが能天気すぎなのか、まあ両方かな。

 それに何より、だ。

「本音を言うとね、あんたと親戚になんかなりたくないのよ。千夏ちゃんが義理の娘になるのは喜ばしいし大喜を婿に出すのも構わないけど、正直キツいわ」

 オブラートに包まず言うと、要するにそういう事。一緒に汗を流した戦友ではあるけど、無二の親友ではあるけれど、だからこそ本気でヤダ。親友以上家族未満の間柄でいさせてくれ、マジで。

 人が聞いたら身勝手というだろうが、まあ言わば言え。この程度で退くほど繊細な女じゃない、お互いそれは知り尽くしてる。

 だからそう、怒るでもなく焦るでもなく。このバカは笑って言うのだ。

「あたしもそれは願い下げだな。まぁでもさ、あの二人が決める事でしょ。最近の千夏、なんか思い詰めてるっぽいし。これから寒くなって人恋しくなる時期だし、そっちに帰ったら()()()するかもよー」

 やれやれ無責任なもんだ、何も変わっちゃいない。あの日と同じバカ面に苦笑しながら、私はお茶を一啜り。

 さて、どうしようか。長っ尻もアレだしそろそろお暇して、買い物して帰るかな。少なくとも今月中はすぐ会える距離にいるんだ、話があればまた来るさ。

「あと何年かしたらさぁ、大喜くんがウチまで「娘さんをください」って挨拶に来んのかねぇー」

「千夏ちゃんが突然「息子さんをください」って言い出す方が先かもよ」

 笑いあうその雰囲気は、華の女子高生時代と変わりゃしない。

 距離が遠かろうと間が空こうと、私たちは私たち。

 これからもこうなんだろう、多分。

 ずっと、きっと。

 

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