栄明で一旦辞めたバスケを彩昌で再開し、まあ遅蒔きながらも夢なんぞ見てみようじゃないかと思いながら鈍った身体を日々叩き直している私。
まあでも人間張り詰めてばかりじゃ壊れる、時には気を抜く事だって必要だろう。
そう、必要なんだろうけどさ。さすがにお前らは気を抜きすぎてないか、息抜きの合間に人生やってんのか。
気持ち良さそうに寝くたれる
全くもって、やれやれだよ。
「……女子会? パジャマパーリー? …………気は確かなのアンタら」
週末の予定を聞いてきた親友と話していた筈が、私の口から出たのはこんな悪態。これで花の女子高生なんだから、世も末かな。
しかしまあ思えば小学生の頃から底が抜けている女だったけど、どうやらナツはバカが加速しているようだ。
かつてのチームメイトと泊まりの女子会、それもドレスコードはパジャマ。そんなバカげた事をよくもまあ口に出来たもんだよ。
私はそういう女子女子してるのは苦手なんだ、生物学的には女子だけど。て言うかこのバカだってタイプは同じ筈だ、いつの間にそんなパリピみたいな概念仕入れてきやがった。何処のどいつだ、私のナツにおかしな事吹き込みやがって。
「いや、渚がさぁ……。夢佳の事心配してて……」
そう言われて、私もちょっとだけ怯んでしまう。
まあ、なあ。家庭の事情とは言えなにも言わないまま「もう飽きた、辞める」と一方的に三下り半叩きつけて転校したんだもんなぁ。そりゃ心配はかけただろう、ウインターカップの後に多少話はしたけど長く語り合える状態じゃなかったし。
仲直りの口実にしたい、って所だろうか。
「んー……そう、か……」
もし少し前の私なら、そんなのは鼻で笑っていただろう。もう友達でもなんでもない赤の他人同士、関わることすら面倒だと。実際ナツと久しぶりにあった時も、嫌味言っただけで終わったし。
でも、今は違う。
失った時間は戻らない、だからこそこの先でどうにか関係を修復したい。これ以上意地を張り続けるのも疲れた。ナツと仲直りしたみたいに、渚ともそうなれるんだろうか。そこから少しずつ、また仲良くなっていきたい。
……彩昌にも友達くらいいるけどさ、旧知の仲だった連中も恋しいのだ。
私はどこまでも欲張りだな、まあ良いか。それは向こうも知っている、古い付き合いだもの。
たまには昔みたく、バカ共を煽って遊ぶのもいいか。
まあ、場所がラブホなのは別に構わない。女子会っぽいし。
ただ持ち込んだ食糧の大半が揚げ物や肉ってどういう事だ、海賊かお前らは。それに当然のごとくビールが完備されてんだがどういう事だ、そりゃまあ呑めるけどさ私も。良いことも悪いことも学校で覚えるものだ、先輩方に無理矢理教え込まれたのが忘れられるはずがない。なんだよあの伝統、試合後の打ち上げで酒なんか出すなよ。
そして、そしてだ。
「他はともかく渚、お前なに考えてんだ」
久々の再会で思うところもあったけど、最初に出てきたのはその一言。
ドレスコードはパジャマ、との事だったし入室してすぐお着替えタイムに流れ込んだのは当然だ。
そこで恥じらうような女子っぽさは、こいつらにも私にも無い。そんなもん母親のお腹の中に棄ててきたわ。
ジャージやスエットは分かる、分かるよ。楽だからね。
でも、だ。
「何で全裸なんだよ、汚ぇもん見せんな服来てこい!」
例え普段全裸で寝てたとしても、少しは気を遣え。お前弟くんの性癖壊してるぞ多分、きっと。
――ああ、思い出した。そういや私、栄明女バスじゃあツッコミ役だったっけ。こいつらコートの上では繊細に統率が取れたゴリラの群れだけど、普段はこの通りなんだった。
バカな連中をどうにか纏めて前を向かせるのも、私の大事な仕事だったんだよな。
「まったくアンタらと来たら……」
何年も離れていた筈なのに、私の気持ちはすっかりあの頃に戻っている。
さぁ、このバカ共の面倒を見てやらなければ。
あのインパクトある入場から固い話なんかできる筈も無く、初手からグダグダな雰囲気で始まった女子会を騙る何か。
一応かつての突然すぎる別れを謝罪したりはしたけれど、この連中は気にもしていなかった。やっぱり私が考えすぎていたんだな、というかこのバカども相手に気を遣いすぎた。
そして交わされるのはバカ話ばかり、どうでもいいからこそ楽しいし終わらない。やっぱり女の子ですから。……色気はないけどさ。
かろうじてそういう気配のする話と言えば、渚が西田に告られた事くらいだったな。いやまあ告って来たと言うか、なんと言うか。
西田がこのまま三年間終わるのは惜しいしどっかで妥協して恋人とか作りたい、なんてウジウジ言ってるから好きにしろって返したら『じゃあ渚、俺と付き合ってよ』って言ってきたんだとか。
んで渚は『じゃあって何だよじゃあって、お前なんかを初カレになんかして堪るか』と鳩尾に一発ブチ込んで黙らせたそうな。
それはまあ……当然だよな、相変わらず雑過ぎるわあのバカ。
記憶にある西田は「バカな男子」という言葉を擬人化したようなヤツだったけど、何一つ変わってねぇ。多分栄明の歴史のなかで、合同合宿中に女子の入浴を覗こうとしたのはアレ一人だろう。昭和の漫画じゃあるまいし、少しは空気読めよ。今それやると普通に捕まるぞ、令和舐めんな。
しかしまあ、色気と言えば。ナツはあのチキンタツタ野郎と付き合ってる筈だけど、その話は結局しなかったな。こっちからほじくると、宗介の事に飛び火しそうだから言わないでおいたけどさ。さすがにそうなると、少し照れる。
すっかり呑んだくれて魚河岸のマグロみたいになってる元チームメイトの隣に私も転がり、天井を見上げながら考えてみる。
もし、両親が離婚しなかったら。
もし、私が折れなかったら。
このバカ連中と毎日、こんな風にバカやって過ごせていたんだろうか。
「いや、……有り得ねぇか」
さすがにこれを続けたら頭おかしくなる、たまにハジけるくらいの付き合いがちょうどいい。用法用量を守って正しく御使用ください、ってね。
明日からはまた、いつも通り。私は彩昌、こいつらは栄明。お互い切磋琢磨しあって、いずれは公式戦でぶつかろう。
泣いて笑って歯茎を剥いて、全力でぶつかり合う。勝っても負けても、恨みっこなし。
それが出来るのが私たちだ、きっと大丈夫。
込み上げてくる眠気に従って目を閉じながら、私はそんな事を考えていた。
お酒は二十歳になってから、おばちゃんと約束ですよ?