アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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界隈が重苦しいので、今回はポジティブ方面に振り切っております。



空にはアオい星が降る

 うんまあ、そうなるんじゃないかなーと思ってはいた。

 いくら年齢不相応に鈍い大喜だって、同じ世代の女子が四六時中一緒にいればそういう気持ちにもなるだろう。と言うかその辺が殆ど無いから、母親として悩んでしまうくらいだ。

 男子は女子に比べて子供だとは言うけど、私が花の女子高生だった頃は年に何度も春が斜めになって寄って来てたのに。毎日部活に励んでるのは良いけど、もうちょっと色気付いても良いのにな。うん、まあ多少はそんな事考えてたけどさ。

 だけど、もうちょっと段階を踏んでくれないだろうか。

 いきなり『息子さんを私にください』とか言われても、ちょっと困るかもしれない。

 もう三年生は自由登校だから、千夏ちゃんは大体部屋で過ごしている。珍しく真っ昼間なのに居間に来るからなにかと思ったら、突然爆弾発言を投げ込んでくるとは。

 真剣な顔で私に向き合う千夏ちゃん、その真っ直ぐな瞳に見据えられながら私は内心で溜め息を吐いた。さすがはあの女の娘だ、手が早い。

 

 あれは学生時代から性格がおしとやかの逆と言うか、ガラッパチ過ぎて大変だったな。ずっと同じチームにいたけれど、その辺はどうにもならなかった。まあむしろ、気性が合わないからこそ仲良くなれたんだろう。正直温度差はあったけど、嫌いになる程でもなかった。向こうも多分そう思ってくれていた筈。

 私にできない事が得意なあいつと、あいつが出来ない事が得意な私。二人足して二で割れば理想的だけど、なかなかそうもいかないのが人間だ。

 栄明卒業後もなんとなく一緒にいて、同じ人を好きになった事もあったっけ。もう顔も名前も覚えてないけどね、歴代の彼氏なんか一々記憶してられない。別れたらその時点で赤の他人なんだし。

 色々あってお互い嫁に行き、子供も出来て。自分らの生活が忙しくなってきてからは没交渉になって久しかった私たち、それが何年かぶりに会ったのが一昨年の一月。旦那の都合で海外に移住するから娘を預かってほしい、なんてとんでもない話をしくさってくれた。

 あれは驚いたな、危うく公衆の面前でコーヒー噴く所だった。て言うかそんな重い話を喫茶店ですんな、せめてどっちかの家でしようよ。そういうとこだぞ、お前は。

 一応はまだ親友のつもりだし、無下に断るのも角が立つ。とは言え年頃の女の子を同じくお年頃の男子がいる家に住まわせて良いのか、とこっちが悩んでるのに「ああ大丈夫大丈夫」と軽く言いやがるし。股を痛めて産んだ娘だろ、もっとちゃんと考えろ。

 まあ紆余曲折を経て快諾したわけだけど、うーん。

 まさか千夏ちゃんが、ここまで一気呵成に攻め込んでくるとは。付き合いだしましたとかキスしましたとかじゃなく、結婚させろと言ってんだもんなぁ。

 いや別に、この子を義理の娘にするのが嫌だとは言わない。あのバカと親戚になるのも、そこまで抵抗はない。そもそもが良い子なんだよ、千夏ちゃんは。あんなので良ければ熨斗付けてあげちゃっても良いくらいに。

 しかし、どうしてこうも(せわ)しいんだろ。あと一ヶ月程で卒業して独り暮らしする算段になってるんだから、そうなれば気兼ねせずイチャイチャ出来るだろうに。大喜の帰りが遅くなろうが外泊しようが、私としては構わないんだし。

 なにか事情があるとしても、そんなに急ぐことなんか無いと思う。

「――……?」

 ……いや、あるかもしれない。今のうちに形をつけておきたい、と焦る理由が。

 私はふと脳裏を過った疑問、それを千夏ちゃんへと向けてみた。

 かなり失礼な話だし下衆の勘繰りも良い所だ、でも万が一を考えたら聞いておかないといけない。

「ねえ千夏ちゃん、……まさかとは思うんだけど。もしかしたらその、……大喜と……()()()()()になってたりしない?」

 次の瞬間ビクッと身体を震わせる様子に、さしもの私も理解が届いた。

 そうか、それか。そうなのか。

 さすがはあの女の娘だ、顔だけじゃなくそんな所まで似ちゃったか。

「えーっと……はい。今二ヶ月、です」

 気まずそうにお腹へ手を当てるその姿はやはり、あの日の彼女の母親にそっくりだった。

 

 あの頃の私は焼け木杭に火が点いたというか、大学時代付き合ってた後輩となんとなくよりを戻したり戻さなかったりしていた筈だ。このまま独身でいても良いけど結婚も良いかなーとか思い始めた、そんな時期。

 あのバカと来たら私を突然呼びつけて、とんでもない事を言い出したんだ。『子供出来たし今の彼氏と結婚する』と。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、お前少しはものを考えろよ。なんて言いかけて、必死で堪えたのを覚えている。まあそりゃ、人生の選択は自分で決めるものだ。周りがやいのやいの言うべきじゃないけどさ、だけどどんだけ本能に忠実なんだ。確か付き合って半年も経ってなかったし、仕事もやっと軌道に乗り始めたと言っていたのに。

 私が慎重にブレーキ踏みながら生きてんのに、どうしてこれは悉く私の逆を行くんだろう。呆れながらも少しだけ感心したな、猪突猛進出来て羨ましいくらいだと。

 人間あんまり考えても仕方ないんだな、と思い知った私はその後結婚を決めて、大喜を授かった。あのバカが能天気に生きててくれなかったら、今の私はいないかもしれない。

 なんて考えてみると、ここで強く反対するのも良くないかな。ふしだらだと思わなくはないけど、これもまた何かの縁を繋ぐ一助になるかもしれない。それに人間万事塞翁が馬、なるようにしかならないものだ。

 ――しかし、そうか。

「おばあちゃん、かあ……」

 私的にはこっちの方が一大事かもしれない、まさかこの歳でその肩書きが付くとは。

 とは言え悄気てる暇はないな、忙しくなりそうだ。

「まあ、そうね。とりあえず大喜が帰ってきたら、二人で一緒にひっぱたこうか。話の続きはその後にしましょ」

 私の人生、まだまだ落ち着けそうも無い。だからこそ楽しいんだけど、さ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日は帰った途端、母さんと先輩に思いっきり殴られた……」

「自業自得でしょバカ大喜、私だって殴りたいわ」

「翌日歯医者で夢佳さんにボディーブローされたし、こないだは部活してたらあかりにラケットで叩かれた……」

「なんでそんな大々的に広まってんのよ」

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