アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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鳴り響くアオいファンファーレ

 罪悪感は正直、無いとは言わない。とは言えバスケは激突上等のスポーツだから、怪我はつきものだ。そして出物腫れ物時を選ばず、悪いことというのは状況を選んでくれない。大事なとき、負けられないときに限って降りかかるものだ。私が怪我と無縁でここまで来られたのは、運が良かっただけかもしれない。

 でもナツの負傷は、ついてなかっただけなどと割り切れるレベルではない。捻挫だけでは済まず、足首にダメージは残ったままだと聞く。ウインターカップの出場資格を得たとしても、インターハイ予選三回戦敗退では本選に即行けはしない。予選開始は7月からだ、今のナツでは回復が間に合うわけがない。そしてナツを欠いた栄明が、果たして勝ち進めるか。

 例えそうなっても、もう私とナツが戦う事は不可能だ。彩昌の女子バスケ部は基本秋までには引退、ウインターカップには余程の事がない限り二年生が一年生を率いて出る。来年の夏に備え、若手に公式戦の経験を積ませなければならないから。

 だから私は贖罪意識というより、単に悔しいのだ。こんな形で因縁が終わる日が来るとは、思っていなかったから。

 私が謝罪してどうなる話ではないし、逆にそんなのは屈辱でしかない筈だ。でも私はナツと話したかった、もし彩昌を……私を憎むならそれでも構わない。一発殴られるくらいならそれも良いだろう。

 ナツに呼び出され、その覚悟を決めて中学時代にチームメイトと屯っていた喫茶店に出向いた私だけれど。

 どういう訳か現実は、予想の遥か斜め上だった。

 このアホはつい今しがた、運ばれてきたカフェモカを一息に飲み干して言いやがったのだ。

『これからは変態として生きていこうと思う』、なんて世迷い言を。

 

 あのチキンタツタ野郎と付き合っている、というのは前から知っている。と言うか人が正月休みで寛いでる時に物凄い量のメッセでのろけ話しやがって、胸焼けさせられたわ。告白された嬉しさは分かるけどさ、夜の夜中にハイテンションな怪文書が届くのはホラーだぞ。宗介も軽く退いてたな、お陰で萎えさせちゃってせっかくの姫始めが……いやまあそれは良いわ。

 しかし何年も離れてた元友人相手に、こうも全力で感情をぶつけてくるなんてね。そう言えば花恋も同じような目に遭ったらしいな、あれはナツと小学校で一緒になって以来、学校が変わってもずっと親友らしいけど。ナツはどうもギアが一速と七速しかない女だから、気を許すとすぐにああなるんだろう。

 それは良いんだ、別に。

 問題はそこじゃない。

「あー……これからは、ね。御自身の判断によると今までは違った、と」

「うん!」

 元気一杯で頷くアホを前に、私は溜め息を一つ。いやお前、相当だろ普段から。私のスマホには、お前が送ってくる彼氏の画像が百枚単位で入ってるぞ。どれも目線が来てないから盗み撮りっぽい、消しても消しても追加されてくるからどうしたら良いか。

 もしかしたら、痛めたのは足首じゃなくて頭だったのか。そのせいで元々変態だったのが更に加速してしまったのだとしたら、これもう私のせいだ。こんなもんを社会に放った道義的責任が発生してしまう、私の立場が終わってしまう。

 そしてそれ以上に、あのチキンタツタ野郎の人生が終わりかねない。

「バスケは一旦お休みしてさ、大喜くんに集中するつもり。変態になるくらいでちょうど良いんだよね、私考えるの下手だし。それに大喜くん可愛いもん、のめり込んでも仕方ないよね」 

 んふーんふーと鼻息も荒くスマホの画像に頬擦りしているのを見て確信した、これヤバイ。絶対襲うぞこのバカ、野女じゃねぇか既に。

 どうしよう、力尽くでも止めるべきだろうか。そもそもが単純な構造なんだろうし、もう一発殴ったら直るんじゃなかろうか。

 他人の嗜好をどうこう言うもんじゃないとは言え、限度ってもんがある。

 しかしどうしたもんだろう、本当に。

 

 こいつは集中力がスゴいというか、単に視野が狭い。他を一切見ないから結果的にストイックに思えるだけだ。

 練習の虫なのもそのせいで、別に人より真面目なわけじゃない。バスケしか知らないから、全部の時間をバスケに費やせたのだろう。で、これからはそれを彼氏に向けるつもりでいると。

 …………それ絶対大惨事になるぞ。跨がるくらいならまだしも、腹上死させかねん。あーいや下になってるわけだから腹上死とは言わないのか……? なんにせよ搾り取られて、天国へアップロードされる展開だろう。安いエロ同人じゃあるまいし、小話としてもB級だ。

 実際手加減ってもんを知らんからな、ナツは。出来ない事は出来るまで続けて押し通す、不可能を物理的な女子力で可能にする。WW2の米軍みたいなもんだ、弱い所から潰すし強い所しかないなら弱くなるまで削ってから潰す。負けたとしても、自分が勝つまでは延々と終わらせない。方向性を間違えるとストーカー化しかねん。 

 身近に犯罪者がでると落ち着かないし、やめて欲しいんだが。

 そうやって私が態々悩んでやっているのに、ナツの話は止まるところを知らない。

 まったく、幸せそうな顔をしくさってからに。心配して損したかも、なんてね。

 まあこのバカが挫折したくらいで自分を見失ったりはしないか、なにしろバカなんだから。バカは強いんだな、本当にさ。

 多種多様かつ夢のようにのろけ続ける事、なんと数時間。さんざん話して満足したのか勘定もせず帰っていく元親友の背を見送り、私はスマホをタップしメッセを飛ばす。

 『気を付けろ。お前の貞操が狙われてるぞ』――と。 

 

 

 

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