厄介な事をやらかしたのかもしれないな、とは思う。
千夏先輩がインターハイ予選で負傷退場し、栄明女バス自体もそこで負けてしまった。大喜は余計な罪悪感で潰れそうになってて、痛々しいったら無い。そもそもあの人は色恋に現を抜かしてサボるような人じゃないだろうに、何でそうも背負おうとするんだ。競技中の事故は、大体が本人のせいなんかじゃない。因果応報なんて有り得ない、運不運があるだけなんだから。
まあそこに突け込む程私は悪辣じゃないし未練もない、ここで二人を引き離したって私が良心の呵責で死ぬだけだ。
どうせなら多少は助けてやろうかな、なんて考えてあれこれ気を揉んだりはしていたのだけれど。
――どうして私は延々と、大喜へののろけを聞かされているんだろう。わざわざ海まで来て、なにやってんだ私は。
空はこんなに青いのに、風はこんなに爽やかなのに。
なんなんだろうなあ、私たちは。
女バスのインターハイはだいたい七月の終わりで、バドと新体操はお盆前。それがいつものスケジュールだけど、今年は新体操の方がバドより早く終わってしまった。不承この蝶野雛、全国を征した女でございます。さぁ遠慮なく尊敬したまへーなんて大喜をからかいたかったんだけど、あのバカは入れ違いで大会会場のある県へと出掛けていた。そんでまだ本調子でなさそうな千夏先輩を気遣う感じで声をかけた、それが間違いだったのかもしれない。
「じゃあさ、海行きたい。出来れば泊まり、私が前行った民宿が良い」
あと蝶野さんお金だして、とまで言い出した時は、さすがに一発殴ろうかなと思ってしまった。いやあんた仕送りあるでしょ、交通費はともかく宿泊代とかは自分で出してくださいよ。
そんなこんなで気が付けば、女二人で盆を迎えんとする寂れた海水浴場に立っているわけだ。
なんだろう、この人の無駄な行動力は。普通思い付いて即泊まり掛けで出掛けるか、それも殆ど接点の無い後輩と。加えていつのまにか水着姿、さっきお花摘みにいった時に着替えてきたようだ。さっきまであんなアンニュイな顔しといて、なんなんだ。て言うかいつ買った、その水着。確かそれらしい荷物は無かったのに。
「もう一年になるかなー……。この浜辺でさ、大喜くんに誕生日祝ってもらったの」
懐かしそうに呟くのは、聞き捨てなら無い一言。待て、待てコラ。一年前って、私が大喜に告白した頃じゃないか。
「もう夕暮れだったけどさ、ケーキ食べてハッピーバースデーも歌ってくれて。嬉しかったなぁ……」
うんまあそりゃ嬉しいでしょうよ、そんなビッグイベントがあれば。
つまり大喜は、私に告白されても一切意識しないで千夏先輩だけの為に行動していたと。そうか、そうなのか。
元々、脈なんか無かった。大喜はずっと千夏先輩が好きで、だからこそ頑張っていた。そんな大喜を、私は好きになったんだ。
わかってはいたけど、こういう裏付けが付くとさすがに辛いな。
まあ、もう終わった話だ。騒ぐまい騒ぐまい、私はそこまで重い女じゃないし――。
「その後色々あって、由紀子さんに嘘吐いて民宿に泊まったんだ。で、気が付いたら朝になってて……」
「はぁ!?」
平生を取り繕おうとした所に来た爆弾発言に、思わずガラッパチな声が飛び出してしまう。
由紀子さんって大喜のお母さんでしょ、保護者に嘘吐いてまで二人きりの外泊って。普段から同じ家に住んでるとは言え、それは流石にオトナ過ぎないかコラ。
それ以前に、夏の段階で二人がそうだったんなら私はなんだったんだ。意識させることには成功したとかこのまま好きでいられれば良いとか、なんて恥ずかしい。うわー全部空回りだったのか、スゴいな私のアホっぷりは。
なんかもう、アホらし屋の鐘が鳴るわ。あーもう、引きずってた事自体がなんかもう面倒に感じてきた。
悩んだって仕方なかったんだな、私は。
既に陽は落ち、去年二人で止まったといってた民宿まで来ても千夏先輩の喋りは止まらない。
どうやら思い出に触れた事がスイッチになったのだろう、浜辺からずっと大喜の事ばかり話し続けている。と言うか基本、大喜くん可愛い大喜くん可愛いとそれを繰り返してるのだけれど。うん確かに可愛いけどね、私一応アナタの元恋敵でしてよ?
だってのにまったく、幸せそうな顔をするんだから。もしかしてあの憂い顔は、大喜が留守にしてて寂しいのが理由だったんだろうか。
千夏先輩は思ったよりずっと逞しいんだな、すっかり立ち直っていたんだ。私が勝手に、引きずってると思っていただけで。
大喜も大喜でバカだから、ほっときゃ勝手に罪悪感から這い出すだろう。余計な事はしない方がいい、本当に。
でも羨ましいな、こんな風に笑えて。いつか私も他の誰かを好きになって、のろけ話なんか一席打ったりする日が来るかも。
そんな日はいつになるのかな、なんてね。