アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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決壊前夜のアオい灯火

 ワガママやって気を晴らそうなんて我ながら子供染みているものだ、と自分に呆れながら借り物の部屋で私は溜め息を一つ。幸せが逃げるとは言うけれど、これくらいで逃げるようならとっとと去れ。そんなヤワな子はいらない、野良犬にでも食われてしまえ。

 行儀悪くテーブルに乗せた脚には、湿布とテーピングがしっかりと存在感を示している。その脇にはコンビニ袋と深夜のドカ食いの残骸、……いや正確に言うと手を付けたのはパン数個と揚げ物一つだけで、他はそのままになっている。自棄になって暴飲暴食しようとしたけど、途中で胸焼けしてどうにもダメだったのだ。甘い物も油物も重い、胃がストライキ起こしそう。と言うか既に絶賛停止中だ、これ以上詰め込んだら吐く。心配する由紀子さんを安心させようとして、結構な勢いで晩御飯食べた後だから余計に来る。居候三杯目はもっと出せ、がポリシーで生きてる癖に軟弱だ。

 まったく私は根が優等生だから、気紛れに荒れようとしても身体が受け付けないんだな。まあ残りはお菓子類が殆どだからすぐには痛むまい、最悪渚にでもやっちゃおう。

 脚を上げたまま床に寝そべり、天井を見上げて昼間の出来事を思う。負けてしまったのだな、と。

 全国制覇どころかインターハイにもでられず、その上夢佳とも決着を付けられず。半端なままで、私の夏は終わってしまった。ウインターカップも、現状かなり厳しいだろう。私の脚は幸い捻挫で済んではいるけど、完治して治療証明書が出るまで練習には参加出来ない。三回戦敗退の栄明(うち)は一から出場権を獲るしかないけれど、このままでは私が予選に間に合うかは怪しい。

 私はエースと呼べるようなプレイヤーじゃない、でも部長としてチームを纏めなければならない身だ。それがこの体たらくで、果たして勝てるんだろうか。

「ぬー……むぅ」

 ――あれこれ調子が狂いっぱなしだ。

 私はこういう風に考える程、優秀ではない筈なんだけどな。やっぱりここでは爆発出来ないから、なんだろうか。

 自宅であれば叫んで暴れて迷惑かけて、そして疲れて寝て。それを数日繰り返してしまえば、元通りの私に戻れるのに。

 そう、ここは私の家じゃない。()()()()()()()()()()()()()

「え、……ぁ」

 うっかり考えてしまった言葉に、私の顔は急速に火照ってしまう。なに妄想してんだ、私の癖に。

 全く以て、やれやれだ。こうも混乱してるのは、まだ実感が伴っていないからだろう。明日か明後日かそれとも一秒後か、なんにせよ回りの悪い頭が事実を認識したら――泣くくらいじゃ済まないかもな。

 人生の半分近くを費やした夢を、私は失おうとしているのだから。

 

 痛みが一周すると、頭は少しの間冷静になる。それは私が三年前にも経験したことだ、身に染みている。

 中学最後の公式戦、それに敗れた当日はただ呆然としていた。結果を出せなかったし無理をしすぎたせいで心身の苦痛はあれど、私はまだ取り乱してはいなかったのだ。後輩の目もあるし夢佳も隣にいたから、そんな暇がなかったというのが大きいのかもしれない。

 その均衡が崩れたのは、眠りから醒めた時だった。

 どんな夢を見たかは覚えていないけど、目を開けた瞬間の絶望感は今も尚記憶に留めている。

 どうしてもっと無理をしない。

 死んでも構わないから勝とうとしない。

 今動かないならこんな身体はいらない、と絶死の気迫を持たないまま何故コートに立ったのか。

 無様で不格好でどうしようもないくらいに惨めなまま、こうしておめおめと生きている事が悔しくて堪らなかった。

 焦燥感に潰されそうになりながら逃げるように体育館へ駆け込み、泣きながらシュートを打ち続けた私。こんな事に意味があるわけがない、只の感傷だ。そう思いながらも、手を止めるのが怖くてしかたがない。身体が限界を迎えてくず折れるまで、それは止められなかったのだ。

 

 あれから暫くは荒みきって、迷惑かけっぱなしだったな。具体的には、お父さんに八つ当たりしまくったっけ。だってイライラするんですもの、だってだって女の子ですもの。感情的になって父親をサンドバック扱いしたって良いじゃない、いや良くないか。

 さて今回はどうなる事やら、可能であれば普段通りにしていたいけど。

 考えうる最悪は、大喜くんに当たり散らす事だな。夢佳に言い返しておいてなんだけど、好きになった事を悔やんでしまいかねない。それだけは死んでも嫌だ、殺されたって考えたくない。

 大喜くんは強くなる理由にはなっても、負けた言い訳になんかなるわけがない。どれほど私が救われたか、どれほど支えてくれているか。

 ――だからこそ、情けない姿は見せたくなかったのだけれど。この先も私はこんな風に思えるんだろうか、とても心配だ。

 だんだんと眠気が込み上げてくるのを感じながら、私は足音を殺して部屋を出る。せめて歯くらい磨いてこないとどうにも決まりが悪い、やれやれ私は不良にはなれそうにも無いな。非行に走るような度胸があったら、こうもなってないか。

 廊下に出てすぐ、閉ざされた隣のドアの向こう。とうの昔に眠りに落ちているであろう大喜くんの姿を思い浮かべて、私は都合の良い事を願う。

 明日の私を宜しくね、と。

 

 

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