アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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そして始まるアオい日々

 全く以て、やれやれだよ。今まで何年も色気なんか出さずに生きてきた連中が、三年の今頃になって急に彼氏だなんだとザワザワしだすんだから。

 進路や何やらの最終調整で忙しくなるってのにわざわざ色恋沙汰をおっぱじめるのは、要するに現実逃避なんだろう。まあ志望校なんて二年の春には大体決めてて、部活も冬前には殆どが引退だ。目を背けるほど重苦しい現実なんて無い筈なんだけど、な。

 恋愛がしたいから相手を探す、というのは私にゃサッパリ分からない。順番が逆だろ、と言ったら「好きになった相手と付き合うなんて贅沢言ってたらダメだよ、妥協していかないと」と訳分かんない諭され方したっけな。そうまでしたくないわ、面倒臭い。

 千夏さん、その辺をどう乗り越えたのやら。後輩男子と同居してると聞いて驚いたのが去年の秋、そして付き合っていると聞いて気絶しかけたのがついこないだ。……うんまあ、そうなる可能性は考えてはいたけどさ。うちの弟がそうであるように、男子ってのは――そういうものだから。それで千夏が傷付くようなら殴ってでも引き離すつもりだったけど、どうやら杞憂で済んだようだ。と言うかむしろあの後輩くんの方が窶れてたりする辺り、千夏から色々しかけたんだろうな。

 最近の千夏が幸せそうなのは、きっと彼氏くんのお陰だ。好きになって良かったと思える良い人なんだろう、肖りたいやら金借りたいやら。

 しかしどうして私は西田のバカなんかと付き合ってるんだろうなぁ、本当にさ。あれこれ適当すぎるな、うん。

 

 思えば栄明に入ったときからの縁だから、もう五年以上か。何故かずっと同じクラスの腐れ縁、なんとなく一緒にいる間柄ではある。同い年とは言えうちの弟と中身は変わんないから、姉弟みたいな関係だけど。まああのバカと来たら昭和のラブコメに出てくる脇役みたいにバカでスケベ、まさか21世紀の今になって修学旅行の女風呂覗こうとして教師にひっぱたかれる生徒がいるなんて御釈迦様でも思うまい。アホらし屋の鐘が鳴るわ。

 唯一の救いは陰湿さが無い事だな、だからこそ一発殴れば諦める。それでダメなら二発三発と殴れば良いし。

 女子から相手にされてないぶりでは松岡と並ぶな、アイツはアイツで顔だけイケメンで中身がアレだからパターンとしては逆だけど。西田はあそこまで中身終わってはいないんだよなー……、まあ程度の問題ではある。

 いつだって彼女欲しい彼女欲しいと言ってたあのバカは、夏休み明けのあの日もバカだったっけ。

 せっかくの夏をバドだけで終わらせてしまった、と大声でほざきやがって。お前部長だろしっかりしろや、なんて普段通りツッコミ入れてやっていた。のだけれど、その日は妙に西田がしぶとかった。

「高校生活ももう先が見えてるのに、このまま彼女の一人も持たないまま終わりたくねぇ! 大喜も匡も針生もみーんな彼女作って宜しくやってんのに、なんで俺は一人なんだよ! どんだけ課金したら錬成できんだ!?」

 ……アホ丸出しかつ大声の迷惑過ぎる主張にウンザリしつつも、小休憩の時間を消費してまでよそへいく気にもならず適当な相槌は打ってやる。良い友達だな私もさ。更に一歩踏み込んでやるのもまた、優しさだ。

「だったらさぁ、嘆いてないで行動しなよ。アンタ彼女欲しいばっかで具体的になにもしないでしょうが」

 核心を突いてやったせいだろう、西田はうずくまってしまった。

 そう、コイツはオープンスケベだけど別にクラスの女子にコナかけたり街でナンパしたりはしないのだ。単にモテない事をネタにするだけで、じゃあ何とかしろと言えば黙って下を向く。

「……だってさぁ……場当たり的にそんなのは違うじゃん……。もっとこうさぁ、縁とか絆とかそういうのを育んでから恋したい……」

 アホか、いやアホだ。シンデレラだって勇気を出して舞踏会にいかなきゃ話が落ちないんだ、窓から王子さまを見てたってどうにもならない。上手く目が合ったとして、そこからどうやってガラスの靴落とす気なんだか。

 こういうとこだな、西田の悪い面は。行動しない言い訳ばかり達者だ、頭悪いくせに。「アンタがモテないのはアンタだからよ、生まれ変わって出直してらっしゃい」と優しい言葉をかけてやりつつ、練習に戻ろうとした私に、あれは信じられない事を言い出したのだ。

「あ。……じゃあもういっそ、渚で良いや。お互い独り身で卒業すんのもアレだしさ、付き合おうぜー」

 私はその瞬間、思わず倒れそうになってしまった。小さい頃から愚弟含めてバカの相手はずっとしてきたけど、まさかここまでのバカがいるなんて。

 なんだその投げ遣りな態度は、そこまで雑な告白聞いたこと無いわ。

 もちろんその場では鳩尾に足先蹴りブチ込んで黙らせたけど、それで終わらないのがバカのバカたる所以。会うたびに付き合おうとかなんとか言いまくって、気が付けばクラス全員どころか部活の後輩にまで西田の告白が知れ渡るようになってしまい――結局私は折れたのだ。

 まあそりゃ嫌いではない、告られて拒むほど致命的な理由はない。ただもうちょっと頭を使え、少しは考えてモノを言え。

 

 今時点で私らの関係は、夏休みまでと殆ど変わってはいない。部活がない時は遊びにいって、学校では宿題を見せあったりあわなかったり。付き合ってんのと聞かれりゃ一応そうかなとは返すけど、うーん。こんななのかな、男女交際ってのは。理想を言えばキリがないし、別に良いんだけどさ。

 しかしまあ、楽しいと言えば楽しいから不思議だ。西田のバカっぷりをいなしてやるのも、一緒にバカやるのも中々面白い。何が楽って飾る必要がない事だな、小洒落たデートなんか一切しない。いつものコースで遊び倒して、それで笑ってまた明日ね、だもの。気楽気楽。

 世の中の恋人同士がどう考えてんのかは知らないが、まあ私らはこれで良いかな。

 だけどなぁ、もうちょっと先に進むのもアリかもしれない。揃って18になり成人を迎えたわけで、多少はそういうのも許される筈。……でも西田相手にそんな気になれるだろうか、そこは不安だ。向こうも向こうでそう思ってるかもしれないけど。

 さてと、どうしたもんか。あれこれ考えるかな、あのバカの分まで頭使ってやらんと。

 

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