まったく、柄じゃないんだけど。
インターハイ会場へと向かう遠征バスの中、私は天井を仰いで小さく息を吐く。去年一昨年と帰宅部だったから、全中以来の大舞台だ。彩昌自体がそこまで部活が盛んな学校じゃないからこの全国進出は全校規模の一大事、それなのにどうにも集中がうまくいかない。いやまあ、
それに、だ。結局栄明との――いや千夏たちとの決着は付かなかった、全国を征したところで私の目指す栄光は手に入らないんだ。試合だけを見れば私の勝ち、でもあんなのを勝利と呼べるものか。一切合財派手に散らす大一番の筈だったのに、千夏の負傷で全てが狂ってしまった。向こうだって不本意だろう、私だって嫌だ。千夏はきっと、昔と変わっていない。偏執的とさえ言える
誰も悪くない、試合中のアクシデントだ。それは分かっているのに、胸の痛みは消えてくれない。
勝たなければならない、そうでないと顔向け出来ない。全国制覇の肩書きを持ってウインターカップに挑み、今度こそ因縁を終わらせる。夢を奪われた千夏から、雪辱の機会まで奪ってしまわない為に。
素直に負けてやる気なんざ無いけど、さ。
思えば小五辺りからだから、足掛け六年くらいになるのか。二年の中断を経ても四年、人生の二割は軽く一緒に過ごした仲だ。その関係に唾を吐いて逃げ出したのは、他ならぬ私ではあるのだけれど。
もう全部飽きた、これ以上は持ちそうにない。そう言って全てから逃げ出したのだ、いくらなんでも合わせる顔がない。どうしたもんかと思ってるうちに親の離婚話が進んで家を引越し、生来のガサツさでスマホをロケットダイブさせてしまい連絡先さえ無くした。
ええいどうせもう会う事もないだろう、お互い新しい人生を歩もう。そうとでも思わなければやってられない状況。
だからこそ、だ。あれが男連れで歩いてるのを見掛けて、ワザワザ悪態吐きに行くと言うバカをやらかしたのだ。その上私、久々に千夏と話せて大分浮かれてたし。なんだよもう、片想いかよ。隣に彼氏がいたのに私ってば。
……うん、そうだよこっちも男連れだったんだよね。私はもう夢を諦めたから良いけどアンタはもっと真面目になれ、なんてどの口で言うんだ本当に。あのあと宗介にも怒られたんだよなあ、メガネのくせして細かいったら。そりゃ私が悪いけど、だからって責めるな。
まあでもあの彼氏くんのお陰で、私らの関係はもう一度動いたんだ。その辺だけは感謝してやらないといけないな、殴ったことは謝らないけど。
そう言えば宗介はもう着いたんだろうか、全力で応援したいから会場に前乗りするなんて張り切ってたけど。なんで親さえ来ないのにお前が来るんだよ、と思うがまあそれは良い。声援はどんなにあっても嬉しいもんだ、それに別に交際を隠してるわけで無し。
……しかしインターハイは数日あるわけで、泊まり掛けなわけで。……なんだろうなぁ、あれこれ余計な事まで考えてしまいそうだ。
いや、いやいや。いやいやいやいや……いかんいかん。それで腰なんかいわしてみろ、千夏に指差して笑われるわ。
集中しろ集中、インターハイをどうにかしないと決着も何も無いんだから。
まだ短い付き合いのチームメイトを見やり、私は人知れず拳を握る。バスケはチームスポーツだ、この気の良い仲間たちの為にも負けたくはない。
才能も時間も言い訳には使わない、どんな相手だろうが捩じ伏せてやろう。あの日の自分を、無敵の私を思い出せ。
それでなければ、千夏には勝てやしない。あのバカはバカだから、逃げ道がある状態じゃ話にならんのだ。こっちもバカになって、全力でぶつからないと。
だからこそまず、ここを勝ちにいこう。そうしたら次だ、今度こそ真正面から勝つ。戦って戦って、真っ白な灰も残らないほど戦って、最後は私が勝つ。そうだ、勝つから楽しいんだ。負けてなんかやるものか。
決意を新たにしたその時、なんとも良いタイミングでバスは停止する。
定刻通りの到着に足取りも軽く、私は会場へと降り立った。
さあ行ってやろうじゃないか、威風堂々たるこの私が来たぞ。道を開けろ凡人ども、――天才様のお通りだ。