もしかしたら続くかも?
一人暮らしをする為猪股家を出て、早いもので一年になる。真面目な大喜くんは週末や連休に遊びには来るけど泊まったりはせず、節度ある付き合いを心掛けてくれているのだけれども。……けれどももう少しなんか無いかな、と最近では思うようにもなってきた。
ま、良いけどさ。どのみち大喜くんが卒業して大学生になれば一緒に住めるようになる、なんて甘い考えでいた私はどういうわけか。
「――千夏先輩、カレー作りすぎたけど要ります?」
「ナツより私にくれや、バイト代まだだし仕送りも無い天下御免の無一文なんだぞ私はさ」
「まぁまぁみんなで食べようよ。ちーちゃんユメちゃん、ひなっち菖蒲の四人で」
なんだか分からないけどシェアハウスをする事になっていた。女三人よれば姦ましい、とは言うけれども四人なんだよなぁ……。
まったく、賑やかすぎるよ。苦笑しながら輪に加わる私の表情は、きっと緩んでいる事だろう。
親と上手く行かなくなったから泊めてくれ、お前が無視したら私は野宿だからな。
梅雨寒の中で大荷物を抱えた夢佳が起きたまま寝言を言ってきた時は、さすがに殴ろうかと思った。こっちはまだ一人暮らし半年くらいなのに、どうしてトラブルを持ってくる。いやまあ親友ではあるし、かつて猪股家の食客だった私は赤の他人との生活がそこまで苦ではない。苦ではないけどさ、だからってさぁ。
それに単身用賃貸マンションに二人で住んで良いものなのか、と調べたら不味いと分かった。分かったけどこのまま夢佳を蹴り出すのは薄情すぎる。
彼氏さんと住めば、と言ったら『べべべべ別にあんなの彼氏じゃねぇし! 舎弟みたいなもんだし!』と頬赤くして喚くしさ。つくづく正反対だな私らは、恋人がいる自分というものが気恥ずかしいんだろう。私の場合は隠さないといけない事情があったから黙ってただけで、むしろ言って回りたかったのに。
いっそシェアして良い部屋に新しく住むか、と考えるようになって。芸能人だし世間に顔が広いであろう花恋を通じてあれこれ探していたのだけれど、これはまた悪手だった。
「お姉が健吾とイチャつくから住みにくいー、菖蒲もちーちゃんと繰らすー」
……まあその場では、ただの思い付きだったかもしれない。しかしそれを実行してしまう行動力が、菖蒲ちゃんの菖蒲ちゃんたる由縁だ。良くも悪くも、ね。
そしてお父さんと盛大に衝突して家を飛び出した蝶野さんが加わり、家族でもなんでもない女四人の新生活が――素直に始まるわけがなかった。
まず人数が多い上に同性のルームシェア、しかも全員十代。そして各学校へと通える距離となれば部屋の候補を探すのが既に難しい。しかし今のままだと大家にバレたら追い出されかねない。
どうしたもんかと由紀子さんまで総動員してようやく見付けたのは、ルームシェア可の一軒屋。……そう、一軒屋。さすがに賃貸マンションではこの大人数によるルームシェアは厳しいというか、家族でもない同性同士はケンカ別れで家賃を払わないままいなくなる事を警戒されてしまうそうな。家族だってケンカ別れするんだから、あんまり納得はいかないけど。
とは言え良い物件はあった、しかし問題はその次にもあった。
賃貸契約って、大変だ。一人分でも面倒なのに、四人もいるんだから。私はともかく他は親の説得もあるし、保証人とかをどうするかとかも一苦労だった。実家は太いけどお父さんと険悪な蝶野さん、親が放任極まる菖蒲ちゃん、……………………夢佳。保険会社の審査もあるし未成年四人でどうすれば良いのか悩みに悩んだあげく、結局例のごとく猪股家に頼ってしまった。連帯保証人なんて責任を押し付けてしまって、今もちょっとだけ罪悪感が残っている。
どうにかこうにか新生活は始まったけど、半年で出てしまった旧私ルームは違約金が発生したし、色んな手続きも追加。波瀾万丈過ぎる。
揃いも揃って女子力というものを持たないポンコツ連中だから、暮らすのも一筋縄ではいかないに決まっている。そもそも家事は経験者がほとんどいない。まあでも、やってみればどうにかなるさ――くらいで過ごしてきた。
幸いにも大きな破綻はなく、自分の事は自分でやるから人を責める事もない。ご飯に関しても自分でやって多くできたらおすそわけしたり、足りなかったら材料費出して分けて貰ったりを繰り返している。皆ガサツだから適当な量で雑把に作る、故に加減を間違えて多すぎたり逆に食べ盛りには少なくなったりするのだ。火を通すとあんなに縮むなんて思わなかった。
そして私室もちゃんとあるからプライベートはプライベート、それは個々人勝手にすれば良い。そこで筋トレしてようがベッドの上で一人運動会しようが、別に周囲は関与しない。家賃さえちゃんと入れてくれれば。……これに関しては蝶野さんの経済力が頼りになった、お母さんたちは味方してくれているからカードも有効。いざという時にはお願いします。
それぞれ得意不得意が片寄っているから、助け合ってどうにか一人前。ガサツで雑把で適当に、なんとかなるさと生きている。
私から見た場合。夢佳はかつてのチームメイトで菖蒲ちゃんは親友の妹、蝶野さんは大喜くんを挟んでいわゆる恋敵だった時期もある。
菖蒲ちゃんから見た場合。蝶野さんとは親友で私は姉の友達、夢佳は……なんだろう。なついてはいるけど。
蝶野さんから見た場合。菖蒲ちゃんは親友、私とは元ライバル。で、夢佳は……。
…………夢佳。私の事は友達だと思ってるだろうけど…………。人見知りで口が悪くて、でも寂しがり屋という正直めんどくさいタイプ。
こんなのが集まっていればギクシャクもするけど、でも多少の事だ。機嫌が悪くなりやすい夢佳は謂わば常時ガス抜きしてるようなもので爆発はしないし、裏表がない菖蒲ちゃんとは意外と相性が良かった。蝶野さんも張り詰めすぎる癖はあれど、引き摺る子ではないし。まあこの生活が本格的に動き出す前にインターハイを経て新体操を引退したから、重責を背負わずに良くなって性格も丸くなったんだろう。
私たちは仲良しグループでもなんでもない、でもきっとこれが平穏な生活の要。お互いに重さを感じない、フワフワした他人の集まり。今はこうして生活を共有するけれど、人生まではそうしない。いずれ理由があればそれを優先し、離れていく日が来る。一生一緒、なんてのは有り得ない。なんというかまあ、各々彼氏持ちだし。
きっとこの環境は有り得ないほどの幸運で支えられてて、その絆もそこまで強固ではない。突然誰かが抜けたり、変わったりもするだろう。だけど私はこうして緩く繋がった関係を結構気に入っていて、もうしばらくこのままでいるのも悪くはないと思える。歪で不確かで、だからこそ楽しい四人暮らし。大喜くんには悪いけど、もうちょっとだけこうしていよう。