アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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日風はアオく飛び交う

 付き合っているとは公言したけれど、同居までバレては困る。だからこそ一緒に行動する訳にはいかない部分もある、何処かへ行くにしてもバラバラに出て待ち合わせるし帰宅するときは別々だ。ちょっとだけ寂しいけど、これもお互いの為。……なんだけど、これが中々大変でもあるのだ。

 出来るなら手を繋いで出たいし帰りたい、大喜くんにもっともっと近付きたいし色々したい。あと出来れば自慢もしたい、だけどそうも行かない。

 なんて話をしたりしなかったりしていたのは確かだけど、確かではあるけれども。

 どうして私は今、夢佳や蝶野さんたちと――トリプルデートなんかしているんだろうか。

 いやまあノリノリで決めたのは私なんだけど、さ。

 

 切っ掛けは夢佳の愚痴にみせかけたノロケ話だった。と言うかそんな感じだったかなと言いたくなるくらい変わったな、もっとクールで鋼鉄製みたいだったのに。バスケばっかりであんまり宗介構ってやれなかったから、たまにどっか遊び行こうかなーどうするかなー、とかなんとか笑って言う夢佳を見る日が来るなんて。

 きっと花恋も私を見て、こんな風に思っていたのだろう。ちょうど場所もファミレスだし。

 それはそれで微笑ましいしまあ良いか、と冷めてしまった紅茶を一啜りした時だった。

「あれ、あー……もしかして大喜先輩の彼女さん?」

 ふと掛けられた声に振り向くと、そこにいたのは見覚えのある男子がいる。確か前に、なんだったかでバドをやった時にペアを組んだような。

 しかし名前はどうも思い出せない、大喜先輩って呼んでるってことはバド部の一年生だった筈なんだけど。

 曖昧に笑いながら脳内検索をしていると――。

「ちょっと晴人、なんでアンタは一人でどっかいくのよ……って千夏先輩?」

 ええハイ自慢になりますが私立栄明中学高等学校の鹿野千夏と言えば、日本では私一人です。なんて返した先には誰あろうかつての恋敵にして、今は友達な新体操部のエース、蝶野さんがそこにいたのだった。

 はてしかし、この組み合わせはなんだろうか。新体操部とバド部で縁なんかそんなになさそうなのに。こうして一緒にいると言うことは、もしかして。……もしかするんだろうか。

 等と思案していたのが伝わったんだろう、蝶野さんはおずおずと口を開く。

「んー……っと。言ってなかったですけど、私今ですね、これとその……付き合ってまして」

「え。あ、あー……そっか、そうなのかー……」

 思えば一昨年の秋、インターハイで負けた後蝶野さんが大喜くんに告白したと知ってしまった。そしてそこから面と向かって『告白したんです』と鞘当てされたなぁ、あれは堪えた。そこからどうなったかは何も聞いていないけど大喜くんは私に告白してくれたし、蝶野さんも私を避けたりはしないからまあ……そういう結果になってから立ち直ったんだろうなぁとは思ってた。敢えて明言するもんじゃないし。

 そりゃ今さらとは言え報告してくれたのは嬉しい、蝶野さんが私を憎からず思ってくれているという事だから。でも出来ればこんなタイミングではしないで欲しかった、夢佳が凄い顔してるし。知らん人嫌い、と公言するくらい人見知りなんだぞ私の親友。

 そこから何をどうしてどうなったのか、気が付けば休日に遊びにいく段取りが組上がっていて。

 それを拒むような理由も特に無く、……まあ夢佳はブー垂れてはいたな。 

「何で私らまで巻き込むんだよ、お前らだけで行けよ」

「決まりきる前に面と向かってそう言えばよかったんだよ、目付き悪い癖に気が小さいんだから」

 なんだとコラなんて拳を振り上げる親友に、笑いながらサミング。

 人生には、こういう展開も必要だ。特になにも起きない、極々平凡で平穏な時間が。多少強引でも、今までとは違う選択をしていくべきだ。

 私たちは人生の大半を捧げてきたものから離れた、それは大喜くんや蝶野さんにとっても――それこそ晴人くんにも来るべき未来。その時に支えを失ってフラつかないように、色んな事をしていこう。

「別にさ、仲良くなんかならなくて良いよ。でも交流関係は広げていく方がいいし、たまには冒険もしないと。夢佳は本当いつも通りの事しかしないでしょ、昔から」

「そりゃお前だろ、毎日のルーティンに朝練組み込んでたし。パターン通りはそっちだ」

 ぬ。まあそりゃあ、そうですけど。でも朝練の理由は惰性だけなんかじゃなくて、大喜くんがいるからでもあったんだぞ。

 それに、だ。

「ぶっちゃけ夢佳、普段デートって程デートしてないって聞いたよ。こういうハプニングでもなきゃ遊園地なんか行かないでしょ、前に誘ったら『そんなん柄じゃねぇわメガネ割るぞ』って殴られたって宗介くん言ってたし」

 夢佳はなんというか、ガラッパチ過ぎる。大体いつもその辺ウロついてファミレスで駄弁って終わり、が日々のデートプランになって久しいのだとか。

 ワンパクで逞しいのは私もそうだけど、これは照れ屋な癖に寂しがり屋で重くて……つまりは余りにもめんどくさい。誰かが連れ出すしか無いんだ、これは。

 斯くして私の――私たちの休日に、一つのイベントが発生したのであった。

 

 夢佳と私は付き合いにブランクがあって、しかも少し前まではライバルだった。蝶野さんとはあまり長い付き合いでもないけど、やっぱり事実上のライバルとして過ごした。こんな機会でもないと因縁を越えて遊んだりはしないだろうから、今回は良い選択をしたと思う。

 しかしまあ、ぶっちゃけ気まずさもある。言葉では繕えても私と蝶野さんと大喜くんは、それぞれ今も色々と思うところがあるし、夢佳は本当にめんどくさい螺旋階段みたいな女だ。夢佳の彼氏さんは栄明組とほぼ初対面、蝶野さんが付き合っている晴人くんもまた愛想の良い子ではなさそう。

 傍から見たらどう見えるのだろう、まさかデートには見えまい。

 別にどう見えようが良いんだけどさ、良いんだけどね。

 でもどうして私は今、晴人くんと一緒なんだろうか。て言うか何で一塊にならない、どうしてこうもスタンドプレーばかりなんだ皆。個人競技の人達はまだしも夢佳、あんたはチーム競技の子でしょうが。

 まあでも後で合流すれば良いか、連絡受けた限りでは夢佳は大喜くんが捕まえてくれたようだから。あれはほっとくと勝手に帰りかねない、ナイスカバーリングだね大喜くん。蝶野さんは気遣い出来る子だし、あの夢佳と一緒にいられる彼氏さんなら問題ない。

 とりあえず今はアトラクションを楽しもう、晴人くんだってまさか私みたいなワンパクで逞しい子相手に善からぬ事は考えまい。大喜くんにしたって、後輩なんだから邪推はしないさ。……多分。

「そう言えば、前にバドやって以来だね」

「……うす」

 手は繋がず、でも並んで歩きながら。話はあの日のように、大喜くんの事になっていった。まあ共通の話題なんか、それしかないし。

 それで分かってきたのは、この子の真っ直ぐさ。少し大喜くんに似ているかもしれないな、うん。でも違う部分も多い、だからこそ蝶野さんと上手くいくのだろうな。

 そんなこんなで小一時間、順番待ちの行列の中。晴人くんは少しだけ緊張した面持ちで、口を開いた。 

「大喜先輩……前に蝶野先輩とキスしてたらしいんですけど。それって、本当なんですか」

 投げ掛けられた言葉に、一瞬呼吸が止まりかける。

 しかしそれは本当に僅かなもので、私に傷一つ付けることは叶わないまま風に溶けていった。

 もし以前の私だったら、もっと動揺していただろう。でも今は、今の私はそうじゃない。

「してないよ。文化祭の演劇でそうなりかけた、ってだけ。私その劇見てたからさ、知ってるんだ」

 トラブルの結果起きた事故の件だというのは、伏せておいた方がいいだろう。余計な心配させても仕方がない。

 それにもう一つ、あの距離と暗さでは唇がどうなったまでは見えなかった事も。

 今言うべきは、そこじゃない。

「蝶野さんはね、君の事がちゃんと好きだよ。だから、疑わなくて良いからね」

 彼がどうしてそれを気にしてるのか、私にはよく分かる。二人の気がおけない関係にモヤモヤして、一人で悩んでいた時期もあったから。

 私はもう疑わない、藤木くんに変な事言われたときだって『大喜くんはそんなことしない』と迷わず言えたし。

 好きな人に好きだと言うのも、好きな人を信じるのも、結構難しい事だ。だけどそこを越えてしまえば、きっと幸福しかない。

 だって私は今、毎日が幸せだから。

 この幸福が願わくば、周りにも降り注いで欲しい。私は最近になって、そう祈れるようになりつつあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局私らのくだりが無かったんだけど、これお前を殴れば良いのか。人を当て馬にしくさってからに」

「殴るのは構わないけど、俺のせいじゃないからね。またいずれ、って事じゃないかな」

「なんだよ、当てがあるってのか」

「……さぁ……どうだろうね」

 

 

 

 

 

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