アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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アオく暮れる冬の夕陽に

 ナツは相変わらずだな、あれの相手させられてる奴はお気の毒さまだよ実際。

 新居へ遊びにいった感想は、正直言ってそんなもん。あんなもん心配したって始まらない、ほっとく方が良いか。

 そういや隣にチャラついた兄ちゃんが住んでるんだな、来た時ちょうどエンカウントしてお菓子を貰ってしまった。これ落雁で良いのかな、私が知ってる落雁って屋根瓦みたいに硬いお菓子であってこんなボロボロ崩れないんだけど。

 しかし通りすがりにお菓子を渡すとは、餌付けのクセがあるのかな。

 少し気にはなるけど、ナツは私と同じくワンパクで逞しい子だ。さすがにちょっかい出しはすまい、あの手の奴は松岡含め結構見てきたから分かる。一応ナツも危険を感じるアンテナは鋭敏だ、近所に交番もあるから万が一の時には駆け込めるだろう。

 ……そりゃ私も散々言われたんだよ、独り暮らしするってなってから。近所に若い男が住んでるなら気を付けろ、とかさ。別に誰が住んでようが常に自衛はするよ、生きてるんだから。それを過剰な警戒とか言われたくはないな、うん。

 まあそれはそれとして、だ。あのチキンタツタ野郎、分かってんのかね。次に引きずり込まれたら、多分只じゃすまないぞ。

 

 

 大喜くん可愛い大喜くん可愛い、そればっかり何度聞かされたか。ひたすらのろけ倒すスタイルはやめてくれ、私に効く。

 出された茶を啜りつつ、そんな事を思ってみる。

 最後のウインターカップ、あの死闘を終えて私たちは友人に戻ったわけなんだけど――コイツこんなだったかなぁ。栄明時代はポヤヤンとして何も考えて無さそうだった、て言うかジュニアチームの頃からそんな風にしてた気がする。男の子きらーい勉強きらーいバスケすきー、なシンプル思考だったんだけどなぁお互いに。当時から多少タッパが伸びて皺が寄った、でもそこまで変わってないつもりなんだけど、傍から見たら私も色々変化したんだろうか。

 きっとそれでも変わらないのは、私たちの関係だな。あれだけ拗れて対立しても元の鞘に収まったんだ、この先どうなろうと破綻はするまい。

 なんて小っ恥ずかしい事を考えている間も、バカの桃色トークは続いてた。

「それでさ、花恋に変態ちーとか言われちゃって。そりゃちょっとだけ変態かもしれないし言い出したの私だけど、そこは否定して欲しかったなぁ」

 私は大人だから、黙ることも知っている。何処をどう否定すんだよ100%の変態だろお前は、と毒づいたりはしないのだ。いやあれこれとバカップル話を聞かされていると、言いたくて仕方ないんだけどな。

 嗅ぐな触るな押し倒すな、少しはブレーキをかけろブレーキを。なんでお前は一速と幻の七速しかないんだよ、何処かの試作モビルスーツか。彼氏の方が理性的みたいだから何事も起きてないんだぞ、控えろドスケベめ。

 このままほっとくと、せっかく入った大学を育児休学しかねないか。それは良くないな、いろんな意味で。

 どうせポンコツなんだし、殴ったら直るかもしれん。どれ一発、と振り上げかけた拳はしかし。

「夢佳のとこはどうなの? 彼氏さんと結構長いでしょ、そろそろ色々あったんじゃないの?」

 不意の一言に阻まれ、当てもなく引っ込まざるを得なくなった。

 いや、いやいや。いやいやいやいや、待て待て。やめろ、そんな話は。こっちに向けんなバカ。

「あ、あー……まあそりゃ、な。付き合ってりゃそのほら……うん」

 基本私は聞くだけならまだしも、自分のそういう話は得意じゃない。バスケ一旦辞めた後友達作り直したけど、そっちの連中が恋愛体質で面食らったのを覚えてる。何でそんなにホイホイ恋愛出来るんだ、とうっかり言っちゃったら『好きになった人と付き合うとか贅沢言ってたら彼氏なんか出来ないよ、妥協していかなきゃ』とワケわかんない返事が来たっけ。なんだよそれは、無理に相手探すなよ。

 そこから高校生になっても変わらないまま、でも二年に上がってから宗介にあって――多少は変わったんだろう私は。最初は舎弟扱いで連れ回してて、でもお互いの気持ちは友達とかそんなんじゃないと気が付いて。

 で、……まあ、色々とありまして今に至っているんだけど。

 それを素直に話したくはないな、照れ臭いし面倒だ。て言うかコイツ性格悪くなってないか、私が恋バナとか苦手なの知ってるはずだよな。

 あのジャガイモ野郎の影響か、今度一発殴ろう。

 

 

「修学旅行が終わったらさ、お土産持ってくると思うんだよね。その時にねーその時にさー」

 なんてほざきつつニヘニヘと顔を蕩けさせていたナツに、そろそろバイトの時間だと嘘を吐いて部屋を出て。私は夕暮れの道で、溜め息を一つ。

 やれやれだ、全く以てやれやれだ。ありゃ確実に襲う気だ、肉食獣め。それこそ御隣から壁ドンくらうぞ、バカップルめ。

 しかしまあ――幸せそうで、なによりだな。人生の半分くらいを費やしたバスケを引退しても、人が変わる訳じゃない。相変わらず夢中になったら一直線、滑って転んで泣いて笑って、この先もずっとあのバカはバカのままだろうな。

 さて、……と。

 懐から取り出したスマホをタップ、十数秒の間を置いてやって来た耳慣れた声へと私は言葉を紡いでいく。

「お前次の土日暇だろ? 暇だよな、遊び行くぞ」

 ・ ・ ・ ・

「うん泊まり、二人で。良いだろ別に、カップルだぞオイ」 

 ・ ・ ・ ・

「あ? なんだお前笑ってんじゃねえぞ、メガネ割ってやろうか。……いやそうじゃなくてな、着ないぞそんなもん」

 ・ ・ ・ ・

「おう、じゃまたな。……はいはい、愛してるぞー変態メガネー」

 通話を終えてスマホを仕舞い、夕陽に向けて伸びをする。さて、これで良い。どうなるかは知らないが、まあ構うまい。

 ナツがバカなら私もバカだ、バカは考えるより吶喊する方が良いのだ。

 私は心から、そう思う。

 

 

 

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