アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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如月にアオく風薫る

 向いてないんだよな、実際。料理なんかしたことないし、母親に教わるのも気が引ける。作るものが作るものだから、尚更。

 何が溶かして固めるだけだから簡単だ、まず溶かすのが大事(おおごと)だわ。湯煎ってなんだよ義務教育で教えろよ、いや教わったのかもしれないけど。

 それに業務用チョコって量入ってて安いけど味がしないと言うか、カカオ強すぎと言うか。味を足せってんだろうけど、そこの加減も分からん。私みたいにガサツな生き方してきた人間が、こんなもん出来るか。

 ナツや花恋なら私よりこういうの得意だろうけど、彼氏ののろけ聞きたくないから相談する気にならん。特にナツはホント、大喜くん可愛い大喜くん可愛いばっかりだからな。あのチキンタツタ野郎、そのうち愛の重さで潰れるぞ。

 なんにせよ独学でやるしかないけど、それがうまくいかない。打つ手も上げる手もない、とね。

 明日は全国的にバレンタインだと言うのに、なにやってんだか。高望みせず適当な市販品で妥協するべきだったかもな、こんなもん貰っても困るだろ。

 溜め息一つ吐いて、そのついでに口へと入れたチョコの成れの果ては、ボソボソとして苦味が強い。まるで私の人生だな、これは。

 

 ナツと同じ視点で見てきた世界が、微妙にズレ始めた。それを自覚したのは中学二年、自分が天才ではない事と親の不和に気付き始めた頃。

 それはどうしようもない、致命的な落とし穴だった。もうバスケは楽しくない、ナツの隣にいるのが苦しい。家にも学校にも居場所はない、逃げ出したくて堪らなくて――逃げ出した。

 頭を使うのが嫌になって、部活もいかない家にも帰らない。新しい友達とフラフラ遊び歩いて、娘のそんな行状は離婚しようとしていた親の背中を押す事となった。

 何もかも見下り半で逐電し、駆け込んだ彩昌学園。そこで会ったのが、宗介だった。

 無駄にデカイし目付きも極悪、大抵のやつには初見で怖がられる。それを盾にして人付き合いを拒否していた私に、あれはいやになるほどグイグイ来やがった。何度突き放しても殴り飛ばしてもめげないあのバカを見てて、周りも「後藤は悪いやつじゃない」みたいに思うようになったのか、次第に接近してくるクラスメイトも増えていく。しかしクラスのグループlineなんて実際にあるもんなんだな、少なくとも中学時代はそんなのフィクションだと思ってたわ。

 で、高校生活も軌道に乗った時期。放課後に不意打ちであれは、……『好きです』なんて言いくさった。

 当然その場はふざけんなと蹴り飛ばしてやったけど、次の日もその次の日もあいつは引き下がらなかった。そのうち挨拶代わりに好きですが来るようになって、クラスメイトからも夫婦喧嘩とか夫婦ドツキ漫才とか茶化されるようになって。正直そういうのは苦手だし恋愛なんて興味なかった私も、段々頭ごなしに却下せず宗介に向き合うようになっていったのだ。

 私なんかよりもっと良いのがいるだろうに、と言ったらあれは真顔でこう言った。

「良い悪いじゃなくて、俺は夢佳が好きなんだ。夢佳に俺を好きになってくれとは言わないけど、俺は気持ちを変える気はないよ」

 ――……そりゃまあ、傍から迷惑な宣言だろう。私だってそう思う。しかし私はかつて知ったのだ、好きは最強の感情だと。

 好きはいつか冷めて消えるかもしれない、でも好きでいる間は最強でいられる。ずっとずっと好きで居続けるなら、それは何よりの幸せなのだろう。

「あー……、そっか。バカだもんな、お前」

 最強状態のバカ相手に、私があれこれと言っても仕方あるまい。別に損をする訳じゃないし、良いか。

「言いたい事は分かったから、もう毎日告ってくんのは止めろ。暇なら遊んでやるからさ、それで良いだろ」

「うん。もし気が向いたら、俺を好きになってくれて良いからね」

 はいはいバカ野郎、と鳩尾に足先蹴り一発。色気のない話だけど、私たちの縁はこうして一段階進んだのだった。

 

 あれからナツと復縁したりバスケ復帰したりしつつ、私と宗介の仲は途切れる事なく続いている。うんまあそりゃ色々あったけどさ、色々。あのバカニーソ履いてくれとかツインテにしてくれとかバカばっか言うしな、ツインテなんてそんなアニメキャラみたいなの似合うわけないだろうに。このタッパだぞ、考える前に分かれよ。服だって宗介が嬉しそうにするから女子女子したやつも着るようになったけど、最初は母親に『あんた何で女装してんの』とか言われたんだぞ。産んどいてそれかよ、制服以外でスカート履かなかったのはあんたが買ってこないからだぞ。

 いやま、それはもう良いんだけど。

 問題は今目の前のあるチョコらしき残骸をどうするか、だ。さてと……うん。

「ま、いいか。食えないモノは入ってないし、あのバカ頑丈だし死にはしないだろ」

 愛情を生で混入しすぎて食中毒起こした、とかは聞くけど今回そんなことはしてないから大丈夫。とりあえずくれてやろう、変な顔したら殴ってやる。

 雑把な包装も味がある感じで良いだろう、私らしい事で。

 明日になったら、宗介の所へ行ってこれを渡す。そして日頃の労いをしつつ、それともう一つサプライズをくれてやる。

 もし私が『好きだ』って言ったら、どんな顔するかな。想像もつかないけど、だからこそ楽しみだ。

 私はこれから、最強になる。天才で最強かつ無敵の私が贈る、特製チョコを食らうが良い変態メガネ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みにね夢佳、愛情は隠し味程度にしないと健康に良くないよ」

「あんたの愛情はラジウムか何かなの……?」

「量を入れすぎたせいか大喜くんに気付かれて、しかも調子崩して病院行くことになってさ」

「何入れた!? ホントに何入れた!?」

「えーと、あー……、なまの……あいじょうをね……」

「二度としないでよ、親友が殺人犯とか嫌だからね私」

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