きっと私は、死ぬまでコイツを誉めないな。向こうだってそう思ってるだろうけど、さ。
それに私たちは仲良くあった事がない、同じチームにはいたけどそれだけ。
――千夏さんを挟まなかったら、多分部活以外では会わなかった。
だからそう、これは本来絶対に有り得ない組み合わせ。
なんで私が夢佳とサシでお茶してんだろうなぁ、本当に。
「あ"。……夢佳」
「……おう渚」
部活から解放されると、朝練も休日登校も遠くなる。放課後だって自由時間、そもそもが三年生は殆ど自由登校だ。
そんなこんなで平日は疲れもせず終わってしまう、体力は有り余っていた。
しかし遠出する用もなくぶらぶらして休日を無為に浪費していた途中、どういう訳だかかつてのチームメイトとエンカウントしての第一声がこれだった。色気もへったくれもありゃしない。
顔を合わせたのはこないだのウインターカップが邂逅が最後、そこからは学校も生活圏も違うから会うわけも無い。
栄明と彩昌、袂を別った私たちなのだから当然の事。
なのになんでこんな時にバッタリと、こんな奴と。しかもこんなお互い……女子女子した格好で。
夢佳は前みたく髪を切っているのもあって、女装にしか見えない。制服でスカート姿は飽きるほど見たはずなのに、なんでこうも違和感バリバリなんだろう。
「あんたそういう格好だと違和感スゴいね、イケメンだしタッパあるし」
「……人のこと言えんのかゴール下のメスゴリラ」
言うに事欠いて何て事言いやがるこのイケメンめ、誰がメスゴリラだ誰が。て言うかそれ言い出したら女バスなんて、揃いも揃って統率の取れたメスゴリラの群れだぞ。
そこから売り言葉に買い言葉、あんだとこんにゃろうやんのかコラ、と語彙を失い取っ組み合いになりかけたのがついさっき。
でもまあ二人とも人目を意識する程度の常識は持ち合わせていたから、そそくさとその場を離れファミレスへと駆け込んだ訳でした。分かりやすいですか。
「そういやナツ、彼氏出来たんだな」
「あぁ大喜くんね。良い子だよあれ」
私たちの共通の話題はバスケとそして、千夏の事くらい。だから話はそうなっていく。
夢佳も大喜くんに会った事はあるというか、二年の時のウインターカップに駆け付けて来たのは大喜くんの働きあっての事だったそうだ。息を切らせてチケットを渡し、行ってくれと頼んだのだという。仲直りのきっかけになったというのは微笑ましいしバスケに復帰してくれたのも嬉しいけど、まさかあそこまで完璧に強化された状態で戦う羽目になるなんてね。ブランク長いくせにスタミナ以外全てを叩き伸ばしくさってからに、なんだこの天才め。
でももし夢佳が彩昌としてコートに上がってくれなかったら、私たちはずっとモヤモヤを抱えていただろう。夢佳がいたら、夢佳なら、と負けた時に言い訳ばかりしてさ。そうならなかっただけでも、御の字か。
これも大喜くんのお陰って訳だ。
「んー……悔しいとか無いの?」
「む。先越された、ってだけで悔しがらないでしょ」
うに、とコーヒーを一啜り。そういう事に熱心で、色々と牽制しあってるのもいるにはいるけど私たちはそうでもないのだ。正直色恋沙汰なんて無縁も良いところだし、出来た出来ないで揉めたりはしない。良かったね、くらいのものだ。
それに練習すっぽかして男にうつつを抜かしていたとかなら別だけど、大喜くんは千夏にとって良い影響をくれる相手だった。
これからもきっと、そうなんだろう。あの魔神を御せる奴はそういない、今後も千夏をしっかり支えてほしいものだ。
「あーいや……お前らやたら距離近いし、細々世話焼いてるってか甘やかしてたし、ずっと付き合ってるんだと思ってた。レズってマメなんだなーって」
「友達以上の事はしてないし私も千夏もノンケなんだけど?」
甘やかすというのはそこまで否定しない、あの子基本ぽややんとしてるから周りが支えないとダメだし。自分が男女ともにモテると分かってないからこっそり盾になったり、なんなら大っぴらに公認彼氏として邪魔な連中を蹴散らしたりもした。
て言うか悔しいのはむしろそっちじゃないかな、とは言わない。拗れるから。
中等部時代夢佳は本当に千夏大好きだったからなぁ、無愛想で鉄面皮のバスケ特化女が千夏には感情的になっていた。だからこそ別れが辛くて悪態吐いたんだろうな、うん。
その夢佳も今は彼氏持ち、世の中分からないもんだ。今の女装だって私みたく単なる気紛れでなく、彼氏さんへの想いもあるんだろう。
……なんで私は暇になった今も彼氏出来ないんだろなぁ、バスケのスペック以外こいつらと似たようなもんなのに。……そんな事言ってるからかな、やっぱり。
そんなこんなで時間は過ぎて、ふと夢佳が時計を見やった。
「あー……そろそろ行くわ、宗介と予定あんだわ」
「そ。精々末長く爆発しなされ」
うるせー言われるまでもねえや、なんて軽口を叩いて立ち上がる夢佳。
きっちり割勘にして店を出ると、そのまま背を向け私たちは逆方向へと歩き出す。
お互い春からは華の女子大生、私は県外に行くからもうそこらで会う事は無いだろう。わざわざ予定を作る程仲が良くもない、私らはあんまり好き同士ではないのだ。
まあでも嫌いあう程仲が悪くもない、向こうだってそうだと思う。
死ぬまであんたを誉めないけど、なんとなく通じあうものがある。
いつか何処かでばったり会ったら、また今日みたいになるのかな。楽しみなような、そうでもないような。
一人歩く道は冬なれど活気があり、風は冷たいけれど雲間から覗く光は眩しいくらい。
なんとなく、気分が良い日だ。西田のバカでも誘って遊びに行くか、それとも千夏たちの所にでも冷やかしに行こうか。
――さて、どうするかな。