アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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アオい夢の中で

 特徴がある方ではない、主人公なんて勤まらない。お星さまの引き立て役、木っ端モブA。

 それでもまあ、完璧に知らない人扱いなのは少しだけ堪えた。

 同じクラスなのに、て言うか――小学生の頃試合で何度かやりあったのに。

 夢佳という名前は珍しい、それに姓は変われどそのキツい目付きは忘れられる訳もなく。

 ああそうだ、あの嵐みたいな子だとすぐ気が付いた。

 圧倒的で暴力的で、なにもかも薙ぎ倒してしまう掛け値なしの天才。勿論当時の私は今よりもずっとバカだったしそんな表現は知らなかった、ただその強さに気圧されるだけ。

 チームメイトは何人も気持ちをヘシ折られ、私も結果的には中学以降エンジョイ勢となった辺りかなりやられていたな。

 ミニバス引退後はバスケ強豪の栄明に進んだと聞いて、てっきり中高でも暴風のように荒れ狂うものだと思ったのだけど。

 相方の鹿野さんは雑誌の取材を受けたりしていたのに、何故か夢佳の話題は聞こえてこなくなってしまった。

 そして彩昌に入った日、私は三年ぶりに夢佳を見て……分かってしまった。

 夢佳は、折れてしまっている。何があったか無かったのか、それは分からないが。とにかくもう、彼女はあの日感じたようなエースの風格を失っていた。ざんばらに伸ばした髪に投げ遣りな態度、拗ねて拗れて全部捨てた諦観の相。

 でも、それでも。私は夢佳の凄味を知る身として、何度も彼女をバスケ部へと誘ってみはした。

 しかし結果はいつも同じ。

「バスケ、か。興味ないわ」

 見もしないままチラシを折り畳んでバッグに放り込み、毎回私の勧誘を袖にして夢佳は去っていく。

 幾度繰り返そうとも、同じだった。あんなにも強く激しかった夢佳はバスケを捨てた、それは覆せるものではない。

 さすがにそれ以上食い下がる気はせず、私はそのまま諦めたわけだ。

 

 交流はなくても一応同じ教室にいるし、夢佳は目付きはともかく美人だから割かし目立つ。

 気が付けば目で追ってしまうのは、仕方ない事だろううん。

 授業が終わればさっさと帰って、週に三日は歯医者のバイト。たまにバスケットボール片手に近所の小学生をからかうけど、それ以外では基本学校と家の往復だけ。

 そんな日々が変わったのは、風が冷たくなった頃。どうも同じクラスの宗介くんと付き合いだしたらしく、二人一緒にいる姿をよく見掛けるようになった。

 ……いやまあどっちかって言うと、ガキ大将と子分みたいな感じでもあったけどさ。宗介くんがなんか余計なこと言っては夢佳にシバかれる、というね。

 そして二年の冬、夢佳はまた大きく変わった。それはウインターカップ会場の外で、鹿野さんと何か話していたのが切っ掛けになったらしい。

 どういう化学反応が巻き起こったか、バスケ部に入りたいとまで言ってくれたのだからすごい話。

 入学当初の事は覚えてなかったのか、勧誘とかされたことないですみたいな感じで入部届け持ってきたのはまあ良いんだけど。良いんだけど、部内のユルい空気を力尽くで叩き直そうとするのはちょっとだけ困ったよ副部長としては。

 まあでも夢佳が入ってからのうちは一足跳びで強くなり、インターハイまで突き進めた。 

 夢佳としては、不満だったようだけど。

 鹿野さんが試合中に負傷退場し、夢佳は明らかにモチベーションを失った。そもそも全国に行けたのが望外だったし、それはそれで仕方ない。

 その夢佳がすべてを賭けようとしているウインターカップが、今始まろうとしているのだ。

 

 私は何処まで行っても、夢佳にとっては脇役。夢佳が戦う理由は彼氏さんや鹿野さんで、私ではその任を背負えない。

 夢佳のおかげでここまで来れた、来てしまった。場違いな幸運に振り回されている私はでも、前に立つ夢佳を支えたいと思ってはいるんだ。

 その背中は私がかつて見た、憧れた背中。道を開けろ凡人ども天才様のお通りだ、と覇気を纏い偉容を示すエース。

 言えはしないし、言う気もない。だから心の奥で、そっと呟く。

 貴女に逢えて良かった、一緒にバスケがやれて良かった。

 この一年間、ずっと私は心地好い夢の中にいた。

 だから――ありがとう。

 

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