「本ッ当に付き合ってないわけ!?」
島崎さんは俺に指を突き付える、荒ぶるツンデレのポーズで真剣な顔。守屋さんもハッキリしなさいよ陰険メガネ、とそれに続く。針生先輩は、……面白がって着いてきたんだろう、後ろでニヤニヤしているだけ。まったく性格の悪い人だ。
とは言え、だ。
「うん、付き合ってない」
「別にそういうのは無いかな、私も」
追随して否定してくれる蝶野さん、こうして二人揃って否定すれば――。
と、思ったのだけれど。
島崎さん守屋さんは一斉にブーイングを始め、針生先輩も照れてないで本音言えよーと囃し立ててきた。なんなんだよこの連中は、話聞けよ。
しかし本当に、そんなんじゃないんだよな。
「先週末、デートしてたの見たわよ。二人で映画館から出てきて、結構長い時間喫茶店にいたじゃない」
ジト目の島崎さんが言ってるのはまあ、間違ってない。
キャストだけはそこそこ豪華だけど話題になり損ねてる地味な新作がちょっと気になるんだけど、って事で俺が誘われたんだ。栄明のスターオブスターズオブスターズこと蝶野雛さまが寂しく一人映画なんか出来ますか、となんだか馬鹿げた理由で休日を潰された俺の身にもなってほしい。一人映画でも一人カラオケでも一人ディズニーシーでも、やりたいなら勝手にすれば良いのに。
そして前評判通り映画の出来は微妙だった、詰まらなくはないが1000円払い二時間半拘束されてまで見る価値があるとは思えなかったな。そのうちアマプラ辺りで配信するだろうし、それをBGVがわりに部屋で流せば十分だった気がする。
だけどそういうコンテンツは、話のネタにはなるもんだ。クソゲーは本当に詰まらないがクソゲーの話をするのは本当に楽しい、みたいな。詐欺スレスレのPVやスタッフの愚痴がそこかしこに載ったパンフを肴に、喫茶店で日がくれるまで楽しくダベらせて貰った。て言うか島崎さんはずっと見てたんだろうか、それこそ暇だな。
……でもそれは、男女交際とは違うだろ。そんなカップルがいるかよ、中学生でももっと華のある付き合い方するぞ。
一通りそうやって説明はしても、島崎さんは呆れたように首を振るだけ。なんて頑固なんだ、この女は。
守屋さんも守屋さんで、証拠があるんだからーとスマホを翳してきた。
そこにあったのは、俺が持っている冬限定さつまいも鯛焼きを横からかじる蝶野さんの姿。
ああ、これは確か先月の時だな。
夏場にソフトクリームを乗せた鯛焼きを出したり、季節やイベントに併せてちょこちょこ限定鯛焼きを出すあの店に寄ったんだ。今日はチートデイだからスイーツ解禁!って言って、蝶野さんは二月限定バレンタインチョコ鯛焼きを頼んでた。んでもってそれを平らげたあと、そっちも美味しそうとか言い出して不意討ちでかじりつきやがったんだよ。
自分で買って食べろやと振りほどこうとした時には既に半分近くが食い千切られ、すっかり寂しい姿になってしまったのを覚えている。
「スイーツ食べさせあいとかさ、絶対付き合ってる距離感じゃん!」
その画像だけ見たらそう見えるかもしれないけど、そもそも「食べさせあい」じゃねえし。あれは「強奪」或いは「
それにしても守屋さんは何処からどうやって撮ったんだ、そっちの方が気になるわ。
この人も謎が多いんだよ、何者なんだろう。
あれから長々と話しても、中々理解してもらえないのは何故だろう。
人間色恋沙汰だけで生きてる訳じゃあるまいし、それに――蝶野さんはまだ大喜の件を引き摺ってる段階だ。まさかもう次へ行こうとは思わないだろうし、暫くはそういう事を望まないんじゃないだろうか。
しかし針生先輩が余計なこと言い出すんじゃないかと思うと、気が気じゃない。この人蝶野さんと大喜が親しいのは知ってても、告白したことなんかは聞いてない筈だ。「そういうの、てっきり猪股の方だと思ってたけどな」とか言い出したら、さすがに不味いぞ。後で俺が殴られてしまう、それはキツい。
さて、どうするかな。ここは俺一人が言い訳したって無駄そうだ、向こうからもまた何か言ってもらわないと。
そんな考えが伝わったのだろう、蝶野さんも隣で口を開く。
「まあ、仲は良いと思うけどね。正直今は恋愛とか興味ないし、春の新体操選抜があるから結構忙しいんだよね私」
そろそろ帰りたいというオーラを隠さない蝶野さん、それに乗る形で俺も追撃。
「なんでもかんでも色恋沙汰に結びつける方が、どうかしてると思うぞ」
これもまた俺の本心、そこまで色恋主体で生きていられるか。
それでも納得が行きかねるのかポツポツと投げ掛けられる糾弾の言葉を、のらりくらりとかわしていく俺たち。
風も冷たさを増して、針生先輩がくしゃみをし始めた頃。この馬鹿げたにらみ合いは、ようやっと終わりを迎えた。
「んー……まあ……そうなのかなー……」
「メガネ一人が言ってんならともかく、雛っちもそうなんだしぃ……」
「まあどうでも良いや、て言うか俺花恋と用事あるからもう行くわ」
つくづく無責任な事を言いながら背を向ける針生先輩、それに文句を言いながら隣に着く守屋さん。残されそうになった島崎さんも慌てて歩き出し、俺たち二人だけが公園に置いていかれてしまった。
なんなんだ、いやもうなんなんだ。面倒な連中だな本当に。
「しかしまあ、そんな風に見えてんだねぇ。まさか匡くんと私が」
「……らしいね」
まったく以てやれやれだわ、と蝶野さんが溜め息を吐くのにあわせ、こっちも小さく嘆息する。
強いて言うなら俺たちの関係は、腐れ縁ってところだろうか。結局それくらいが一番良いんだ。
俺としては自分があれこれするより、見守る方が気楽で良い。それに――一度懲りてるし、な。
「私はもう暫くそっちは無くて良いわ、あんな心理的にブン回される毎日は勘弁だもの」
苦笑しながらもぷらっと歩き出した蝶野さんの背中を見送り、一人残った俺はベンチに腰を下ろす。
人を好きになるのは楽しいけど、とにかく疲れるんだよ。それは俺としても骨身に染みてるけど、蝶野さんに関してはもっと深刻だったろうな。なにも出来ないまま諦めた俺と違って、面と向かって告白までしたんだから。それですぐ立ち直って次ってわけにはいかないだろうな。
まあ、でも。いつかまた蝶野さんが誰かを好きになれる日が来たなら、俺としては応援させてもらうつもりでいるけれどさ。
特に意味はないかもしれないけど、友達としてはそうするべきなんだろう。
頑張れ我が友、骨くらいは拾ってやる。