アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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アオ揺らし風は往く

 にしても、まさか。こんな事になっているとは、さすがの私でも想像が付かなかったな。

 何処かで言ってくれても良いのに、なんて水臭いったら。ああでも、言えなかったのかも知れない。あの子は変な所で訳分からない気の回し方するから、勝手に拗れさせててもおかしくない。それに最初話を聞いたとき、「あんたバカなの?!?」とかホントの事言っちゃったし、そこで萎縮したりもしてそう。

 でもあれは千夏が悪いでしょう、だって――後輩男子の家に住んでるとか言うんだもの。いくらバスケを続けたいからって、私たちと離れたくないからって、男子がいる家で寝起きするなんて。自分を粗末にしすぎでしょうよ、首根っこ引っ付かんでうちまで引きずって帰ろうかと思ったよ実際。

 だけど、でも。きっと私が考えていたような事は、一つも起きやしなかったんだろうな。

 そうでなければこんな風に爽やかな顔で笑えない、あんな風に明るい声で言えやしない。『大喜くんと、付き合うことになりました』――なんて。

 何があったか詳しくは分からないけれど、一つ確かな事がある。

 千夏さんが今、とても幸せだという事。それは親友を名乗っている私としても、喜ばしい事なのだ。

 でももうちょっとさあ、タイミングとかは考えてほしかったよ。練習前の雑談中に言うことじゃないよ、千夏さんや。

 

 度々一緒にいるのを見掛けてはいたけれども、特に気にしてはいなかった。あの子はワンパクで逞しい割にぽややんとしてるから、男子のファンが割かし多い。まあその流れだろうな、くらいの認識だったっけ。

 それが何となく違うんじゃないか、と思ったのがバド部の練習試合を見に行った時。なんか妙に気にしてるな、と思ってちょっと鎌をかけてみた。

 しかしまあそれで『誕生日に一緒にいた』『実は一緒に住んでる』なんて、ろくでもない爆弾が振ってくるとまでは思っても見なかったけどさ。

 中身はともかくとしても分類上は女子高生というカテゴリの末席にいる筈な千夏さんが、一個下の男子の家に住んでいる、と。そんな重大な話を聞いて心配の一つもしない程、私は薄情じゃない。

 いくら無害そうな可愛い子でも、男子は男子だよ。うちの弟だって最近色気づいて気持ち悪いったら、あれこれヤなもの隠し持ってるし。下手したらこの美貌の姉相手に不埒な事を考えたりしてんじゃないかと思って、部屋に鍵付けたくらいなんだから。……うんまあ、美貌のってのはちょっと言い過ぎか。

 でも私だって千夏さんと同じ歳だし、こう見えて多少はモテてるんだしね。鬼も十八番茶も出花、って言うし。あー……いや別に実の弟から()()()()目で見られたくなんか無いけどさ、あーあー穢らわしい穢らわしい。

 こういうのは気にすれば気にするほど不安になるものだけど、それでも止まらない。千夏は大事な友達だもの、変な目になんかあってほしくない。

 何日かそれとなく()()しても真相は分からないまま、時間だけが過ぎていった。

 

 その不安が杞憂かもしれない、と思ったのがつい先日。ウインターカップに挑む段になってからだから、まだ一月も経ってない。

 先輩たちが引退して背負うものが増え、夏よりもずっと辛い立場になった筈の千夏は――良い顔で笑えていた。なにかを振り切ったように、真っ直ぐ前を見詰めていた。

 それは大喜くんとやらのお陰なんだろうか、それとも何か別の事なのか。それは知らないけれど、少なくとも千夏に良い影響を与えてはいるようだった。ただの同居人じゃなくてもう付き合ってるんじゃないの、と初戦を終えたあの日からかってやろうかとも考えたけど、生憎それどころじゃなくなってしまった。

 やー……まさか夢佳が観に来てたなんてなぁ、それに天下の往来で子供みたいに盛り上がってるし。あの光景に圧倒されてバカ話する程の余裕がない、そして反省会と作戦会議を兼ねてファミレスに移動する予定だったから時間も無かったんだよね。そんで千夏はさっさか帰っちゃうんだから、忙しいったらもう。

 そんなこんなで年が明け、部活が始まった今日のこの日。

 突然こんなドデカイ打ち明け話を聞かされ、私としてはただ笑うしかなかったわけです。

 

 思えば中学からの付き合いで、この子のめんどくさい面も見てきたといえば見てきた。でもきっと、これからもっと大変になるんだろう。

 千夏はあの通りのパヤパヤ人間だから、周りを盛大に巻き込んではワケわからない事をやらかす。けど運はやたら良い方からどうにか難を逃れて生き延びるんだ、世の中そんなもの。運と縁はあっても、因果応報なんてものは無い。幸せになったらずっと幸せでいればいい、揺り返しなんか来ない方がいいに決まってる。

 あの子がポケポケした顔のまま生きられるように支えてあげるのが、友達としての勤めってもんだろうな。

 まあとにかく、部活が終わったら改めて子細を聞かせてもらうかな。今はまず、目の前の練習に集中しないと。次の夏が最後のインターハイ、準備期間はいくらあったって足りやしない。千夏さんが彼氏くんと勝利の悦びに酔えるように、そして私自身の夢の為にも、全力で駆け抜けていこう。

 さぁ――吹き抜けろ、アオい暴風。何処までも、ずっと。

 

 

 

 

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