アオのハコ短編集(仮)   作:扇町グロシア

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アオい光に照らされて

 俺たちはいったい、何をしているんだろう。

 ハイテンションなのは西田新部長だけ、俺と針生先輩は揃って肩を竦めている。対面にいる女子三人も、うち二人は何処か戸惑っている感じ。まあ西田新部長、女子受けはしないからなあ。なんでこの坊主頭だけテンション高いの、ってなもんだろう。

 そして最後の一人はこっちを、と言うか俺をムスッと見据えている。

 ……そりゃそうだろう、なにしろこの子にはその資格がある。不満全開な理由にも納得がいく、そこそこ長いつき合いなんだし。

 目の前にいる彼女の名は、蝶野雛。半年前俺に告白し、何ヵ月かを経て付き合えないと拒絶の意思を伝えた、元親友なのだ。

 髪型を変えて服装も大人っぽいから、顔を知っている筈の針生先輩も気付いていない模様。西田新部長は、……死ぬほどガサツな人だし毛筋程もわかってないだろう。雛のやつ、適当に偽名も使ってるし。

 俺を見てひきつった顔をしたのも一瞬、とりあえずは場を保つことを優先してくれてはいるけれど、どうなるか分かったもんじゃない。

 まったく、どうしてこうなった。

 

 

「スポーツ男子はモテる、それが摂理だ。なのにどうして、俺には彼女がいないんだ!」

 そりゃまあ西田新部長だからでしょ、と言いかけて俺は口をつぐむ。いやいや、本当のことでも言って良いことと悪いことがある。

 にしてもこの人の場合、あんまりにもモテたいモテたい言いすぎなんだよな。誰か好きな人がいる訳じゃなく、ただ女子にチヤホヤされたいってのが俺にはどうも分からない。やることいっぱいあって忙しいのに、そこへ更にあれこれ足してどうするんだろう。 

 俺は千夏先輩を好きになってつき合い出して、それでもう一杯一杯。雛に告白されて悩んでる間も、生きた心地がしなかった。不特定多数からあんな風に想われたら、過労で死んでしまいそうだ。

「そうやって女オンナ言ってるからだろ。それにスポーツ男子っていうならエースプレイヤーになれよ部長、……って大喜が言ってたぞ」

 なんだとーと拳を振り上げてきた西田新部長から逃れ、俺は余計なことを言いやがった針生先輩の背後へと回り込む。いや思ったけど言わない言わない、なんでこの人こうも性悪なんだ。

 針生先輩も恋人がいる、と言うか針生先輩の彼女である花恋さんは千夏先輩の親友。バレないようにそっちへは働きかけてくれているそうだけど、俺からうっかりバレそうで気が気じゃない。

「何で俺にはずっと寄り添ってくれる幼馴染みとかいないんだよ、どうやって錬成するんだ!? 課金ならするから教えろ針生!!」

 ……うわぁ必死だな、これは。

 最近は部内でも色々あるからな、匡と守屋マネもそうだけど。目をあわせれば口喧嘩するような仲だと思ってたのに、いつのまにかつき合い出してた。まあ匡がベタベタしようとする守屋マネを冷静に捌いてる感じで、どっちかって言うと兄妹みたいな風に見えるのが不思議。

 価値観宇宙人の守屋マネ相手でも、匡はいつも通り。その辺が秘訣なんだろうかな。

 それに比べて、この人は。

「……なあ針生、お前のツテで合コン開けないか。彼女さん芸能人だろ、三人くらいどうにか……」

 何処まで必死なんだろう、いっそ感心するわ。

 でも合コンったって、うちの部はそういうことに参加するようなのいないと思うけど。それに千夏先輩から聞いた限り、クラスでも「悪い人じゃないけど必死すぎ」って評価らしいから、誘う相手とかいなさそう。最悪一対三とかする気かな、フルボッコにされそう。ルール無用の残虐ファイトだ。

 とか考えていた俺の肩を、西田新部長ががっしりと掴んだ。

「大喜、お前も来い。顔だけはかわいいだから女子が和むだろ、俺のためにアシストしてくれ! あと針生、お前も!」

 待て、いや待て。何言ってんだこの人。心までハゲてんのか。

 そもそも針生先輩が彼女もちなの知ってて合コンに誘うとか頭おかしいだろ、絶対。

 どうしよう、学内パワハラで訴えようかな。

「針生は彼女いるし大喜には匡がいるし、俺以外が誰も落とす気無ければ俺の一人勝ちだろ!? 俺だってたまには主役になりたい!!」

 いや、いやいや。いやいやいやいや。俺ノンケです、そっちの趣味ありません。……そういや千夏先輩にも「初めての彼女、かぁ……。じゃあ笠原くんが初めての彼氏?」とか言われたな、冗談にしては熱い視線で。なんだろう、俺と匡ってそう見えるのか。島崎さんとかもやたらと俺と匡を二人一組にしたがってたけど、まさかなぁ……。

 

 

 俺としては単なるその場のネタ発言であってほしかったけど、でも西田新部長は本気で合コンを組みやがった。花恋さんはさすがに協力してくれず、他校の先輩を頼って女子を紹介して貰ったらしい。なんでもその先輩の姉が近隣の女子大にいて、そこからだとか。遠いな、その縁。

 予定が組まれた以上は仕方ないから、千夏先輩に土下座して合コンへの参加は許してもらった。まあ当人は『要するに皆で遊びにいくってだけでしょ? 針生くんもいるなら心配なさそうだし、楽しんでおいで』と笑って送り出してくれたけど。

 そんなこんなで多少は緊張しながら集まって、相手方と顔を合わせて、……俺は内心頭を抱える事になってしまった。

 いや何でいるんだよ、雛がさ。

 ぎこちないファミレスでの顔合わせからそのままカラオケボックスへと雪崩れ込み、隣に座った所で俺は小さく呟く。

「……お前いつの間に大学生になったんだよ」

「うっさい。……お世話になってる先輩から頼まれて、仕方なかったのよ。あの人優しいけど一回怒らすと厄介だから、出来れば揉めたくないの」

 なるほど、新体操の界隈にもそういうのはあるか。いやどこにだってあるのかもな、そういうのは。

 事情を理解して俺は息を吐き、辺りを見回す。西田新部長は向こう側のギャルっぽい子に夢中、針生先輩は逆にもう一人の子にやたら気に入られたのか、全力でしなだれかかられている。この有り様なら、こうして喋ってても問題は無さそうだな。一応声は絞るけど。

 考えてみれば、雛とこんな近くで話すのは久し振りだ。10月の()()()以来、俺たちの関係はすっかり変わってしまった。正確には8月の時点で大分変わっていたけど、さ。

「お互い大変だな、とっちらかった先輩がいると」

「アンタの場合、家に帰ってもとっちらかった先輩がいるじゃないのさ」

 グラス片手にケラケラ笑うその顔は、まるで――昔に戻ったかのようだ。

 ポツポツと小声で続くお喋りは、楽しさの中に懐かしさを感じさせる。

 ああ、良いな。こんな風にずっと、仲良くしていたかったな。

 もう無理だと分かっていても、尚そう思ってしまう。

 

 そろそろ切り上げようか、と店を出て。俺は雛の手を取り、立ち止まっていた。

 言わなければならない事が、あるのだから。ずっと先伸ばしにしてきた、どうせその内伝わるだろうと思っていた。でも言わなければ、伝わらないんだ。

「雛、俺は……千夏先輩と付き合ってる」

 俺と雛が親友に戻ることはない、恋人になることもない。もう俺たちは、終わってしまった。だからこそ、言っておくべきだ。

 あの秋の夜、雛を泣かせてしまったのは俺の弱さ。気を持たせた、ありもしない可能性にすがらせた。それがどれほど残酷か、知りもせずに。

 もう二度と繰り返さない、繰り返させない。俺は雛を、これ以上傷付けてはいけないから。

 雛はほんの少しだけ驚いた顔をして、でもそれはすぐに収まって。

「そっか。じゃあ、早く帰んなよ。浮気すんじゃないわよ、バカ大喜」

 クルリと背を向けて後ろ手を振り、そのまま歩き去っていく。あっさりと、何の余韻も含ませず。

 ――そうだな、その通りだ。雛と俺の関係は、これで良いんだ。

 冬の冷たい風の中、俺もやっぱり歩き出す。

 明日も明後日も、道はまだまだ続いていく。振り返ったときに悔やまないように、ひたすら歩こう。

 アオく輝く、ゴールを目指して。

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、あれからの事を少し。

 あの合コンで針生先輩はよっぽど気に入られてしまったらしく、暫くはあの子に纏わりつかれ続けて最終的には花恋さんにバレてしまったらしい。俺と違って合コンに行くこと自体伏せていたのが悪かったのか、全力でひっぱたかれたんだとか。

 ……西田新部長は、…………まあ…………うん。面白いほど何をやっても裏目に出て、連絡先さえ手に入らなかったそうだ。そもそもの時点で賑やかし属性だから、ああいうのはうまくいかないよな。『俺が主役になる筈だったのに、どういう事だよ大喜!!』なんて怒ってはいたけれど、まあ自業自得だと思う。悪い人じゃないけど、……悪い人という訳ではないんだけど、そういう所なんだよなぁ。

 不出来だが愛すべき我らが先輩に、どうか幸あれ。

 

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