タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV001「輝く暁の明星の、いと美わしきかな Wie schön leuchtet der Morgenstern」より。
登場人物:「キリエ~吸血聖女~」より、キリエとラーラマリア+他2名。「鬼滅の刃」より、煉獄杏寿郎。他モブキャラ数名。
注:小説ではなく、台本風読み物です。残酷・残虐なシーンが多く書かれております。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
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【挿絵表示】
「キリエ~吸血聖女~」×「鬼滅の刃」クロスオーバー脚本風読み物
【 輝く暁の明星の、いと美わしきかな(中編) 】
Wie schön leuchtet der Morgenstern
★ (午前3時頃)アントラーピーク山麓・バトルマウンテン鉱山地区・街中・サルーン2階・寝室
街全体を覆う、夜の闇と沈黙。
西に大きく傾き、蒼白色の光を惜しみなく降り注がせる満月。
サルーン2階の一部屋、寝室のベッドに、キリエとラーラマリアが横たわっている。
キリエは普段着のまま、ラーラマリアはいつもの服の、ポンチョを脱いだ格好。
ふたりは向かい合わせに、布団は何も掛けずに眠っている。
静かで、規則正しい寝息。
同じ部屋の片隅に、杏寿郎が壁を背にした椅子に座り、腕組みをして両の目を閉じている。
少し首が前方に傾いでおり、深呼吸のような息を、正確な調子で続けている。
恐らく眠っている模様。
何の音も、何の動く者もいない、深淵と等しい時間。
突然。
微かに、空気が澱んだような気配が、窓ガラスの外から漂う。
キリエ、パチ、と両目を開け、がばっ、と身体を起こす。
一瞬で意識が明瞭化され、素早く部屋全体を見回す。
はっ、と何かに気付くキリエ。
杏寿郎がいない。
空の椅子がまだ温もりを残した状態で、鎮座している。
寝室の窓が、表側に両開きで全開になっており、涼しい夜風が穏やかに流れ込む。
すかさずベッドを降り、開け放たれた窓から眼下の通りに目を遣る。
サルーン前に、こちらに背を向けた状態で屈み込んでいる、杏寿郎の姿。
次の瞬間。
ドンッ!と、辺り一帯に轟く、爆裂したような音。
杏寿郎がいた場所から発生し、土煙が湧き上がって漂っている。
だが、杏寿郎がいない。
キリエ《(あっけに取られ)消えた・・・?》
窓から顔を出し、左右に延びる通りを目で探索するキリエ。
左方向、メインストリートに沿って、空中に朱色の炎が、渦を巻きながらずっと先まで浮いている。
キリエ《炎が残っている・・・彼が移動した?・・・》
キリエ、茫然としたまま、手前から消えていく炎を凝視する。
片や、ベッドの上ではラーラマリアが、いきなりの爆音に目を覚ます。
深呼吸をして頭を左右に振り、続けて寝台から飛び降りてキリエの後ろ姿に目線を投げる。
ラーラマリア「何の音だ!? 砲撃か!?」
キリエ「(振り向いてラーラマリアを見て)違う! 彼が移動した音みたい!」
ラーラマリア「彼って・・・煉獄さんが? 何があった!?」
途端。
かなり離れた方向から、バサ、バサ、という羽音が多数。
街の上空から、グワアッ、という、何かが接近してくる音。
その中のひとつが、窓から顔を出しているキリエの視界に捉えられる。
50ヤードを越えるであろう高い空間を、1体のムルシェラゴが飛行している。
それは月光に浮かび上がり、アントラーピーク方面から、鉱山上空へと宙を移動。
更に他の方向からも、段々と接近してくる羽ばたきの音。
窓から離れ、部家の隅に置いてある荷物に向かうキリエ。
キリエ「(重い声質で)嫌な展開になったみたいよ」
ラーラマリア「(チッ、と舌打ち)望んでないケドね。キリエ、浄銀弾多めに持って行け。アタシも準備して降りる。マスターに声も掛けとく。緊急で通信も必要になるかも知れないからね」
キリエ、こくん、と一度頷く。
トップブレイク式拳銃のシリンダーを開け、充填を確認し、ジャキッ、と弾倉を戻す。
そして荷物の中から、仕込み傘用の装填弾倉を2本取り出し、腰のベルトに差す。
続いて、仕込み傘石突の部分に、細長い鋭利なスパイク型バヨネットを嵌め込んで固定する。
きっ、と鋭利な目線を放り、解放された窓へと駆け寄るキリエ。
★ 鉱山地区・街中・中央通り・サルーン前
キリエ、2階寝室の窓枠に右足を掛け、タン、と蹴る。
ふわ、と一枚の羽根のように軽やかに浮き、スタッ、と、サルーン前の通りに着地。
即座に、仕込み傘を構え、周辺を見回す。
数軒の建屋は静寂を保ったまま。
ただ、夜空には、おどろおどろしい雰囲気が急激に増している。
目を凝らし、街の入口の方向を見上げるキリエ。
彼女の立つ位置から、ハーフマイルほどの空間距離の、上空。
月光に照らし出される、相当な数の、羽根を広げて飛行する影。
それが、戦闘機の編隊飛行のように、均等間隔で前後左右に展開されている。
キリエの瞳が、一瞬赫に煌く。
キリエ「・・・ムルシェラゴ・・・あんなに・・・」
街の上空向けて接近するムルシェラゴ、少なくとも20は超えている。
再度、沈黙したままの周囲の建物に視線を飛ばすキリエ。
キリエ《街のみんなを、どっかに逃がさなきゃ!》
サルーンのスウィングドアが勢いよく開き、ラーラマリアが飛び出して来る。
腰のホルスターに数丁の銃と多数の弾倉、左手にも銃を下げている。
間髪入れず、街の入口方面からの物々しい羽音に気付き、空へ視界を向ける。
眉を全力で顰めるラーラマリア。
ラーラマリア「(ギリ、と奥歯を噛み)何でこんなに集まってんだ!? ソリアでもこんなにいなかった!」
キリエ「(振り返り)20、30じゃきかない。私たちが来た街道の方向から飛んで来てるけど・・・」
ラーラマリア「夕方に仕留めた3体以外にも、何処かに隠れてたのか? にしては数が多過ぎる!」
キリエ「とにかく、斃すしかない。けどその前に・・・」
直後。
サルーン近くの広場の右手、遥か奥の方から、ボウワッ・・・という燃焼音。
音と共に紅の炎が帯を成して、カーヴを描いて一気にこちらに接近。
キリエとラーラマリアの眼前に、炎の塊が一瞬燃え上がる。
それが解けるように消え、杏寿郎が姿を現し、ダン!と地面を踏み締める。
右手に抜き身の日輪刀。熱を放つように赫色に輝く。
ラーラマリア「(驚きつつ)煉獄さん!」
杏寿郎「(身体を起こしつつ)山から来た2体と、街道から来た1体は滅した! 主に我々が移動して来た街道の方向から、多数の気配がする! 奴らは上空を飛び、山側にも回り込むつもりだろう!」
背後の上空に一度目線を投げ、再び杏寿郎に顔を向けるキリエとラーラマリア。
バッ、と左腕を伸ばし、ふたりに掌を翳す杏寿郎。
杏寿郎「時間がない! 手短に話す! この街の建屋は13軒! その住人たちを一箇所に集める! 酒場店内が一番広いから、キリエ少女とラーラマリア女史で住人たちを誘導し、『むるせらご』から護りながら避難させてくれ! 遥か上空から急降下して襲来する連中は銃の方が早いだろう! 俺は街の外側、全方位から来る『むるせらご』を、街に入る前に滅する!」
ラーラマリア「(息を飲み)全方位? いくら何でも範囲が広過ぎる! 3人で手分けした方が・・・」
杏寿郎「住人たちは、同じ国である君たちの方が安心して追いていける! 俺は異国の身! その分悪鬼を1体でも多く斬る! それで良いか!」
キリエ「(こくん、と頷き)判ったわ」
ラーラマリア「(一度唇を引き締め)こりゃあ、気合入れていかないとね。住人たちは任せてくれ」
杏寿郎「うむ! 頼んだ!」
くる、と踵を返し、移動して来た方向に向く杏寿郎。
彼が、ぐっ、と身体を屈めた、次の瞬間。
ドォン!と凄まじい爆音。
跳び上がらんばかりに驚くキリエとラーラマリア。
既に杏寿郎はいない。
先程移動してきた方向へ、炎が空中に一本の渦となって残留して続いている。
足元には、もやあっ・・・と土煙が舞って、宙を漂う。
ラーラマリア、ほおっ、と感心した息を漏らす。
ラーラマリア「なるほど、凄い音だね。一瞬で姿が消えた」
キリエ「(ラーラマリアに視線を投げ)二手に分かれましょう」
ラーラマリア「(キリエに視線を投げ返し)そうだね。アタシはこっから街の入口方面、キリエは鉱山方面。坂の手前の教会が、一番奥の建屋だって聞いてる。気を付けてな!」
キリエ「(素早く頷き)あなたも、ね」
キリエ、たっ、と地面を蹴って、街の中央広場に向かう。
ラーラマリア、サルーン対面の家屋に向かって、すう、と一度大きく息を吸う。
ラーラマリア「(腹の底からの大声)みんな起きろぉ!」
直後。
ガタ、ガタン、と周辺の建屋から物音が聞こえる。
ラーラマリアの声に反応したと思われる、住人の声も何処からか流れてくる。
背後のスウィングドアが、キイッ!と奥から跳ね開けられ、サルーン主人が路上に飛び出す。
そして、月光の夜空を横切る多数の異形の影に気付く。
さあっ・・・と、一瞬で血の気が引くサルーン主人。
サルーン主人「(震える声で)ま、まさか・・・あの化け物が!?」
ラーラマリア「ああ! 山ほど来やがった! (振り向いて)マスター! 全住民をサルーンに避難させる! 奴らはアタシが撃つから、みんなを集めるのを手伝ってくれ! 無茶はするなよ!」
サルーン主人「(コクコク、と2度首を縦に振り)わ、わわ、判ったよ!」