タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV57「試練に耐えうる人は、幸いなり Selig ist der Mann」より。
登場人物:「キリエ~吸血聖女~」より、キリエ。「鬼滅の刃」より、竈門炭治郎と竈門禰豆子、胡蝶しのぶ、鎹鴉一羽。及び吾峠先生のネーム「鬼殺の流」から、待ち伏せ鬼。他、サブキャラ(オリキャラ)とモブキャラ数名。過去シーンで「キリエ~吸血聖女」より、黒衣の者。「鬼滅の刃」より、鬼舞辻無惨。最終シーンで、「キリエ~吸血聖女~」より一名。
注:小説ではなく、台本風読み物です。残酷・残虐なシーンが多く書かれております。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
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【挿絵表示】
「キリエ~吸血聖女~」×「鬼滅の刃」クロスオーバー脚本風読み物
【 試練に耐えうる人は、幸いなり(後編) 】
Selig ist der Mann
★ (午前三時半)恩方村・森久保集落・山中
夜の雲が、天の中程でふたつに割れている。
そこから覗く、蒼黒の暗い空。
眼下に、闇に覆われた、どこまでの広大な樹海。
杉と檜の林立する山の斜面を、横方向に向って走駆する、三人の姿。
日輪刀を右手に下げた炭治郎が先頭。
両腕を後方に掲げた禰豆子、仕込み傘を両手で構えたキリエが続く。
タタタタタタタタタ・・・と、かなりの速度で、ブーツと草履の音が鳴る。
杉や檜の樹々の間隔は、それぞれ約2メートルほど。
木立の間には、時折広めの空間も存在する。
森の中に充満する、緑と水の匂い。
その中を、夏草を蹴り、炭治郎は先陣を切って疾走。
禰豆子も、炭治郎との距離を一定に保ち、疾駆。
キリエ、幹と幹の間を、ちら、ちら、と確認しながら、追走。
炭治郎が、一瞬だけ後方を振り返り、即座に前方を凝視する。
炭治郎「(大声で)キリエ! 俺の後を着いて来い! 禰豆子は上から!」
禰豆子「(頷いて)んっ!」
キリエ「(素早く首を上下に振り)判った!」
タン!と、禰豆子が大きく右側に跳ね、更に、タン!と大きく地面を蹴る。
樹と樹の間を軽やかに縫って、斜面の上方、こちらから3メートルほど高い位置。
そこを改めて、平行の線上で、かなりの速度で走り始める。
キリエ、炭治郎まで距離を詰め、彼の後方の約2メートルで追従。
キリエ《私が山に不慣れなのを解って、判断してくれてる・・・》
真っ直ぐに、炭治郎の背中、霧雲杉の背負い箱を見詰めるキリエ。
左右の木立、そして足元には長い草叢、隠れて見えない木の根。
炭治郎も禰豆子も、それを物ともしていない。
全身が安定した、見事というべき姿勢で、駆ける。
キリエ《ふたりとも、凄い。平地みたいな走り・・・流石ね》
ふたりを見遣ってから、キリエ、ふっ、と口角を上げる。
突如。
前方、10メートルほど先の闇が、揺れる。
ドォン!と、空間を叩き割り、黒い髪が一気に延伸。
先が杭のように尖り、10センチくらいの太さ。
僅かの間で、こちら目掛けて襲い来る。
ザアッ!と、草履を擦り、急停止する炭治郎。
キリエも、ズアッ!と、炭治郎の真後ろでブーツを鳴らし、止まる。
即座に、ガシャコ!と、仕込み傘の弾倉から弾丸を供給させる。
炭治郎、ヒュウウウゥゥ・・・と、白い霧のような尾を引き、深く呼吸をする。
日輪刀を、チャッ、と大上段に構える。
ザザザザアアッ・・・と、刀身に水が湧き、蛇が絡む如く巻き付いていく。
髪の槍が、眼前まで迫る。
炭治郎「水の呼吸・・・捌の型・・・(弾けるような声で)滝壺!」
振り被った日輪刀を、一気に前方に叩き付ける炭治郎。
シャキイッ!と空を裂く音と同時、一筋の流水が切っ先から膨れ上がり、真下へ。
直後。
ドッバァァァンン!!!と、数メートル真上から、大量の落水。
炭治郎の前方、左右4メートルほどの空間に、真上から。
四本の、滝。
ドドン! ドドドドドドォォ・・・と、轟音。
そして周囲が見えなくなるほどの、水飛沫と霧。
凄まじく尖った槍のような黒髪が、水圧に叩き潰される。
一瞬で滝に巻き込まれ、粉々になって四散し、消滅する。
炭治郎、技が発した霧が消えない前に、左側方、斜め前へ地面を蹴る。
キリエ、炭治郎に続いて、同じ方向へと身を躍らせる。
一方、禰豆子。
法面上方を走りながら、樹々の隙間に、黒い紬の姿を発見。
待ち伏せ鬼、炭治郎に仕掛けた長髪を引き戻している。
ザッ!と草履を鳴らし、素早く向きを変える禰豆子。
相手は、杉と檜の林が少し空いた、窪地の中程に立つ。
傾斜を利用し、一気に加速する。
すっ、と待ち伏せ鬼が顔を禰豆子に向ける。
距離、8メートルほど。
黒髪が、ゆら、と触手のように持ち上がり、ドォン!と宙を裂く音。
ズアアアァァッ!と、一直線に延伸。
先が捻じれ、直径10センチほどの杭の形状と化す。
禰豆子の顔面目掛けて、襲撃する尖端。
禰豆子「(きっ、と眼光鋭く)んんっ!」
長髪が届かんとした、寸前。
シュイン!と、身体を瞬時に縮め、全体を小さくする禰豆子。
1メートル強の身長へ、変化。
八歳児ほどの、体躯。
ビュッ!と、禰豆子のいた空間を通過する髪の触手。
掻い潜った、直後。
ズゥッ!と、再び元の身体の大きさへと戻る禰豆子の身体。
位置は、待ち伏せ鬼の髪が伸びている、真横。
禰豆子、んふっ!と大きな鼻息をつく。
猫のような瞳孔の周りの眼球が、血走る。
額に、ピキッ!と血管が浮き出る。
瞬間。
両手の爪を鉤爪のように立て、左右の腕で空を裂く禰豆子。
ゾン! ザン! ザシュッ!と、三連撃。
猫科の動物が獲物を切り裂く如し。
待ち伏せ鬼の髪が、バラッ・・・といくつにも裁断される。
やや驚いた様子の待ち伏せ鬼、灰黒色の眼球を見開く。
すぐに、タン! タン!と後方に跳ね、禰豆子との距離を空ける。
禰豆子、腰を落とし、両脇を締め、ぐっ、と掌を上向きにして構える。
対峙距離、約4メートル。
待ち伏せ鬼、髪を戻して自然に垂れ下げる。
待ち伏せ鬼「(鼻で、ふん、と嗤い)あらあら、斬るのお上手ね・・・でも髪はいくらだって伸びる。好きなだけ斬ればいいわ」
右半分の長髪を、ドォン!と射出して、グイン!と伸ばす待ち伏せ鬼。
飛来する髪の触手を、右、左と、爪を立てた手で捌き、斬る禰豆子。
ザザン!と、二手の攻撃が、一度の音。
一方、禰豆子から待ち伏せ鬼を挟み、120度反対側。
鬼の立つ位置から、8メートル。
杉の樹の陰から、音もなく、キリエが現れる。
仕込み傘を機銃と同じように構え、銃口が待ち伏せ鬼の頭部を狙う。
石突に既に装備されているバヨネットが、ギラ、と光を放つ。
ヴォガッ! ドガドガッ!と、銃身部が鳴り、銃声が連鎖。
浄銀弾が、続け様に発射される。
突如。
キリエと待ち伏せ鬼の中間付近で、黒い塊が、宙に出現。
連射された浄銀弾が、全弾、ドスドスドスッ!と着弾。
キリエ、思わず目を剥く。
それは、待ち伏せ鬼の左半分の髪が伸びて、空中で団子のように固まって丸まった物体。
さながら、宙に浮かぶ岩のような形状。
減り込んだ銃弾が、押し出されて、ポロ、ポロ・・・と地面に落下する。
硝煙が漂う中、動きを停めるキリエ。
キリエ「(息を飲み)髪で! 弾を止めた!?」
待ち伏せ鬼「(小馬鹿にした口調)残念ねぇ・・・」
髪の巨塊が、バラッ、と解ける。
一拍の、後。
ズドォン!と、黒髪の触手が、キリエとの間を一気に詰める。
気が付いた時には、待ち伏せ鬼の髪が、ぐりんぐりん、とキリエの首に巻き付く。
キリエ「(はっ、として)しまった!」