杉村麦太先生「キリエ~吸血聖女~」と、吾峠呼世晴先生「鬼滅の刃」のクロスオーバー書き物の『第肆巻/日本編』の『横濱編』として執筆。作品世界は「鬼滅の刃」、そこに「キリエ~吸血聖女~」からキリエとサンタミカエラが来訪者として登場する物語。前作『試練に耐えうる人は、幸いなり【後編】』 https://syosetu.org/novel/315521/75.html からの続き。2025年5月脱稿。
タイトルは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ作曲、教会カンタータBWV56「我は欣びて、十字架を負わん Ich will den Kreuzstab gerne tragen」より。
登場人物:「キリエ~吸血聖女~」より、キリエとサンタミカエラ。「鬼滅の刃」より、伊黒小芭内と甘露寺蜜璃、鎹鴉一羽。及び杉村先生の別作品より二名。他、サブキャラ(オリキャラ)とモブキャラ。この話の最終シーンで、「鬼滅の刃」より一名。
注:小説ではなく、脚本風読み物です。残酷なシーンあり。
同一内容を、下記サイトにも掲載しております。
pixiv: https://www.pixiv.net/novel/member.php?id=323663
【挿絵表示】
「キリエ~吸血聖女~」×「鬼滅の刃」クロスオーバー脚本風読み物
【 我は欣びて、十字架を負わん 】
Ich will den Kreuzstab gerne tragen
◆ 第壱章/横濱編
★ 大正四年・日本国・神奈川県横濱市・横濱港・大桟橋(メリケン波止場)
正午近く。雲ひとつない快晴。
初夏から夏本番へと移ろうとしている陽射しが、灼けるように照り付けている。
第二期拡張工事の真っ最中の、横濱港。その中で最も人の密度が濃い場所。
外国客船が一隻係留されている、大桟橋。通称『メリケン波止場』。
桟橋上には、木造二層型の上屋が設備され、上下の層で旅客と貨物を流通させている。
その上屋から離れた、桟橋の縁に近い位置に立つ、キリエ。
傘を差し、陽の陰から、桟橋を行き交う人々を見ている。
身体を桟橋側に向け、目だけを左右に動かし、人の流れに視界を置いている。
傍らに、ボストンバッグを重ねたトロリーケース。車輪が下の状態。
暫くして。
桟橋上屋の方向から、小走りで駆け寄って来る、サンタミカエラの姿。
キリエ、それに気付き、少し立つ角度を変えて彼女と正対する。
サンタミカエラ、キリエの真正面で立ち止まり、ふう、と息をつく。
キリエ「どうだった?」
サンタミカエラ「(首を左右に振って)駄目だ。この船でも何も手掛かりなし、入出国の記録にもそれらしい奴はいねェってよ」
キリエ「(小さく溜め息をついて)そう・・・」
サンタミカエラ「黒衣の者は空飛べるんだろ? 船乗らねェでハポンを出入り出来るんじゃねェ?」
キリエ「船で20日以上の距離がずっと夜だったら、可能性はあるけどね」
サンタミカエラ「(はっ、と気付いて)・・・確かにな・・・いくら何でも無理か」
直後。
サンタミカエラの腹部から、ぐううぅぅ・・・と吹鳴。
いきなりの音に、表情が固まるサンタミカエラ。
キリエ、流れるような動作で、腰のベルトに鎖で結んである物を右手で持ち上げる。
銀色の懐中時計。
パカ、とおもむろに蓋を開き、文字盤を凝視する。
キリエ「(ふっ、と口角を上げ)正確な時計ね」
サンタミカエラ「(チッ、と舌打ちして)うっせェ、わざわざ確かめんじゃねェ。つーか、時計持って来てたんか?」
キリエ「(頷き)ええ、しのぶさんが持たせてくれた。いろいろお世話になったのに、至れり尽くせりで申し訳なかったわ。(サンタミカエラを見て)そろそろ休憩にする?」
サンタミカエラ「(表情を和らげ、頷いて)だな」
キリエ「私はミルクがあれば、何処でもいいわ」
サンタミカエラ「(眉を顰めて)てめェ、ずっとミルクばっかじゃねェか。肉料理くらい食っとかねェと、身体持たねェぞ」
キリエ、瞼を瞬かせる。
僅かに驚いたような顔。
釣られたように、サンタミカエラも数回、瞬きをする。
サンタミカエラ「(訝し気に)何だよ?」
キリエ「(意外といった口調)気を遣ってくれるの?」
サンタミカエラ「(頬を染め)誰が気ィ遣ってんだよ!」
キリエ「流石に生き血を飲む訳にはいかないし、ミルクが一番血に近いから、充分よ」
サンタミカエラ「でも代替品なんだろ?・・・ホントに大丈夫なのかよ」
再び、瞼を瞬かせるキリエ。
両眼を開き、更に一層、驚きを表している。
少しの、後。
キリエ「貴方からそう言ってもらえるとは思ってなかった。(小さく微笑んで)お気遣い感謝するわ、サンタミカエラ」
途端。
カアアッ・・・と上気し、瞬間湯沸かし器のように湯気を立てるサンタミカエラ。
サンタミカエラ「(大声で)だからっ! 気なんか遣ってねェ!」
キリエ、懐中時計の蓋を閉め、ベルトに時計のクリップで引っ掛ける。
ふと、サンタミカエラの眼の端に映る、離れた場所の建屋。
落ち着きを取り戻し、右腕を上げて、キリエの肩越しに人差し指で指差す。
サンタミカエラ「あれって何だか、聞いてるか?」
すかさず、サンタミカエラが示す方向に振り向くキリエ。
大桟橋から横に伸びる細い防波堤、通称『象の鼻』の延長線上、海を挟んだ向こう側。
拡張工事の行われている『新港埠頭』の一部に、巨大な赤煉瓦造りの建屋が、二棟。
キリエ「あれはね、新しく出来た保税倉庫」
サンタミカエラ「ほぜいそうこ?」
キリエ「輸入品を一時保管しておいて、流通許可が出るまで置いておく為の倉庫みたい。前に港の職員さんに聞いた。輸入品も凄く増えてきたから、新しく建てたんですって」
サンタミカエラ「(関心した様子で)ふーん・・・」
サンタミカエラの眉根が、ぴく、と跳ね上がる。
何か、閃いたような表情。
サンタミカエラ「黒衣の者ってよ、積み荷の箱ん中とかに隠れらんねェかな?」
バッ、と身体を戻すキリエ。
目を丸くして、穴の開きそうなほどにサンタミカエラを凝視する。
キリエ「(感嘆した口調)思い付かなかった・・・それ、あるかも・・・今までずっと、変装とかのパターンしか考えてなかった。よく思い付いたわね」
サンタミカエラ「昨日話したろ、オレっちがこっち来る前にサンフランシスコで闘った話。そん時に黒衣の者の手下がハポン領事に化けてて、ハポンに何か船便で送ったみてェだって、アンナロッテ言ってたのを思い出したんだ。んで、もしかしたら、ってよ」
キリエ「(息を吸い、少し上がった声で)凄いわ、サンタミカエラ。よく思い出してくれたわね」
にっ、と得意気な笑みを浮かべるサンタミカエラ。
サンタミカエラ「んじゃあ、あっちも聞き込みだな。行ってみっか」
キリエ「そうね。でも・・・(ちら、とサンタミカエラの腹部に目を遣り)お昼の後でもいいわよ」
サンタミカエラ「てやんでェ。その点抜かりはねェよ」
サンタミカエラ、トロリーケースに乗っているボストンバッグのジッパーを、ジャッ、と徐に開ける。
中から、拳より一回り小さい、球状に膨らんだ紙袋を取り出す。
サンタミカエラ「こんなこともあっかと思って、昨日、屋台で買っといたスコーンがあんだ。これでもう暫く凌げるって」
キリエ、感心したような、少し呆れたような、複雑な顔。
キリエ「(はぁ、と小さな溜め息)ちゃっかりしてると言うか、流石と言うか・・・ヨコハマ3日目ですっかり馴染んでるわね」
サンタミカエラ「(更に、にかっ、と歯を見せて笑い)褒め言葉と、受け取っとくぜ」
微かな鼻歌混じりに、左手に持った紙袋を開けるサンタミカエラ。
薄茶色で、良い焼き目が付いたスコーンが露出する。
サンタミカエラ、ぱく、とそれに齧り付き、もぐ、もぐ、と咀嚼して頬張る。
その姿を傍らで眺め、目を細めるキリエ。