アーサス   作:飛鳥 螢

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第 一 章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅱ ー困惑の(しょう)(4)ー

 左右に伸びる廊下を見て、どちらに行くか晶は暫し悩んだ。

 行く当てがないので、取りあえず晶はさっき窓から見た庭園に足を向けた。結構広い庭園だったし、あれだけ綺麗なのだから、散歩している人の一人や二人いるかもしれない。

 左手の薄暗い廊下を壁に身を預けながら真っ直ぐ行って階段を降りる。まだふらつくので階段は特に気を付けてゆっくりと降りていった。そして、一階の廊下に出て左に曲がり、次の角で更に左に曲がればあの庭園に出る。

 ——筈だった。

 が、なかなか建物の外に出られない。延々と続く薄暗い廊下に方向を間違えたのかと、晶が心配し出した頃、正面奥から鳥の(さえず)る声が聞こえてきた。

 ——やった、外だっ

 大分体力が回復してきたといっても、まだ駆け回るほどの元気はない。あの「夢の楽園」に心馳せながら、もどかしそうに晶は自分の体にムチ打って可能な限りの早足で出口に向かった。

 通路の行き止まりにある(かんぬき)の掛かった扉をなんとか開けて外に出る。

 途端に陽の光が、晶の体を包み込んだ。

「うっ……」

 眩しさに顔に手をかざした晶は、目が光に慣れてくるなり大きく見開いた。

 そこは区画ごとに同種の樹が植えられ、緑に彩られた枝々にあるものは芳しい花々が、また別の樹々には瑞々しく熟れた果実がたわわに実り、どう見ても花咲き乱れる庭園というより、よく手入れされた果樹園だった。

 ——しまった。出口を間違えた!

 晶は慌てて引き返し、一つ目の角を左に曲がった。

 そこは反対方向からだと逆の右に曲がらないと元来た廊下に出れないのだが、焦って曲がった晶はその事に気付いていない。しかもどこもかしこも似たような通路ばかりな上に、ここまでの間全く人に出会うこともなく、晶は完全に迷子になってしまっていた。

「もーダメだ」

 情けない声を上げ、晶はいつの間にか彷徨(さまよ)い出てしまった庭園の、噴水の周りにあるベンチの一つに倒れ込むように座った。

 元いた部屋に帰るに帰れず、かといって通路でボーと立っている訳にもいかないので、誰か居ないかと闇雲に歩き回ったお陰でもたついていた手足は何とかスムーズに動かせる様にはなったが、反対に腹三分に膨れていた腹はすっかり萎んでしまい、腹の虫がまた抗議の声を上げていた。

 さっきの果樹園から少し美味(うま)そうな果物(やつ)を取ってくればよかった。と悔やんでみたところで始まらない。実際、今自分のいる処さえ定かでないのだ。判っている事といえばこの城は想像以上に広くて庭園もあちこちにあるらしく、ここもその一つなのだろうという事だ。

 噴水の池を中心に一定の間隔で配された灌木の枝は綺麗に形良く刈られ、その間を通る白い石畳の小道と緑の芝生が幾何学的な模様を織り成していた。最初に見た花園の庭園とはまた違った意味での美しさを備えた落ち着いた雰囲気の庭園である。

 そして、庭園の向こうには幾重にもそそり立つ新緑の樹木が、視界を遮って醒めるような蒼穹へと続いていた。

 それにしても、広いとはいえあれだけ歩き回ったのに、誰一人出会う者がいなかった。でも、城の中もこの庭園にしても、無人にしては手入れが行き届きすぎている。

「……狐や狸に化かされているんじゃないだろうなぁ」

 晶は幼い頃寝物語に祖母が話して聞かせてくれた昔話で、狐狸に化かされた人間の話を思い出して思わず呟いた。

 昔話を額面通りに受け取るには随分歳を喰い過ぎているが、夢を見ているのでなければ、余りにも状況が整い過ぎている。

 ——昔話なら、ここらで人間に化けた狐か狸が出てくる筈だけど……

 と、晶が思った時である。

 その期待を裏切っちゃいけないとばかりに、晶の耳に男の声が飛び込んで来た。

 

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