その日も、何時もと同じに陽は昇り、眩しい輝きが緑成す草原を爽やかな風と共に彩っていった。
そして、何時もの清々しい朝の静けさを蹴破るように、勢い良く
「じゃ、シグとアルフィーネはお婆様とここに居て、エルゼナに行く準備をしてておくれ。あたしとショウは外を見てくるから」
まずは、家畜を集めに邑の外に出る。
本当なら昨日のうちにすべき事だったが、あのような事があった後で、深くなった夕闇の中を出歩くのは危険だったので諦めたのだ。
エルドが指を口に
すると、青々とした草原の中、どこからともなくひょっこりと家畜達が姿を現わした。
あの
「へぇ、こいつヌゥートだっけ。ふわふわして柔らかいんだな」
水を飲むのに夢中な灰白色のくるりと丸まる毛並みの家畜の体をそっと触り、気持ちよさそうにショウが呟く。
「ヌゥートの毛は天幕や敷物を作ったり、あたし達の冬物の服にもなるからね」
他の家畜の世話をしながら、愛おしむような声でエルドが応える。
ずっと一緒に邑で育ってきた家畜達も、彼女にしてみれば家族も同然だった。今となっては、もうこれ以上失いたくない掛け替えのない者達である。
家畜達も少なくとも一週間は、世話をしなくても大丈夫なようにしておかなければならない。不幸中の幸いと言うか、数が少なくなった分、餌は邑の中でも柵の付近に幾らでも生えている草で何とか間に合いそうだった。だが、問題は飲み水だ。多少草に水分は含まれているが、それだけでは足りない。
エルドは近くの天幕から汚れていない綺麗な敷物を引っ張り出してくると、ショウに手伝って貰ってそれを細長く裂いた。
「こんなものどうするんだ?」
「井戸に垂らすんだよ」
井戸の底に溜まる水に細長く裂いた敷物の一方を浸け、もう一方を井戸の脇に置いた桶の中に垂らして固定した。そうすれば敷物に染み込んだ水が勝手に上がってきて桶に水を溜めてくれる。
そんな仕掛けやら家畜の世話やらで、朝早くから動いたにもかかわらず午前の仕事はそれで終わってしまった。
適当に空いた天幕の中から食料をかき集め、一旦長老の天幕に戻る。
「準備は進んでるかい?」
「うん、お婆様に教わって、持って行く薬なんかを作ってたんだ」
シグは仕上がった薬を自慢げに姉に見せる。
囲炉裏端の絨毯の脇に置かれた低い台の上に幾つも乳鉢が並び、中には完成した薬が入っていた。
そして、エラドラの脇でアルフィーネが薬研の細長い舟形の容器に、円盤型の石に付いた軸を握って前後に回転させ、中に入った薬草すりつぶしている。
どうやらこれらの薬を作ったのは、シグではなくアルフィーネのようだ。
幼い頃より養い親のエイルの手伝いをしていた彼女にとって、こういう作業はやり馴れているのだろう。実に手慣れていてエラドラも安心して任せているようだった。
「シグ、何一人楽してんだい」
「ら、楽なんてしてないやい。おいらだってお婆様に結構こき使われてたんだよ」
目を
そんな姉弟のやり取りをよそに、ショウはもの珍しそうにアルフィーネが使っているものを見る。
「へぇ、薬ってそういう風に作るのか……」
と、アルフィーネが握る円板の軸に手を伸しかけた。
ビクッとしてアルフィーネは軸から手を放し、驚いた様にショウを見る。
「あ…、ご、ごめん」
「い、いえ……」
ショウから目を逸らし、自分を落ち着かせるようにアルフィーネは服の上から胸のペンダントを押さえた。
横目でそんな二人の様子を見やりながら、エルドはシグに持っていた食料を押し付ける。
「ほら、これ食べたら今度はサボるんじゃないよ」
「だから、サボってなんか——」
と言いかけたシグの言葉を「ぐぐぅ~っ」と腹の虫が遮った。
呆れたようにエルドが弟を見やり、顔を真っ赤にして慌てて腹を押さえるシグの姿に、誰ともなく知らず笑いが零れ出る。
天幕の外では、漸く落ち着きを取り戻してのんびりと草を