自分の言葉に
「それにしても、お主のようなアルビナはもうおらぬと思っておったよ。《
昔北の山岳地帯のナイティアには、多くのアルビナが住んでいたと言われていた。
だが、何時の頃からか獰猛な異形の獣が
そのような地で病弱でひ弱な
そして、他の国では色素の無い赤子は気味悪がられ、産まれてすぐに捨てられる。成人したアルビナが今も尚生き永らえているのは
小さく鼻を鳴らし、美しき銀髪の女は不快そうに深紅の瞳を細めた。
「あのエイルとかいう男はどうなのかえ。あの者もアルビナであろう」
「エイルはお主とは違う。僅かであるが色を
たとえほんの僅かであっても、色素がある者はアルビナとは言わない。
だが、アルビナの女は納得しなかった。
「ならば何故、あの者は
「
「其方がかえ?」
事も無げに言う老婆を、アルビナの女は驚きの表情で見やった。
それを横目に、エラドラは茶飲みに残った香草茶をずずっと飲み干す。
「そうじゃ、言霊がお主等アルビナしか使えぬと思っておったら大間違いじゃよ。現に儂も使える」
と、エラドラは口の中で小さく何事かを唱えた。
途端に天幕の中に風が吹きすさび、アルビナの銀の髪を乱す。
慌てて銀髪紅眼の女は言霊を唱え、老婆の起こした風を打ち消した。
「其方……」
乱れた髪もそのままに、アルビナの女は目を剥いて目の前の囲炉裏端に座る老婆を凝視した。
元々『言霊』はナイティアの祖王が、自分で制御できない力に振り回されるアルビナの為に編み出した力ある言葉だった。自分の内にある力を自分の意志で使えるようにする為の。
その言霊を
エラドラは驚愕する美貌の女を面白そうに見返した。
「お主等の使う力は
それはアルビナでなくとも、命の危険に陥れば人なら誰でも発揮できる類いのものだ。
「そして『言霊』とは、人の体に秘められたその力を自分の意思で引き出す為の言葉じゃ。その内なる力を正しく理解しておれば、徒人でも扱う事ができるのじゃよ」
だが、その内なる力を正しく理解するのは簡単では無い。エルーラの担い手であるエラドラだからこそ出来たといえよう。
当然の如く言い放ったエラドラは落ち窪んだ目を細め、自分の言葉に優美な顔を険しくしたアルビナをじっと見据えた。
「——なにゆえエルティアに仇なし、ソルティアを狙うのじゃ、闇の女王よ。ソルティアの皇子の
「因業深き故、その報いを与えただけのこと」
老婆を見下ろし、昂然と銀髪紅眼の女は言い放つ。
「楽には滅ぼさぬ。じわじわと苦しめ、十分
ソルティアはこれまでも何度か王座を巡り騒乱が起こっていたが、全てあの〈
つまり、まず宝剣の担い手を排除しなければ、あの国に手出ししても上手くはいかないということだ。
それ故あの国の要であるソーレスの担い手の
ただ、取り換える為の下準備とその為の力を蓄えるのに、随分と時間が掛かってしまったが。
捕らえた少年の姿を思い起こし、美貌の女は喉を震わせてくつくつと
「それにしてもあの皇子、あのような姿になっても尚
「そうかな。取り換えられた
「ソーレスの力を使えぬ者に、何が出来ると言うのかえ」
そして、それは囚われの身の皇子にも言える。たとえソレイアの力を使えたとしても、この世界の
どんなに足掻いた処で、もはや自分の脅威とはなり得ないのだ。
「
「………」
「エルーラを何処にやったのじゃ?」
すっと深紅の目を細め、自分の問いに応えぬ老婆を見やる。
既にエラドラの体の周りには、エルーラの
「ほんにエルーラを手放すとは、愚かな事をしたものよ。アレを持たぬ其方には、もはや
嘲りを込めた目を向け、
「これは
漆黒の「闇」は女の滑らかな白き手より離れ、黙然と囲炉裏端に座る老婆にじわりと
それをエラドラは身じろぎもせず、
多分こうなるだろうと思っていた。確かに今までこの「闇」に襲われた邑は、二度と襲われる事は無かった。誰一人生き残った者がいなかったのだから。それ故、この「闇」が誰一人逃すことがない事も。
だから、子供達を全員この邑から追い出したのだ。エルーラを託して、自分を餌にするために。お蔭で思わぬ者を釣り上げる事が出来た。
ふとエラドラは、最後まで自分の身を案じていた
あの
じゃが願わくば、それに囚われずに
——さて、どうするかの……
エルーラが無くとも言霊を使えば、この「闇」を退ける事はできる。ただ、それは一時
ならば、最期の力はもっと有意義に使った方がよかろう。
ヴァンデミーネの力の
だが、このアルビナのお陰で多くの事が
ただ残念なことに、自分にはそれを役立てる時間はもう残されてはいない。
エラドラは
「闇」に呑まれる寸前、生涯でただ一人自分の
【アーサス豆知識⑥】
―
《
これにより、自身の力に振り回され、苦しんでいた王子は漸く自分の力を制御できるようになる。
のち、言霊はナイティア内の王子と同じ想いをするアルビナ達にも伝えられ、それ以降他の国とは違い、ナイティアではアルビナの力を恐れ、忌避する事はなくなった。
【アーサス豆知識⑦】
《
その所為で、祖王の死後それを不服とする者が幾度か乱を起こしている。過去に三回程あり、その内の一つは王族同士の争いで内乱にまで発展した。