「これは、これは…」
声と共に背後から複数の足音が近づいてくる。
——まさかっ!?
ぎょっとして、晶は慌てて振り返った。
三人の若者がゆっくりとこちらに向かって来る。
晶は疑惑の目で三人を見やった。
三人とも二十歳前後で、一人は長身のがっしりとした体躯をした男だが、線の細そうな印象を受けるのは、やや精悍さの欠ける神経質っぽい顔立ちをしているからだろう。後の二人はそれより若干背が低く、一人は小肥り、もう一人は中肉中背といったところか。この二人顔立ちは全然似ていないにもかかわらず、受ける印象が何処となく似ていた。
そして、何よりも晶が警戒の念を抱いたのは、三人が晶と遜色ない格好をして、おまけに金髪碧眼の外人であるということだ。この場の雰囲気に余りにもハマり過ぎていて、それがかえって狐狸に化かされているんじゃないかと疑念を抱かせたのだ。
——さしずめ先頭の長身の男は狐で、それに付き従う狸が二匹ってとこか……
頭がすっかり昔話になってしまった晶は、三人をそう評した。
狐が
「我が従弟にして世継ぎの君。
妙に芝居がかった嫌味たっぷりの物言いである。
狸の二人がそれに追従して相槌を打ち、にやにやと晶の反応を伺っている。
外人離れした流暢な日本語で、正気を疑うような話をする男に晶は呆気に取られたが、一見丁寧なものの好意のカケラもなく悪意に満ちた
「何処の誰だか知らないけど、起きながら寝言が言えるなんて器用な奴だな。それとも、立ちながら寝てんのか」
晶はケンカを売るのも買うのもどちらかといえば好きではなかった。が、空きっ腹を抱えて途方に暮れているところへ、常軌を逸したような輩に妙な因縁付けられれば、晶じゃなくとも嫌味の一つや二つ言い返したくなる。ただ、晶の場合、売り買いに慣れていない分、全く容赦が無い。
「な、なんだとっ」
男達は晶のこのような返答を全く予想していなかったらしく、長身の男は怒りの余り絶句し、後の二人は驚いたように互いの顔を見合わせた。
「そ、それが目上の者に対する態度かっ! け、剣に選ばれたからっていい気になりおってっ!!」
晶は侮蔑を込めた目で男を見やった。
礼節を尊ぶ祖母の影響を受けてか、晶は同世代の中でも割と礼儀には気を遣う方だったが、それは礼節ある人間に対してであって、非礼な奴に払う礼儀など持ち合わせていなかった。
「年上だって言うんなら、年上らしくしたらどうだ。そしたら少しくらいなら敬意を払ってやってもいいけど」
「き、貴様っ」
完全に逆上し、男は腰に佩いた長剣の柄に手を掛けた。
ギクっとして晶は男の長剣を凝視した。
本物だろうか? 偽物だろうか? もし本物だったら……
無礼者に対して礼儀を守るのは不公平ではないかと、変なところで平等の精神を発揮する晶は、この男にしてもそれ相応な態度で臨んだつもりだったが、男の血走った目を見ると、狂人の
だが、後悔しても、もう遅い。
すらりと、長剣の刀身が鞘より抜き放たれる。
咄嗟にベンチより腰を浮かし、晶は身構えた。
緊迫の一瞬。
「サウアー様、剣の稽古はここではちょっと狭いと思いますが」
然程大きくはないが良く通るのんびりとした声が、その場の雰囲気を一気に突き崩した。
抜刀した男は慌てて振り返り、声の主を確認すると同時に
長身で、白銀に近い淡い金色の長い髪を後ろに束ね、白い賢者風のローブを身にまとった優美な男が、ゆっくりと剣を手にしたサウアーに歩み寄って来る。
「マクアーク殿が先ほどからお探しのようでしたよ」
「爺が?」
「ええ、余程お急ぎのご様子で、血相を変えておいででした」
怪訝そうに眉をひそめるサウアーに、ローブの男はにこやかに受け応える。
「——判った。で、爺は今何処にいる?」
「北門の方へ行かれた様でした」
ここは南棟前の庭園の一つだ。マクアークは全然見当違いの所を捜しているわけだ。
何の用かは知らないが、早く行かないと用件に入る前にどれだけ小言を聞かされるか。
「——病み上がりのその体、精々大事にするのだなっ」
剣を鞘に収めて憎々しげにそう吐き捨てると、サウアーは供の二人を引き連れ建物の方に去って行った。