三人の姿が見えなくなると
「何を言われたのかは知りませんが、サウアー様を怒らせるとは貴方らしくありませんね」
流暢な日本語で随分親しげな口調だ。が、生まれてこの方一度も日本を出たことがない晶に外国人の知り合いなどいない。
さっきの嫌味な野郎といい、この全身から浮世離れした雰囲気を漂わせる男といい、どうやら晶を誰かと間違えているらしい。
「どなたか知りませんが、助けて頂いて有難うございました。——ところで、ここが何処なのか教えてもらえませんか?」
昔話から現実に頭を切り替え、晶は礼儀正しく礼を言った。そして、もっとも知りたい事を尋ねてみた。
男は
「……私のことも、何も憶えていないとおっしゃるのですか?」
「憶えていないも何も、貴方もここも初めてだらけでは憶えていようがないでしょう?」
「——…判りました」
目を伏せ、顎に片手を当てて暫し思案顔をした後、淡い金髪の男は小さく頷いた。
二度手を打ち鳴らす。
何処から現れたのか、すぐさま衛兵らしき男が一人姿を現した。
ローブの男は衛兵に小声で何やら指示を与えて下がらせ、再び晶に向き直った。
「どうもお待たせしました。立ち話というのもなんですから、お座りください」
晶にベンチを勧め、自分もその隣に腰を下ろす。
「そうですね、初対面という事ですし、まずは自己紹介といきましょうか」
にっこりと微笑み、淡い金髪の男は言葉を継いだ。
「私の名はエイル。《
どことなく浮世離れした微笑みを向けられた晶は思わすドギマギしてしまった。
「あ…えっと、俺は
「ショ…ウ、祖王の名を——…」
晶の名に一瞬目を見張ったエイルは眉を
「え? 俺の名が何か?」
「いえ」と、軽く
「ここが何処か知りたいという事でしたね? ここはソルティアの王宮の南棟前にある庭園の一角です」
目の前の少年に確認してから、エイルはその反応を探るようにゆっくりとした口調で応えた。
それは明瞭にして簡潔な答えだったが、晶にとっては余計疑問点が増えただけだった。
——ソルティア? 王宮? 学校…じゃないよな。でも近くにそんな名前の場所あったか? う~ん全然判らない。
「あの~、すいません。もう少し詳しく教えてくれませんか?」
「判りました」
ソルティアの宮廷薬師はにこやかに頷いた。
「この王宮はソルティアの王都《
ここで言葉を切ってエイルは少年の反応を見たが、腕を組んで額に眉を寄せ、しきりに首を捻る彼を見て、更に詳しい説明を続けた。
「—ソルティアはアーサスの南に位置する国で、北東は《
「ちょ、ちょっと待ってください」
晶は慌てて宮廷薬師の言葉を遮った。それは自分が知りたいものではなかった。
「俺が知りたいのは、ここが何処かって事なんですよ」
「ええ、だからこうして説明していますでしょう」
話がどうもかみ合わない。意思の疎通を図るには、どうやら両者の間に横たわる浅からぬ溝を埋めなくてはならないようだ。
「だから、俺が知りたいのは、ここがS市の何処かって事なんです」
「エ…スシ——?」
今度はエイルが眉を
外人離れした流暢な日本語を喋るくせに、まさか地名が判らないっていうんじゃないだろうな。と、晶は不安になりながらも、もう一度「K県の南部にあるS市」と更に詳しく繰り返してみた。
しかし、やはり反応が鈍い。
思わず晶は、天を仰いで溜息をついた。