アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅷ —ダーナの邑(3)—

「それじゃ、お婆様のこと、よろしく頼むよ」

「ああ、任せておけ」

 陽に焼け、毛先が金に染まった収まりの悪い緋色の髪を後ろに束ね、貫禄のある佇まいで腕を組んでいたゴムラツハは、厚い胸板を叩いてエルドに請け合った。

 そして、チラリと少し離れた所で荷物を一角獣に載せている三人の内の一人、鮮やかな黄金の髪の少年に視線を向ける。

「しっかし、えらく毛並みの良さそうな奴を拾ってきたな」

 組んでいた手の片方で無精髭の生えた顎を撫でながら、ゴムラツハは呟いた。

「ちょっとした立ち振る舞いや、見た目なんかも何処か品があるってか、どう見てもいいトコのお坊ちゃんだよな」

「まぁね……」

 エルドは曖昧に返事を返す。

 ゴムラツハの勘は半分当たって、半分外れていた。どうせ本当の事を言っても信じてもらえる筈もないので、エルドはショウの事は失われた伝承を求めてお婆様を訪ねてきた、物好きなソルティアの者としか紹介していない。アルフィーネはその連れだ。

 エルゼナに行くのは、お婆様に言われてフィラウェルに二人を案内する為だと。

「で、どうなんだ?」

 唐突にゴムラツハが訊いてきた。

「何が?」

 きょとんとして、エルドは傍らのダーナの若長に振り返る。

 ゴムラツハはニヤニヤしながら、日焼けした褐色の逞しい体を(かが)めて朱毛(あかげ)の少女に耳打ちした。

「モノにできそうかって事だ。何しろお前が野郎の言葉を素直に聞いてんの、見るのは初めてだったからな」

「な、何バカなこと言ってんだよっ」

 頬を紅潮させ、エルドは反駁した。

「ショウはあたしを心配して言ってくれてたんだよ。それを突っ撥ねられる訳ないだろ。第一あんな世間知らずのお人好しなんて、全然好みじゃないね」

「そうか? 十分お前の好みに合うと思ったんだがな」

 ゴムラツハは若長と呼ばれるようになる前は、狩り仲間のエルドの父を訪ねてよくウィドの邑に遊びに行っていた。当然その娘である彼女の事は産まれてから今まで、その成長をつぶさに見てきたのだ。エルドの性格や好みなど、本人以上に熟知しているとゴムラツハは自負していた。

「それにあの二人、見たところまだおママゴトの域を出ちゃいないからな。お前だってチャンスは十分あると思うぞ」

 言いながら、顎で金髪の少年と亜麻色の髪の少女を指し示す。

 丁度自分の分が終わったショウが、アルフィーネを手伝おうと近づいた処だった。

 それに狼狽(うろた)えたアルフィーネが、ぎこちないながらもショウに一角獣に荷物を載せるのを手伝って貰っている。

 あの後あれからショウと満足に話し合う事もできず、結局有耶無耶の内にアルフィーネも一緒に行くことになってしまったのだ。

 その辺りもどうやらこの若長は、弟から情報を仕入れているらしかった。

「ゴムラツハっ」

 琥珀色の瞳を燃え上がらせ、エルドはお節介なダーナの若長を()め付ける。

「おっと、暴力反対」

 これ以上怒らせると後が怖い。エルドを産まれた時から見てきて引き際を(わきま)えているゴムラツハは、組んだ両手を解いて胸元で広げ、降参の意を示した。

「おーい、姉ちゃんまだかい? こっちは支度できたよ」

 シグが大声でエルドを呼んだ。

 三人とも荷を載せた一角獣に跨がり、最後の一人が来るのを待っている。

「あそこら辺は、また一段と荒れ地化が進んだからな」

 そう言いながら、ゴムラツハは勢い良く親友の娘の背中を叩く。

「気を付けて行ってこい」

「こ、この馬鹿力っ」

 ジンジンと痛む背中を押さえ、エルドは怒鳴った。

 ゴムラツハを睨み付けて背を向けると、振り返りもせずに弟の許に駆けていく。

「若長、またエルドを揶揄(からか)ってたんですか」

 走り去る朱毛(あかげ)の少女を見送る若長に、その補佐をしているノマンが呆れたように声を掛ける。

「そんなつもりは無かったんだが、ついな。怒った顔が可愛くてなぁ」

 怒りにまかせて一角獣に飛び乗り、驚く同行者達を放ってさっさと行ってしまうエルドを見送りながら、ゴムラツハは無精髭の伸びた顎を撫で付けた。

 ヤニ下がり、折角の精悍な男前の顔が台無しである。

 ノマンは処置なしとばかりに肩を竦める。

「ったく、いい加減にしないと本当に嫌われますよ」

「そ、そうか」

 嫌われると言われ、ゴムラツハは情けない表情(かお)になった。

 腕を組み、真剣に悩み出す。

 それを見たノマンはうんざりとした顔になった。

「若長、悩むのはウィドの邑に着いてからにしてくださいよ」

「ああ、判ってる」

 応えるゴムラツハの声は、意外なほど真剣味を帯びて硬かった。

 

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