ダーナの
「おい、エルド。ちょっと待てよっ」
彼女がいきなり一角獣に飛び乗って走り出したので、ショウ達三人はダーナの邑人達への挨拶もそこそこに慌てて後を追ったのだが、エルドの無茶とも言えるスピードになかなか追い付く事ができない。
「姉ちゃんっ、そんなに飛ばしたら一角獣の息が続かないよっ」
シグが姉の背中に怒鳴りつける。
「先は長いんだからさ、ここで一角獣潰したらどうすんだよっ!」
その声に、エルドの一角獣のスピードが徐々に落ちてくる。
ほっとしてショウ達もそれに合わせて速度を落とした。
「何かあったのかしら?」
漸く話す余裕ができて、心配そうにアルフィーネはシグに訊いた。
エルドにあんなに言われて一度は決心したものの、ショウにああ言われ、結局一緒に行きたい気持ちが
「どうせまた、ダーナの若長に
困ったもんだとシグは肩を竦める。
「で、姉ちゃんのことやけに気に入っててさ、すぐちょっかい出すんだよ。でさ、ゴムラツハって思ったことは何でも口にしちゃうもんだから、一言多くてその度に姉ちゃん怒らせちゃうんだよなぁ。ほら、姉ちゃんって気が強くて短気だから」
「シグっ、余計なこと言うんじゃないよ」
調子に乗って喋りまくる弟の口を、怒気に満ちた声でエルドが塞ぐ。
話に夢中で、彼女が自分達の傍らに一角獣を寄せていたのに、誰も気付かなかった。
ヤバっと、シグは慌てて首を引っ込め、姉の視線から逃れようとショウの一角獣の陰に逃げ込む。
それを追い、突き刺すようなエルドの視線が自分に向けられ、ショウは焦った。
自分が睨まれているわけじゃないと判っていても怯んでしまう。
「え、えーと……」
——どうすりゃいいんだ、この険悪な雰囲気。
「でも、ほら、ダーナの若長とそれだけ親しいなら、安心だよな」
とにかく何か言わなければと、ショウは咄嗟に思い付いた事を口にしてみた。
彼の背後にいる弟を睨み付けていたエルドは眉を
剣呑な雰囲気が幾分和らいだ事に安堵し、ショウは更に言葉を継いだ。
「そんなに気心知れてる人に婆さんを頼めたんだから、俺達も気兼ねなくエルド達にエルゼナまで案内して貰えるもんな」
と、にっこりと
「そ、そりゃ、まぁ……」
口籠もり、思わずエルドは笑顔のショウから視線を逸らした。
ゴムラツハの所為で、変に意識してしまってまともにショウの顔が見られない。
「と、とにかく、エルゼナは結構遠いんだから、のんびり無駄話なんてしてられないんだよ」
言い訳がましくそう言うと、エルドはぐいっと手綱を引いて一角獣をアルフィーネが乗るそれに寄せる。
「いいかい、アルフィーネ。これから先は邑がないから、休める時は遠慮しないでしっかり休むんだよ」
「え、ええ。分かったわ」
「それと、荒れ地に入ったら乾燥してるから、水分はこまめに取る様にするんだ」
エルドは一角獣を駆りながら、アルフィーネに
心情的にアルフィーネがこの旅に同行するのは今でも反対だったが、こうなった以上少しでも不安要素は減らしておきたい。そう思っての事だ。
ショウや弟などどうでもいい。別に気恥ずかしさを誤魔化す為じゃない。
そう自分に言い訳しながら、エルドは更にアルフィーネにつらつらと言い聞かせる。
突然の事に面食らいながらも、アルフィーネは素直にそれに耳を傾けた。
置いてきぼりにされたショウとシグは、自分達を完全に無視してアルフィーネと共に先に行くエルドを、呆気に取られて一角獣を駆るのも忘れて見やった。
何時も以上の唐突さ加減に、付いていけない。
「えぇっと、これって、エルドの機嫌が直ったってコトでいいんだよな?」
「そーなるのかなぁ」
釈然としない面持ちでシグが応える。
何時もなら鉄拳の一つや二つ飛んで来るのに、それがないなんて……
命拾いしたのはいいが、何だか調子が狂う。
何処となく不気味に思いながらも、ショウと連れだって再び一角獣を駆りながら、シグは首を傾げて前方を走る姉の後ろ姿を眺めやった。