アーサス   作:飛鳥 螢

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第二章 《 暁 の 国(エルティア) 》 Ⅷ —荒れ地に向けて—

 ダーナの(むら)を出発したショウ達は、青々と波打つ草原の中を脇目も振らずに全力疾走する朱毛(あかげ)の少女の後を追って一角獣を走らせていた。

「おい、エルド。ちょっと待てよっ」

 彼女がいきなり一角獣に飛び乗って走り出したので、ショウ達三人はダーナの邑人達への挨拶もそこそこに慌てて後を追ったのだが、エルドの無茶とも言えるスピードになかなか追い付く事ができない。

「姉ちゃんっ、そんなに飛ばしたら一角獣の息が続かないよっ」

 シグが姉の背中に怒鳴りつける。

「先は長いんだからさ、ここで一角獣潰したらどうすんだよっ!」

 その声に、エルドの一角獣のスピードが徐々に落ちてくる。

 ほっとしてショウ達もそれに合わせて速度を落とした。

「何かあったのかしら?」

 漸く話す余裕ができて、心配そうにアルフィーネはシグに訊いた。

 エルドにあんなに言われて一度は決心したものの、ショウにああ言われ、結局一緒に行きたい気持ちが(まさ)って付いて来てしまったのだ。その負い目からか、彼女とも何となくギクシャクしてしまっているアルフィーネにとって、エルドの機嫌はもっとも気になるところだった。

「どうせまた、ダーナの若長に揶揄(からか)われて頭にきてんのさ。ゴムラツハって父ちゃんの悪友でさ、若長になる前はしょっちゅうおいら達の邑に入り浸って、どっちが自分の邑か判らないくらいだったんだ」

 困ったもんだとシグは肩を竦める。

「で、姉ちゃんのことやけに気に入っててさ、すぐちょっかい出すんだよ。でさ、ゴムラツハって思ったことは何でも口にしちゃうもんだから、一言多くてその度に姉ちゃん怒らせちゃうんだよなぁ。ほら、姉ちゃんって気が強くて短気だから」

「シグっ、余計なこと言うんじゃないよ」

 調子に乗って喋りまくる弟の口を、怒気に満ちた声でエルドが塞ぐ。

 話に夢中で、彼女が自分達の傍らに一角獣を寄せていたのに、誰も気付かなかった。

 ヤバっと、シグは慌てて首を引っ込め、姉の視線から逃れようとショウの一角獣の陰に逃げ込む。

 それを追い、突き刺すようなエルドの視線が自分に向けられ、ショウは焦った。

 自分が睨まれているわけじゃないと判っていても怯んでしまう。

「え、えーと……」

 ——どうすりゃいいんだ、この険悪な雰囲気。

「でも、ほら、ダーナの若長とそれだけ親しいなら、安心だよな」

 とにかく何か言わなければと、ショウは咄嗟に思い付いた事を口にしてみた。

 彼の背後にいる弟を睨み付けていたエルドは眉を(ひそ)め、こいついきなり何を言い出すんだと、訝しそうに黄金の髪の少年を見返す。

 剣呑な雰囲気が幾分和らいだ事に安堵し、ショウは更に言葉を継いだ。

「そんなに気心知れてる人に婆さんを頼めたんだから、俺達も気兼ねなくエルド達にエルゼナまで案内して貰えるもんな」

 と、にっこりと朱毛(あかげ)の少女に笑いかける。

「そ、そりゃ、まぁ……」

 口籠もり、思わずエルドは笑顔のショウから視線を逸らした。

 ゴムラツハの所為で、変に意識してしまってまともにショウの顔が見られない。

「と、とにかく、エルゼナは結構遠いんだから、のんびり無駄話なんてしてられないんだよ」

 言い訳がましくそう言うと、エルドはぐいっと手綱を引いて一角獣をアルフィーネが乗るそれに寄せる。

「いいかい、アルフィーネ。これから先は邑がないから、休める時は遠慮しないでしっかり休むんだよ」

「え、ええ。分かったわ」

「それと、荒れ地に入ったら乾燥してるから、水分はこまめに取る様にするんだ」

 エルドは一角獣を駆りながら、アルフィーネに細々(こまごま)とこの旅における注意事項を並べていく。

 心情的にアルフィーネがこの旅に同行するのは今でも反対だったが、こうなった以上少しでも不安要素は減らしておきたい。そう思っての事だ。

 ショウや弟などどうでもいい。別に気恥ずかしさを誤魔化す為じゃない。

 そう自分に言い訳しながら、エルドは更にアルフィーネにつらつらと言い聞かせる。

 突然の事に面食らいながらも、アルフィーネは素直にそれに耳を傾けた。

 置いてきぼりにされたショウとシグは、自分達を完全に無視してアルフィーネと共に先に行くエルドを、呆気に取られて一角獣を駆るのも忘れて見やった。

 何時も以上の唐突さ加減に、付いていけない。

「えぇっと、これって、エルドの機嫌が直ったってコトでいいんだよな?」

「そーなるのかなぁ」

 釈然としない面持ちでシグが応える。

 何時もなら鉄拳の一つや二つ飛んで来るのに、それがないなんて……

 命拾いしたのはいいが、何だか調子が狂う。

 何処となく不気味に思いながらも、ショウと連れだって再び一角獣を駆りながら、シグは首を傾げて前方を走る姉の後ろ姿を眺めやった。

 

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