何処まで続くのか、所々に大きな岩場が点在する以外何もない、代わり映えのしない殺風景な赤茶けた荒れ地の中、長年踏み固められた大地に一筋人々の往来を示す唯一の道を辿り、ショウ達が次の湧き水場に着いたのは、傾き掛けた陽が血のような赤い色に大地を染め上げた頃だった。
「やぁっと着いたぁ~」
一角獣の背に跨がったまま、シグは大きく伸びをした。
エルドが一角獣から飛び降りながら、その背中をど突くように怒鳴る。
「ぼさっとしてないで、さっさと火を
陽が完全に落ちると天空の星と月の光がなければ、この辺りは真の闇と化す。同時に一気に冷え込む大気は汗ばんだ体から熱を奪い、暖めなければ凍えてしまう。
「わ、分かったよ」
シグは慌てて一角獣から飛び降り、姉と共に湧き水の流れ落ちる岩場の片隅にある使い古された焚き火跡に急いだ。
放置された一角獣達は、勝手に岩場の裂け目から勢い良く流れ落ちる湧き水の許に行き、その下の岩の窪みに溜まっている水を飲んで乾いた喉を潤す。
ショウも一角獣から降り、一緒に乗っていたアルフィーネが降りるのに手を貸した。
そこに火を熾し終わったエルドが声を飛ばす。
「アルフィーネ、食材持って来ておくれ。ついでに
「ええ、分かったわ」
エルドに返事を返し、アルフィーネは自分の代わりに二人分の荷物を載せた一角獣から食材の入った袋を取り出して持って行く。
残ったショウは自分が手綱を握る二頭を湧き水の処に連れて行った。
ここはエルゼナに行く途中の宿場として使われているのか、色々な物が残されている。
天幕を張る為の棒や、岩を積み上げて作った煮炊き用の
そして、ここは荒れ地に姿を変える前は緑豊かな所だったのか、岩場の周りに数本の立ち枯れた木が残っていた。何時の頃からそこにあるのか、からからに乾燥して堅くなっている。
ショウは四頭が水を飲み終わるのを待って、手綱を一番水場に近い枯れた立木に縛り付け、干し草を持ってきて傍に置いた。
最初一角獣達は岩場から溢れ落ちた水付近に芽吹いた僅かな草を
エルドは焚き火の火を移した竈を使い、アルフィーネと一緒に料理を作っていた。
シグはつまみ食いがバレて姉に追い払われ、一角獣から降ろした荷物を焚き火近くの岩場に持って行くショウを手伝う。
そんな風にそれぞれがやるべき事をやり、風よけの切り立った岩場の前の焚き火の周りで一息ついた頃には、辺りは夜の帳に包まれていた。
「ふ~っ、やっぱダーナの干しソーセージは絶品だよなぁ」
膨れた腹をさすり、満足そうにシグはゲップをする。
「だからって食べ過ぎだよ。あんたは明日の
「えぇーっ、そんなぁ」
姉にぴしゃりと言われ、情けない悲鳴を上げたシグは助けを求めてショウを見る。
「いや、そんな目で見られてもなぁ」
シグに自分の分を二本も食べられてしまったショウとしては同情の余地はなかった。
「まぁ、人の分も食ったんだ。明日の昼まで持つんじゃないか」
「そんなに持つわけないだろっ」
「食い意地張ったあんたが悪い」
エルドが更に容赦なく追い打ちを掛ける。
ここで甘い顔をしたら、調子に乗ってこれからも食い散らかすに決まっている。
荒れ地では食料の現地調達が難しい以上、節約するのは当然の事だ。
極楽から一気に奈落の底に叩き落とされたシグは、絶望に打ちひしがれた。
そこだけどんよりとした空気が
ただ、飯抜きに同情するには、ぷっくりと膨れた腹の存在が邪魔過ぎた。
とはいえ、折角食後の一服でくつろいでいる中で、何時までもどんよりとした空気を醸し出されるのは鬱陶しかった。
流石にそのまま放置しておくのは可哀想だと思ったアルフィーネが、エルドに声を掛ける。
「そろそろ許してあげたらどう?」
「そうだな、もう十分懲りただろう」
ショウもそれに同意して
「どうだか。これで懲りるくらいなら苦労しないんだけどね」
産まれた時からの付き合いで、シグの事を熟知しているエルドが苦々しげに呟く。
その時だった。
闇の中焚き火の炎に照らされた薄暗がりで、静かに眠っていた筈の一角獣達が一斉に
はっとして、ショウ達が振り返る。
四頭は落ち着きなく地面を蹴り、鼻息も荒く、手綱を枯れ木から外そうと激しく首を左右に振っていた。
「どうしたんだ?」
「判らない。何かに怯えてるみたいだね」
用心深く辺りを見回すが何かが居るようには見えない。
念の為近くに置いておいたクロスボウを手に取り、エルドは一角獣達を
直後、暗闇から影が躍り出る。
エルドに向って一直線に。
「危ないっ」
咄嗟にショウは傍に転がっていた石を掴み、影に向って投げ付ける。
ギャウと悲鳴を上げ、影が地面にどさっと落ちた。
焚き火の炎に、その姿が照らし出される。
全長一 ・ 五フィノ程度の灰褐色の短い体毛に覆われた四足獣だ。顔は体の割に小さく、突き出た鼻の下耳元まで裂けた口の間から、研ぎ澄まされた鋭い牙が顔を覗かせている。
「
「何故こんな所にっ!?」
エルティアの姉弟は声を揃えて驚きの声を上げた。