アーサス   作:飛鳥 螢

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第三章 《 昏 の 国(アルティア) 》 Ⅰ —噂と行方—

「ところで、フォルドの噂の件だが、半々といったところだな」

 一応王の気持ちが晴れたと思われた処で、セイレムは本題に入った。

 人払いしたのはこれに付いて、人に聞かれたくない込み入った話をする為だ。

 もはや言葉を改めるのも面倒で、セイレムは他に誰も居ないのをいい事に、そのままの口調で話を進める。

「やはり、フォルド本人が戻らない事には、沈静化は難しいようだ」

 先日戻って来た出城巡りの騎士隊長のレグナントと一芝居打ったのだが、噂の二人の姿がどちらもない事が様々な憶測を生んでいた。

 目覚めてからずっと、フォルドが噂の侍女を傍に置き続けた事が、それに拍車を掛けていた。そして、更にそれを裏で面白おかしく(あお)る者達がいるのだ。

「仕方あるまい」

 ある程度判っていた事だと、カムラスは特に気にしなかった。

 とはいえ、そのままにしておく訳にもいかない。

「それで、()は打ったのか?」

「ああ、その辺は抜かりない」

 戻って来た連中を次の任務に就く前に集め、改めてこの件を詳細に確認し情報を共有したのだ。

 今回の皇子の失踪は、エスカーの襲撃により騎士が一人死亡した事にあると。

 また自分の所為で人が死んだと心を痛めた皇子は、これ以上同じ事が繰り返される前に一行から離れる決心をしたのだ。

 そして、何時までもこのままではいけないと、予てより計画していた事を実行したのである。それはエルティアに居る知識の女神(ヴァンデミーネ)の巫女に会い、エルーラにその打開策を請う事だった。

 皇子が誰にも言わずに独りで(・・・)行ったのは、万が一襲撃者にこの計画が知られれば必ず邪魔が入ると考えたからだと。

 いかにもフォルドが考えてやりそうな事を並べ立て、「独りで」の部分を強調して事の真相はこうだったのだと、セイレムは騎士達を言い包めたのだ。だから責任を感じる事はないし、もう皇子の事は気にせずに次の任務に励めと。

 ただ、皇子が失踪した原因であるエスカーの襲撃の件はまだ調査中だ。真相が判るまで伏せておく以上皇子の失踪の件も従来通り伏せ、もし人に聞かれたら皇子はフェデルの出城からエルティアへ行ったと言うように厳命した。同様に侍女の件も皇子の勧めで、ネールの出城より里帰りして行った後の事は判らないと答える様にと。

 それにより皇子を捜し出せずに戻った騎士達の心情を軽くすると共に、噂の真偽を知ろうと接触して来る者達に流れる情報を一本化したのである。

 今のところ沈静化までには至らないが、少なくとも闇雲にフォルドの醜聞を取り締まるよりも効果は出ていた。

「一応話した事は、訪ねてきたフォルドに誰にも言わずに独りで来たと聞いた女神ヴァンデミーネの巫女が、気を使って我が国に連絡してきた事で判明したのだと言っておいたが、実際その話は本当なんだろうな?」

 騎士達にはそう言ったものの、セイレム自身は今一信じ切れていなかった。

 その情報をもたらしたのが、一介の薬師でしかないエイルだからである。

「あの者が幼少の頃、エルティアで育ったという話はきいておろう」

「ああ、確かオルフォートがあいつを連れて来た時、そんな事を言ってたな」

 王宮を辞して何年も()つというのに何処から聞きつけて来たのか、オルフォートは当時寝込むことの多くなった病弱な王妃の為に、エイルを連れて来たのだ。

 エルティアで医薬に精通している養い親に、その知識の全てを叩き込まれた、若いのに腕のいい薬師だと言って。

「その師事していた者とは今でも早鳥(ピクト)でやり取りをしているらしくてな。フォルドが立ち寄った(むら)に偶然その者がいたらしくて、エラドラ殿に会えるよう尽力してくれたようなのだ」

 その恩師こそがエラドラなのだが、カムラスはそれを誤魔化した。

 それがエルーラの知識を得る代わりにエイルが出した交換条件だった。自分とエラドラとの繋がりを絶対に誰にも言わないという。

 それを知られれば、エルーラの知識を求める有象無象の者達が、エイルの許へ押しかけて来る。それを嫌っての事だ。

 それにたとえ相手が信の置ける者だったとしても、漏らした時点であの若い薬師は王宮から姿を(くら)まし、二度と自分達の前に現れないだろう。

 エイルは色々と便宜を図る自分に恩は感じていても、まだ完全に心を開いてはいない。あの「言霊(ことだま)」の件がいい例だ。最初から判っていた「心話」と違い、あの女が現れなければ、エイルはそれを自分に話す気はなかったに違いない。それは「心話」についても同じ事が言える。偶然オルフォートに知られなければ、おそらくエイルはそれも隠し通していただろう。そうカムラスは確信していた。

 そして、彼の信頼を失う事は、エラドラの信用を失うに等しい。

 だからこそ、カムラスはエイルと交わした約束を、自ら破るような真似はできなかった。

「成程……。もしかしてフォルドにエルーラの担い手を頼るよう、エイルが助言したのか?」

「まぁ、フォルドも自分と同じ力の宝石(いし)の担い手には興味を持っていたからな」

 全てを話せないセイレムに、すまないと思いながら曖昧にカムラスは答える。

「勿論、自分の命を狙う者を何時までも放置しておけないと考えてもいたが」

「それで、フォルドは何時頃戻って来れそうなんだ?」

「あれから新たな情報は得られていないそうだ」

 エイルから先程の話を聞いたのは、出城巡りの一行が王宮に戻るかなり前だった。

 彼の話ではその後、フォルドはヴァンデミーネの巫女の勧めで、エルティアの案内人と共に()の国の王都エルゼナに向かったらしい。

 同時にエルティアは丁度夏の移動期に当たり、今頃その近辺の邑は皆移動して跡地しか残ってないとの話だった。

 ただでさえ荒れ地が広がるエルティアの中央辺りはピクトにとって危険が多く、またその周辺の草原にしても、ゆっくり休める樹々がないのでは何時までも留まる事も出来ない。フォルド達を追うにしても、そこに留まって待つにしても負担ばかり大きいので、エイルはピクト達にそれ以上の情報収集は頼めなかったのである。

 おそらく今後フォルドの動向を掴む事は難しいだろう。

「——当分戻る見込みはないという事か……」

 セイレムは眉間に(しわ)をよせ、組んだ片方の手を顎にやって考え込む。

 騎士達には皇子は無事だから安心しろとは言ったが、エイルから聞いたという王の話を聞く限り、エルティアの環境はかなり厳しく、全く安心できない状況だった。

 唯一の救いはソーレスの存在と、ヴァンデミーネの巫女が付けてくれたエルティアの者達が、フォルドと一緒だという事だろう。

 本来なら知り得ない情報を知れただけでも良しとしなければならない。

 歯痒いが、今の自分に出来ることは、何事もなく無事にフォルドが戻ってくれることを祈るだけである。

 セイレムは組んだ腕を解いて大きく溜息をついた。

 




 お久しぶりです。
 という挨拶は普通「前書き」に書くものですが、ただでさえ話の続きを待たせているのに、先に余計な事を書いてこれ以上待たせるのは心苦しいので、今後とも挨拶は「後書き」にさせていただきます。

 さて、二月の末頃に、体調を崩して胃腸炎になってしまいました。直ぐに病院に行ったのですが、同じ症状の患者は自分で六人目だと医者に言われ、その後一週間程地獄を味わいました。
 テレビでも今巷で流行っているらしく、罹らない為の注意事項など並べていましたが、そういう事はもっと早く知りたかった。
 皆さんも気をつけてください。罹るとマジ地獄です。
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