アーサス   作:飛鳥 螢

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第三章 《 昏 の 国(アルティア) 》 Ⅲ —市 場(ファレス)(1)—

 神代の時代よりそこに在り続けていると()われるセクルスの森は、人の手で切り開くのは困難を極めた。

 巨大すぎる樹の皮は硬いもののボロボロと剥げやすい。だが、その下の幹はもっと硬くて斧も鋸も中々刃が通らないのだ。

 一部に穴を開ける程度ならまだしも、あの巨大な樹を丸々一本切り倒してその後始末をするだけでも、どれほどの人力と月日が掛かるか判らない程である。

 唯一、緑樹の化身である女神フェリューリアの力の宝石(いし)である〈森の雫(アルサール)〉を持つアルティアの祖王だけが、セクルスの巨大樹を難なく切り倒す事が出来た。

 しかし、独りでその全てを切り開くには、森はあまりにも広大過ぎた。

 もっとも祖王は、神々から譲り受けたこの大地(アーサス)の一部を成すセクルスの森を、人間の都合に合わせて好き勝手に切り開くなど、畏れ多い事は全く考えてはいなかった。

 とはいえ、この地をアルティアとして治める為に定めた王都《黄昏の都(アーレン)》の王宮周辺と、祖王(じぶん)を慕ってこの国の民となった人々の為に、ある程度開けた土地は必要だった。

 そこで祖王はセクルスの森の姿を損なわないように、生活するに足る必要最低限の樹を切り倒すだけに留めたのだ。

 アルティアの民達は森の中に点在する、狭いながらも陽の当たる土地を中心に巨大樹を利用した家を造り、その周りを脅威となる肉食の野獣の侵入を防ぐ為の棘の木(ザルツェ)で囲って集落を造った。そこで民達は自給自足しながら慎ましくも穏やかに暮らしたのだった。

 そして、永い年月が()ち、森と共に栄えたアルティアの人口も増え、祖王が幾らか余裕を持って切り開いておいた土地は、瞬く間に無くなっていった。

 あぶれた人々は新たな土地を求めたが、祖王以降アルサールを受け継いだ王族の中に担い手となる者がおらず、その力を使えない王族はいくら望まれても、巨大樹を切り倒して新たな陽の当たる土地を民に与える事はできなかった。

 土地を持たない民達はまだ少し余裕のある王都近くの土地に移り住む他に、セクルスの森外縁にある雑木林を切り開いて集落を造った者達もいたが、森の蛮人(オーシグル)の脅威に怯えて暮らすこととなった。

 一方土地もなく森の中で新たに小さな集落を構えた者達は、自警団(レンジャー)の仕事をしながら希少な獲物、生活に欠かせない甘味用の樹液に蜜や茸など、肉食獣のうろつく森の奥でしか採れないものを持ち寄り、多くの集落の中央辺りにザルツェを周りに植えた市場(ファレス)を作った。

 そこで土地持ちの集落の者達と売り買いすることで、野菜などの生活に足りない物を手に入れたのだ。

 そんな中、毎日集落から商品や道具を持って来るのが面倒な鍛冶屋や武器屋、雑貨屋などはこの中に居を構え、そこに住みながら商売をする者まで現れた。

 この相互扶助的なファレスは、誰もが露店を開け、ここに来れば大概のものが手に入る事から、次第にその規模を大きくしていった。

 土地なしの集落の人々が苦肉の策として作ったファレスは、今やその地域の人々を結ぶ無くてはならない場所となったのである。

 また国境に近いファレスには、その噂を聞きつけた他国の者も、自国の商品を持って売買しに来る事もあった。

 

 

 巨大な樹木が立ち並ぶ中を、両脇に植えらえたザルツェに沿って行くと十字路に出る。

 そして、その少し先の道の真ん中に、一際立派なセクルスの巨大樹が、通せんぼするかの如くデンっと(そび)え立っていた。

 その巨大な幹の両側には棘々のザルツェが、寄らば刺すぞと言わんばかりに隙間なく植えられていた。おそらくこの辺り一帯を囲っているのだろう。集落と同じように。

 近づくと、幹の中央下辺りにギリギリ一角獣が通れそうな高さの扉があった。

 巨大樹の向こうからは人々の(ざわ)めきが聞こえて来る。

「えっと、これか」

 一角獣から降り、ショウは扉付近に開いている大人の拳大の穴に手を突っ込み、手に触れた細い紐を何度か引っ張った。

 すると、傍にある幹の窪みの中央の二フィア程の穴から男の声が聞こえてくる。

「何だ?」

「買いたい物と売りたい物がある」

 窪みに向かって声を大きくして言うと、すぐに中からゴトンと音がした。

 集落ではなく市場(ファレス)なのだが、住み込んでいる人がいるからか集落並みの厳重さだ。

 分厚い幹の扉を二回(くぐ)ると、そこは人で溢れかえっていた。

 枝葉があまり重なり合わない様にある程度距離を置いて生えている、巨大樹の下部分に開いた大きな(うろ)の中に店を構える者の他に、所狭しとその周囲に様々な露店が軒を連ねていた。

 その周りには人々が店を覗いて品定めをし、客と店主が互いに損得を賭けた駆け引きを繰り広げる。何とも熱気が凄すぎる市場だった。

「話に聞いてた以上だな……」

 この近辺の集落の者達が集まるという話だが、朝早くからこの賑わいとは。ちょっと驚きを隠せないショウ達である。

「じゃあ、まず場所を決めなきゃね」

 エルドはぐるりとファレスの中を見回した。

 ファレスは品物さえ持って来れば、誰でも商売が出来る。場所は早い者勝ちで、空いている所に敷物を敷いて品物を並べるだけでいいのだ。人に迷惑を掛けなければ、断りを入れなくても文句を言う者はいない。

 ショウ達は宿の人の話を聞いて早めに来たのだが、人の出が思った以上に多く、ここからだと空いている場所は見当たらなかった。

 もっと奥の方に行かなければ駄目らしい。

 四頭の一角獣を引き連れてショウ達は、人の迷惑にならないように露店の立ち並ぶ外縁を歩きながら、空いている場所は無いかと目を凝らす。

「……本当にいいのか?」

 場所を探す朱毛(あかげ)の少女に、ショウは遠慮がちに再度訊いてみた。

 売ると言っても、一角獣はアルティアでは金の掛かる贅沢品だ。昨日泊まった集落でも一頭もいなかった。そんな集落の者達が集まるファレスで、売れるとはとても思えない。

 もし売れたとしても、エルティアにいた頃のような待遇にはならないだろう。最悪食肉にされてしまう事だってありえるのだ。

 エルドがそれに気付いていない筈がない。

「いいんだよ。ここで売って少しでも旅費の足しにしたいからね」

 全て覚悟の上で決めたのだ。ショウに見向きもせずにそう応えたエルドは、良さそうな場所を見つけたのか、手綱を引いて歩き出す。

 慌ててショウ達も一角獣を連れて後を追った。

 エルドが向かったのは左側の外縁に立ち並ぶ露店の端だった。ここに商品を持ち込んだ者達の荷車が並ぶ手前に、少し空いた場所があったのだ。

「ここいいかい?」

 傍の露店、並べた商品の前で客の一人に包みを渡していた赤銅色の髪の男に、エルドが声を掛ける。

「ああ」と振り返りながら応えた男は思わず目を丸め、自分に声を掛けて来た少女を見返した。

「お前、ウィドのエルドじゃないか」

「え?」

「ほら、俺だ。マドラのバトロムだよ」

 いきなり名を呼ばれて驚く朱毛(あかげ)の少女に、男は自分を指差して言い募った。

「ネヴィラの森に狩りに行く時、よくうちの(むら)に寄って行くだろ」

「あ、ああっ」

 漸くエルドも思い出し、驚きの声を上げた。

「知り合いなのか?」

「まぁ、ちょっとね」

 こそっと耳打ちしてきたショウに、エルドは曖昧に応える。

 よく厄介になっていたケリアの邑と違い、マドラは道中ちょっと休む為に立ち寄るくらいで、邑の者ともそれほど親しい間柄ではなかったが、それでも顔見知りではあった。

「でも、なんであんたがここに居るんだい? 邑の者はとっくに北に行っちまっただろ」

「買い出しだよ。この時期にしか手に入らない物とかのな」

 マドラの部族は北に移動するこの時期、数人がアルティアのファレスを巡り、ヌゥートの毛織物や乾酪(チーズ)乾燥肉(ジャーキー)に燻製肉など邑で作った物を売り、代わりにこの時期でしか取れない甘味用の樹液や蜜、臭いの少ない明かり用の樹脂など、この国の特産品を買って北に向かうのである。

 今は彼以外の者は他の露店を見て回っていて、店番をしているのはバトロム一人だけだった。

「そういうお前の方こそ、どうしてこんな所に居るんだ? 一緒にいるそいつは……ソルティアの(もん)か?」

 バトロムは朱毛(あかげ)の少女の連れらしい少年の、薄暗がりの中でも煌めくような黄金(こがね)色の髪に目を留め、意外そうな声を上げる。

「まあね、お婆様のトコに来た客人だよ。ちょっと訳あって、今は一緒に旅をしてるんだ」

「あぁ、ウィドの長老の客人か……」

 特に疑問も持たずバトロムは納得した。

 〈暁の星(エルーラ)〉の知識を求め、他国からもウィドの邑に尋ねて来る者がいるのは有名な話だ。珍しいのはその客人にエルド達が付き合って、こんな所まで来ているくらいだろうか。

 もっともこの客人は見るからに世間慣れしてない、育ちよさそうな感じの少年だった。面倒見の良いエルドとしては、エラドラの客人という事もあって、ほっとけなかったのだろう。

 そして、ここまでの道案内でも頼んだのだろうか、亜麻色の髪をしたアルティアの少女がソルティアの少年の傍にいた。

「で、ここへは何をしに?」

「旅支度だよ。この先何があるか分からないからね。必要最低限の物は揃えておかないと」

 そう言いながら、エルドはバトロムの前にある品物の一つを取る。

「このチーズ一つおくれよ。マドラのチーズは風味がいいからね」

 ここで保存が効く上に、栄養価の高い乳製品が手に入るとは幸先が良い。

「お、流石分かってるな」

 邑の品物を褒められ、バトロムは機嫌がよくなった。

「他に……これとこれもどうだ? この後エルティアに帰るからな、多少は安くしてやってもいいぜ」

 と、売れ残っていたジャーキーとマドラの邑特製ブレンドの香草茶を勧める。

「これからエルティアに帰るって?」

「ああ、一応欲しい物は全部手に入れたからな」

 そのまま直ぐにエルティアに帰っても良かったのだが、折角色々持って来たのだ。売らずに帰るのは勿体ないと、最後にここに立ち寄って残り物を売れるだけ売る事にしたのである。

 横合いから訊いてきたソルティアの少年に応え、バトロムはエルドと交渉を続けた。

「どうだ? この先中々手に入らないぜ」

「そーだねぇ、チーズを言い値で買うんだから、それらはオマケって事なら貰ってやってもいいよ」

「いや、幾らなんでもそれはないだろ。せめて半額。それなら手を打つぜ」

「じゃあ、全部半額ってのはどう?」

「全部半額って……」

 チーズまで半額にされては、他を半額払ってもらっても、さっきよりも安くなってしまう。

「だってさ、全部売れ残りなんだろ。あたしが買わなきゃ、半値のお金さえ手に入らないんじゃないのかい」

「そ、それはそうだが……」

 バトロムは苦渋に満ちた表情(かお)になる。

 確かにエルドの言う通りなのだが、これで手を打つと商売人として何か負けたような気になってしまう。

 勝ち誇ったエルドの前で、マドラの男が苦悩していると、不意にショウが割り込んで来た。

「それなら、全部そっちの言い値で買うよ」

「ショウ、あんた何言って——」

 折角安く手に入る処なのに、それを無しにするとはどういうことか。

 すかさず文句を言い掛けたエルドを制し、ショウは更にマドラの男に話しかける。

「その代わり、一つ頼まれてくれないか?」

「な、なんだ?」

 面食らったように、バトロムが黄金の髪の少年を見る。

 ショウは自分達が連れている一角獣を示して用件を言う。

「ここにいる四頭を全部エルティアに連れて行って欲しいんだ。それで俺達がエルティアに戻るまで、あんたの邑で預かってもらいたい」

「ショウ!?」

 連れの思いがけない頼み事に、エルドは大きく目を見開いた。

「エルティアでは随分お前に世話になったからな。だから今度は俺の番だ」

 呆然と自分を見返す朱毛(あかげ)の少女に、ショウは昨日から心の中で(くすぶ)っていた想いを口にした。

一角獣(こいつ)等はお前にとって、失いたくない大切な家族なんだろ?」

 ウィドの邑近くの草原で、自分の口笛に応えて姿を現したヌゥート達を見て、エルドがどんなに喜んだか。

 そして迎えが来るまでの間、家畜達が飢えや渇きに苦しまないようあれこれ工夫していた。

 それを間近で見ていたから判る。エルドがどんなにそれらを大事に思っているかを。

 なのにアルティアでは養うのに金が掛かるからとここで手放したら、きっとエルドは後悔する。自分で決めた事だと言っても、そう簡単に割り切れるものじゃないだろう。

 ショウ自身、ずっと一緒に旅してきたこの一角獣達が、ここでアルティアの誰かに買われ、不本意な扱われ方をされるよりも、エルティアに戻ってまた草原を元気一杯に駆けて欲しかったのだ。

 エルドが手放すと言った三頭でなく四頭と言ったのもその為だ。荷物持ちにはファレスでアルティアの土地に適した家畜を買えばいい。

 だから、ここでエルティアに帰るマドラの者に会えたのは渡りに船だった。

「それにお前は、俺に付き合ってこんなと所まで来てしまったんだからな。これくらいさせてくれ」

「………」

「姉ちゃんっ」

「——分かったよ」

 弟の必死の声に、躊躇(ためら)っていたエルドは観念したように息を吐き出した。

 本当はすぐにでもショウの申し出に飛びつきたかった。

 昨日覚悟を決めたつもりだったが、ファレスに着いた途端そんな気持ちは簡単に揺らいでしまっていた。

 今すぐ売り払ってしまわなければ、二度と手放せない。そんな想いから売るのを急いだのだ。

 でもショウには全てお見通しだったようだ。そしてそうなったのは俺の所為だからと、自分が負い目を感じないようにして、売るのではなくエルティアに一角獣(あのこ)達を返そうとしてくれた。

 だけど、それが判ったから尚更すぐに頷けなかった。そこまで甘えてしまっていいのだろうかと。エルティアでは全てが自己責任。人の所為にしてはならないと言われてきたから余計に。

「でも、本当にいいのかい?」

「ああ、売らなくて済むならその方がいいだろ」

 そう言って、ショウは腰のベルトポーチより小ぶりの巾着を取り出した。

「じゃあ、これで頼むよ」

「あ、ああ、いいけど——って、こんなにっ!?」

 ソルティアの少年から手渡された貨幣を見て、バトロムは目を剥いた。

 掌に乗る硬貨はたった一枚だけだったが、それは黄金色に輝く、平民ではまず殆どお目に掛かれない金貨だったのだ。

 チーズなどの商品の代金と四頭の一角獣をエルティアに連れ帰って世話をする手間賃にしては多すぎる。釣りを返すにしても、手持ちの金全部渡しても足りないだろう。

「何時一角獣(そいつ)らを取りに行けるか分からないんだ。それまでの世話賃を含めてだから、釣りはいらないよ」

 慌てふためくマドラの男にショウは笑って言ったが、流石に貰い過ぎだ。

「いや、だったら代わりにこいつらをやるよ。お前等これからアルティアを旅するんだろ?」

 バトロムは金貨を懐にしまうと、荷車が並んでいる一角から何やら連れて来た。

 それは二頭の四つ足の動物だった。一角獣より二回りくらい小さいずんぐりとした体型で、もっさりとした赤褐色の体毛は、一見するとセクルスの外皮を被った獣のように見える。

「こいつはモームっていう、この巨大樹の森に棲む獣でな、アルティアじゃ一角獣の代わりに飼われている」

 バトロム達はいつも最初のファレスでこいつらを買い、乗って来た一角獣は仲間の一人に邑に連れ帰らせていた。

 そして、その後はモームに荷車を引かせてアルティアの森の中に点在するファレスで、持ち込んだ商品を売りながら邑人から頼まれたものを買って北に向かうのだ。

「これなら餌は森に生える茸に落ち葉なんかも喰うから、一角獣みたいに餌代はかからない。それに大人しいし力持ちだから荷運びや乗る事もできるんだ」

「いいのか?」

「ああ、どのみちエルティアに連れ帰っても、こいつらは肉になるしか使い道がないしな」

 草原ではモームの餌になる茸がないのだ。飼えない以上潰して肉にするしかない。

「まぁ、その代わりに預かる一角獣に荷車を引いてもらう事になるけどな」

「そのくらい別にいいけど、それならモームの代金にもう一枚やった方がいいか?」

「いや、絶対いらん」

 ぶるぶると首を横に振り、断固としてバトロムは拒否した。

「それより、お前等ここに旅に必要な物を買いにきたんだろ。モームと一角獣は預かってやるから、買いに行って来いよ」

「そうかい、助かるよ」

 心の(わだかま)りが解けたことで完全に普段の調子を取り戻したエルドは、すぐさま他の露店に視線を走らせ、次の標的を物色し始める。

「けど昼くらいにはここを出るから、それまでには戻って来いよ」

 早速とばかりファレスの中央に向かうエルド達に、バトロムは苦笑して声を投げ掛けた。

 




 ―エルティアに帰る途中のマドラの邑の男達の会話―
「えー、バトロム。そいつがくれるって言ったんなら、貰っておけば良かったじゃないか」
「馬鹿、できるわけねぇだろっ。ウィドの長老の客人だぞ。ついでにエルドも一緒だったんだぞ」
「確かに、長老にバレた後が恐いな」
「でもさぁ、今の話じゃ、そいつの事エルドも止めなかったみたいだし」
「まあ、エルドの代わりにそいつが金出してたからな」
「人の金ならそう煩くないのか……」
「ああ、最初エルドに色々売ろうとしたら、がっつり値切られた」
「それで?」
「そいつが途中で口挟まなきゃ、全部半値で売る羽目になるトコだった」
「お前、子供相手に情けなくないか、それ」
「全く、だらしないな」
「へぇ、そう言うお前等ならできるのか? エルド相手に」
「い、いやぁ……」
「………」
「だがな、それ以上に怖いのが、あのソルティアの小僧だ」
「え? どうして? エルドが値切った商品(やつ)全額出してくれたんだろ」
「ああ、それがどういう意味か分かるか?」
「ただの甘ちゃん」
「ではないと言うことか?」
「ああ、俺にしっかり釘を刺したんだよ。値切らず全額出す事で、預ける一角獣達の世話に手を抜くなってな」
「だったら、やっぱりもっと貰っておけば——」
「アホか、お前はっ」
「どうしてだよ」
「あれ以上貰って、あいつらが取りに来た時、一角獣の体の何処かににほんの僅かでも傷が付いてたらどうなるか判るか」
「どうなるって?」
「大体一角獣は放し飼いだからな。かすり傷程度普通についたりするだろう」
「エルドもそれが判ってるからな。今回口出さなかった分、絶対難癖付けてくる」
「で、でも。頼んだのはそのソルティアの(もん)なんだろ」
「一角獣はエルドのもんだ」
「貰う額が多ければ多い程、エルドのチェックが厳しくなるという事か」
「ああ、モームやって少しは機嫌を取っておいたが、何しろエルドだからなぁ」
「それはそれ、これはこれ。とか言いそうだな」
「じゃ、その時はバトロム頑張れよ」
「え、俺だけ?」
「だって、バトロムが預かったんだから」
「そうだな。俺達が預かったわけじゃない」
「この薄情(もん)っ!」

 あのエルドとの交渉は、誰もやりたがらなかった。
 注)ショウは別にバトロムに釘を刺す為に全額支払うと言った訳ではない。長期に渡って世話を頼むのだから、それなりの誠意を見せるべきだと思ったのだ。この辺は祖母の影響が大きい。
 但し、それとその後のエルドの対応は別問題である。


 お久しぶりです。
 漸く朝晩が涼しくなったように感じます。
 でも昼間はやはり暑い。
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