アーサス   作:飛鳥 螢

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第三章 《 昏 の 国(アルティア) 》 Ⅳ — 追跡者(11)—

 ぬっと、ここ一帯を覆う白い水蒸気の壁の中から数人の男達が姿を現わす。

 それを見て、アルフィーネが息を呑んだ。

「誰だい、あんた達?」

 胸に(さらし)を巻いてズボンを履いただけのエルドは、顔を強張らせたアルフィーネを庇う様に前に出る。

 一人はアルティアの男のようだが、後の三人は金髪だった。アルフィーネの怯えようから、あのソルティアの男達は顔見知りではあるが、会って嬉しい間柄ではなさそうだ。

「フォルドは何処だ?」

 朱毛(あかげ)の少女の問いを無視し、辺りを一瞥して金髪の若者の一人——サウアーが傲然とその後ろの亜麻色の髪の少女を詰問する。

 ビクリと肩を竦め、アルフィーネは顔を背けるように俯いた。

「貴様、さっさと答えんかっ」

「ちょいと、あんた一体何様だい」

 無視されたエルドは、刺々しく男を睨み据えて皮肉たっぷりに言う。

「女の着替え中に乱入してきてその態度。嫌だねぇ、スケベな奴は常識ってもんがないんだから」

「な、なんだとぉ」

 侮蔑に満ちたエルティアの少女の言いように、サウアーはカッとなって顔を朱に染め、ギョッとした従者兄弟は顔色を無くした。

 ただ、ゲッシュだけは一人三人から距離を取り、感心したように軽く口笛を吹いて朱毛(あかげ)の少女に視線を向ける。

「貴様、下賤な者の分際で、ソルティアの王族であるこの俺を愚弄する気かっ」

「ああ、一応ちゃんと聞こえる耳と、理解する頭があって何よりだよ」

 嘲るように声を大にしてエルドが言葉を返す。

 好き嫌いのはっきりしているエルドにとって、身分を嵩に威張り散らす目の前の男はもっとも嫌いなタイプだった。その嫌悪感が素直に言葉にも表れ、毒舌も何時にも増して痛烈だ。

「ついでに世間一般の常識ってもんも、その物覚えの悪そうな頭に憶え込ませてくれたら助かるんだけどね」

「お、おのれっ。あの口汚い女郎(めろう)を捕まえろっ!」

 全身をブルブルと震わせ、サウアーが喚く。

「フォルドの侍女もだっ」

 主君の命に、後ろで控えていた従者兄弟——クノックとアガスは少し不自由な体を押して二人の少女に迫った。

「逃げるよっ」

 どうやらあいつ等はショウ(フォルド)に用があるらしいが、どうせロクでもない事だろう。

 真っ直ぐショウ達の待つレンジャーの拠点の方に逃げて、そんな奴等を連れて行くわけにはいかない。

 足許にある衣類をそのままに、エルドはアルフィーネの腕を掴んで、傍に生える高さ一フィノ半程もある巨大なシダの中に駆け込む。

 シダはシグなら少し俯けば完全に姿が隠れるくらいの高さだ。エルド達も腰を落として屈めば身を隠せないわけではない。

「馬鹿め、それで隠れたつもりか」

 サウアーが嘲笑う。

 ガサガサと移動する音と共に巨大なシダの葉が揺れる。

 これでは姿が見えなくても何処にいるか丸わかりだ。

 繁みに潜り込んで逃げる少女達を前後から挟み撃ちにしようと、従者兄弟は切り株の左右から回り込み、別々にシダを掻き分け繁みの中に入って行く。

 身を低くしてシダの中に潜みながら移動する少女達の逃げ足はそれ程早くない。

 程なくクノックが先回りして、揺れ動くシダの葉の先に立ち塞がった。

 ビクっとしたようにシダの葉の揺れが止まる。

 同時に追いついたアガスが大きく両手を広げ、少女達が引き返したらすかさず捕まえようと待ち構える。

「さあ、大人しくしろ」

 クノックが大きくシダの葉を掻き分ける。

 だが、そこには誰も居なかった。

「なに!?」

 クノックが目を(みは)る。

 アガスも手を広げたまま呆然となった。

 揺れた葉はここが最後だった筈だ。なのに何故居ない。

 困惑し、辺りを見渡す。

 ——と、

「ぎゃっ」

 いきなり小太りの体がひっくり返った。受け身も取れずにシダの繁みの中に倒れ込む。

「アガスっ!?」

 驚き、目を見開くクノックの目の前に、突然勢いよく立ち上がった朱毛(あかげ)の少女が、彼の顎に容赦なく肘鉄を喰らわせた。

「がっ」

 仰け反って体を宙に浮かせ、クノックはシダの中に仰向けに頭から突っ込んだ。

 実はエルドは(わざ)とシダの葉を揺らしながらある程度進むと、一際葉の生い繁るシダの株の後ろにアルフィーネと共にしゃがみ込み、そして足許にあった石ころを幾つか拾うと、前方のシダの繁みに向かって投げて葉を揺らしたのだ。

 それを見てクノック達は、そこに二人が居ると勘違いしたわけである。

 エルドはそうやって男達の意表を()き、まず自分達に気付かずに横を通り過ぎた小太りの男の両足を後ろから思いっ切り払って転ばせた後、驚く中背の男もすかさず無力化したのだった。

 二人を撃退したエルドは、そのまま体を反転させた。

 立ち上がったアルフィーネの手を掴むと、一気にシダの繁みの外を目指す。

 簡単に捕まえられると思っていたサウアーは、生意気なエルティアの少女の反撃にあっさりとやられた従者兄弟の姿に唖然となっていた。

 その隙にエルドはアルフィーネを連れて水蒸気の霧の中に逃げ込もうとする。

 さっきの男達はショウ達がいるレンジャーの拠点に通じる通路とは別の所から現れた。

 この辺りに立ち込める霧を造り出している水蒸気の穴は、地面の石の隙間から無節操に噴き出しているが、ちゃんとその場所を把握していれば通れない事も無い。

 とはいえ、それは初見では難しく、追って来るにしても時間が掛かる。

 だから水蒸気の霧で彼等を撒き、この中で男達が通れる所を探してもたもたしている内にショウ達と合流できれば、逃げ切れるとエルドは踏んだのだ。

「あ、おい、待てっ。待たんかっ!」

 少女二人がシダの繁みを抜け、白い蒸気の霧の中に駆け込もうとする姿に、ハッと我に返ったサウアーは怒声を上げ、慌ててその後を追おうとする。

 折角フォルドに追い付いたのだ。何としても捕まえ、奴の居場所は吐かせなければ。

 だが、距離が開き過ぎている。

 焦るサウアーの目の前で、二人はとうとう白い霧の中に入ってしまった。

 と思ったら不意に足を止め、険しい表情をして後退(あとずさ)りし出した。

 その二人を押し出すように水蒸気の霧の中から現れたのは、朱毛(あかげ)の少女の喉元に剣先を突き付けたアルティアの男だった。

 ゲッシュはずっと少女達の動向を注視し、白い霧に紛れて先回りしていたのだ。

「でかしたぞ」

 歓喜の声を上げ、サウアーが追い付く。

 ——この男さえ居なければ上手くいったのに……

 エルドは忌々しそうに自分の動きを封じる焦げ茶色の髪の男を睨んだ。

 痛む後頭部と顎を押さえ、シダの繁みの中から出て来た従者兄弟までもやって来た。

 これでは逃げるに逃げられない。

「こやつ等を縛り上げろ」

 憎々しげに朱毛(あかげ)の少女を()め付け、サウアーが尊大に命じる。

 従者兄弟はさっきやられたお返しとばか、少女二人を手荒に縛り上げる。

 きつく縛られ、アルフィーネは痛そうに顔を歪めた。

「ちょいと、もう少し丁寧に扱いなよ」

 アルフィーネを気遣い、エルドが文句を言う。

「女子供には優しくするってのは、男の一般常識ってもんだろ」

「はっ、何が女子供だ。このあばずれが。優しくして欲しかったら、女らしく男に従順になる事だな」

 嘲ってそう吐き捨てたサウアーだが、自分の前で従者二人に押さえ付けられて地面に座るエルティアの少女の体をじろじろと見回した。

 目鼻立ちのはっきりとした顔立ちは、少々きつめだが美人の範疇に十分入る。しなやかで均整の取れた肢体は抱き心地が良さそうだった。

 ——男に従順な女らしさを、俺が一から教え込んでやるのも一興かも知れん。

 そう考えながら、サウアーは朱毛(あかげ)の少女の傍らに縮こまるように座る亜麻色の髪の少女に目を向けた。

 (さらし)を巻いただけの胸を張って毅然とサウアー達を睨み返すエルドと違い、アルフィーネは肌着一枚の姿を男達に見られ、羞恥に顔を赤く染めて俯いていた。

 体を覆う薄衣の隙間から見える火照った柔肌が、しっとりと妙に艶めかしく見える。

 ——こっちも中々楽しめそうだが、その前に——

「フォルドは何処だ?」

「っ……」

 居丈高に問うサウアーの声に、アルフィーネはビクっと体を震わせた。

 エルドはそっぽを向き、だんまりを決め込む。

 黙したまま答えない二人に苛立ち、サウアーは声を荒げた。

「言えっ、フォルドは何処に居る!?」

「………」

「答えろっ」

「ああ、もう、五月蠅(うるさ)いねっ」

 無視されて(いき)り立つソルティアの男に顔を(しか)め、思わずエルドが煩わしげに言い返す。

「キャンキャン喚くんじゃないよ。男の癖にみっともない」

「なっ!?」

 この俺を、みっともないだと!?

 絶句したサウアーは次の瞬間、激昂して朱毛(あかげ)の少女の腹を思いっ切り蹴り付けた。

「ぐぅっ」

 後ろから押さえつけられ、避ける事も出来ずにそれを喰らい、エルドは顔を歪めて地面に倒れ込む。

 それでも気が治まらず、尚もサウアーは体をくの字に曲げて倒れる少女を(かかと)で踏みつけようとする。

「止めてっ!」

 いくら何でも酷すぎる。

 思わずアルフィーネは声を張り上げた。

 その声に体を返し、サウアーはギロリと従弟の侍女を()め付ける。

「答えぬからこうなるのだ。それが嫌なら言え、フォルドの居場所を」

「………」

「言えぬというなら、そうだな——」

 また堅く口を閉ざした亜麻色の髪の少女の体を、サウアーは舐め回すように見やる。

 着ている薄衣の肌着が火照った体の汗を吸い、それが柔肌に張り付いて体のラインを際立たせていた。

「茶会の時は邪魔が入ったが、今回はどうだろうな?」

 あの時フォルドは呼びもしないのに血相を変えてやって来た。

 居場所が言えないなら、こちらに誘き寄せればいい。

「あ……」

 ニヤリと(わら)い独り言ちるサウアーの言葉にあの時の恐怖が蘇り、アルフィーネは顔を青褪(あおざ)めさせた。

「いや……」

 逃げたくとも、後ろからしっかりと小太りの従者に体を押さえ込まれてできない。

「アルフィーネに触るんじゃないよっ」

 中背の従者にがっしりと体を押さえ付けられ、起き上がる事も出来ずにエルドが叫ぶ。

 朱毛(あかげ)の少女の焦る声に溜飲を下げ、サウアーはアルフィーネの胸元に手を伸ばす。

「いやぁっ」

 怖気(おぞけ)立ち、堪らずアルフィーネは悲鳴を上げた。

 その瞬間、鮮烈な緑の光が彼女の胸元から(ほとばし)る。

「うおっ」

 眩しさにサウアーは思わず仰け反り、アルフィーネを捕まえていたアガスは仰天してひっくり返った。

 傍に居たエルドとクノックは眩しさに目を細めて唖然とし、少女達をソルティアの連中に引き渡した後、距離を取って見ていたゲッシュは驚きに見開いた目を、咄嗟に顔に手を翳して庇う。

 そしてアルフィーネも眩しそうに、緑に光り輝く自分の胸元を茫然と見ていた。

 光は暫くすると徐々に収束し、何事もなかったように消えていく。

「なんだっ、今のは!?」

 まともに光を見たサウアーは目がチカチカし、何度も頭を振って唸る様に従弟の侍女に問い(ただ)す。

 けれどアルフィーネにもそれが何なのかよく分からなかった。

 多分両親の形見のペンダントの所為なのだろう。何度か自分の身に危険が迫った時にこの光を見たような気がするが、ここまで鮮烈な光を放ったのは初めてだった。

「その胸元に、何を隠しているっ!?」

 またさっきの光に目を焼かれるのを用心し、サウアーは近寄らずに腰の剣を抜いた。

 そして息を呑むアルフィーネの胸元に剣先を向け、邪魔な肌着を切り払おうとする。

 同時に、それを制する男の声がその場に響き渡った。

 




 お久しぶりです。
 先日何時もの様にパソコンの電源を入れたら、いきなり何時もと違う見た事もない画面が表示されました。一面真っ青な画面に「BitLocker」と。
 それを見て自分は固まりました。
 なんだこれ? 昨日いつも通りにシャットダウンした筈なのに、全く理解不能でした。
 パソコン全く使えない状態で画面消そうにも出来ないし、そもそも「BitLocker」とは何ぞや? から始まり、同居人に訊いたところ、パソコンを盗まれたとかして不正にデータを取られない為の安全装置という話でした。
 そもそもパソコン盗まれていないのだが。と言いたい。

 そして、上手く解除できないと、最悪データが消えるというオチまで付いていた。データ盗られるくらいなら消してしまえという話らしい。
 おいこら、パソコン盗まれたと誤認して勝手に起動した挙げ句、大事なデータ消し飛ばすなよ。と言いたい。

 同居人に協力して貰い、四苦八苦した挙げ句に何とかやっと解除して、無事人質に取られたデータを取り戻しました。一生懸命書いた話が消し飛ばなくて、ホント良かった。
 それにしても一体何が原因でこの機能が起動したのか。結局のところ謎のままです。何時もと同じ変わった操作など一切していないのに。

 解除できたものの、この機能に何時また大事なデータ人質に取られるか、時限爆弾みたいで怖いし、ホントに盗られた時盗られてないと誤認して起動しなかったりして。
 何にせよ、盗まれたかどうか判断する機能なんか付いてない安物パソコンに、そんな大迷惑なデータクラッシャー機能は要らないです。標準仕様でなくオプションにして貰いたいものです。

 以上、パソコン持っていれば、誰にでも起こり得る肝の冷える話でした。

 一応この「BitLocker」機能、起動停止させる事もできるらしいけど、それするのがまた物凄く面倒みたいで、機械音痴の自分には無理な話だったりする。
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