「相変わらず、喰えん男よの」
執務室に戻り、重厚な造りの机の前の椅子にどかりと腰を下ろし、ルゴスは鼻を鳴らして独り言ちた。
いかにもしおらしく自分の失態を深く詫びているように見せかけ、その実しっかりとこちらを牽制してきおった。
先ほどの事を苦々しく思っていると、続き部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「入れ」
「失礼致します。ルゴス様」
扉が開き、一人の男が入ってきた。
五十代後半のいかにも中年太りという体格をした男だ。頭髪と顎髭はくすんだ金色で、所々に白髪が混じっている。一見人が良さそうな顔つきだが、目つきがどことなく悪く、全体として善人を装っている悪徳商人という印象だ。この男がフォルド達の庭園での
「お早かったですな。フォルド様にはお会いになられたので?」
「気分が優れぬとかで、会わせてもらえんだわ」
憮然とルゴスは言い放った。
「それでしたら」と、得たりとばかり、マクアークは大きく頷いた。
「愚息達が先ほど、南棟前の庭園でフォルド様にお会いしたとかで、一人隣室に待たせてございます。その時の様子など、ルゴス様自らお聞きになっては如何でございましょう」
「サウアーがフォルドに会ったというのか?」
「はい、城内の見回りの折にとの事でございます」
「成程……」
何故あの宮廷薬師が普通なら隠そうとする自分の失態を、敢えて口にしたのか不思議に思っていたが、こういう
——
「よし、通せ」
ルゴスの野太い声に反応するように、開いた扉から二十代の男が畏まって入ってきた。
南棟前の庭園でサウアーの金魚のフンの如く付き従っていた二人組の片割れ、中肉中背の若者の方だった。
父親と同じくくすんだブロンドに、やや垂れ気味の目をしていて、凡庸を絵に描いた様な男だが、アッシュブルーの瞳だけは鋭く抜け目なく、思わず本性を隠したずる賢そうな狸を連想させる。
「クノック、ルゴス様に庭園でのフォルド様のご様子を詳しく申せ」
「はっ」
一礼して、マクアークの息子は庭園での事を、宰相と父親につぶさに話して聞かせた。
「——では、フォルドは幾分痩せ細ってはいたが、至って元気だったと言うのだな?」
「はい、口調なども淀みなく、受け応えもはっきりしていらっしゃいました」
「しかし、どうも解せぬな」
ルゴスは片手で軽く顎髭を撫でた。
「あのフォルドが、サウアーを怒らせる様な暴言を吐いたなどと」
目覚めたばかりで記憶が混乱していたとしても、あの甥の性格からして、とてもにわかには信じられない事である。
「わたくしも一瞬耳を疑った程ですが、紛れもない事実でございます。サウアー様もいたくご立腹なされ、未だに心静まらぬご様子で……」
そこでクノックは目を伏せて小さく嘆息した。
あの後、エイルの言葉を信じて方々捜してやっとマクアークを見つけたと思ったら、サウアーの侍従長は特に用はないという。エイルに
それを侍従長親子は三人掛かりで
今頃弟のアガス——金魚のフンの片割れの小肥りの男——が一人で後片付けをしている。ヒステリーの後始末など、何処でどんな噂を立てるか判らない者達には頼めないからだ。が、あの愚鈍な弟ではきっと殆ど片付いてはいないだろう。結局自分が全部やらなければならないのだろうと思うと、自然と気が重くなって溜息の一つや二つ出てしまう。
「よく判った。これからもサウアーの事、よろしく頼むぞ」
クノックの気苦労を察してか、珍しく
「あのまま眠っておればよいものを、とうとう目覚めてしまったか」
「如何致しましょう?」
マクアークはその場に控え、ルゴスの言葉を待った。
「今更止めてどうする? 既に三年前のあの時決めた事だ」
ルゴスはマクアークを見据えた。
「
「かしこまりました。全てご随意のままに」
底冷えのするルゴスの声に、マクアークは深々と一礼してその場を辞した。