アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅳ ー神 話(2)ー

 ある時、多忙で暫くの間アーサスの様子を見ることの叶わなかった四人の神は、珍しく全員顔を揃えて久しぶりに()の地の様子を見てみた。

 そこには、かつての慈愛に満ちた豊かな地はなかった。草樹は焼け、大地は荒廃し、その上を人々の死した姿が累々と覆い尽くす。そしてその傍らには、血糊を付けた武器を手に、すさんだ荒々しい咆哮を上げる人々の姿があった。

『これは、一体どうしたことだ? 少し目を離しただけで、何故このように変わり果ててしまったのか』

 男神と三人の女神達は、驚き、そして、嘆き哀しんだ。

 自分達を慈しみ育ててくれた母ともいえる大地が、こうも無残な姿になろうとは。

 「人」などに情けをかけて与えたのがいけなかったのか? この変貌した荒々しい「人」達がこの地を支配する限り、もう二度と元の美しい姿に戻すことは叶わないのだろうか?

 四人の年若い神達は悩み苦しんだ。

 この大地の荒廃が「人」の手によるものであることは疑い様がなかった。だが、アーサスの地同様に、生まれたばかりの幼き種である「人」達もまた愛していたからである。大地を救う為に「人」達を排除するなどできなかったのだ。

『では、人々がこのように変貌した原因を探りましょう』

 一の女神テュルミネールは提案した。

『私達にはほんの僅かな時間でも、千年の(とき)は命短き「人」の種が変貌するには十分過ぎる時間でしょうから』

 その提案に賛成した他の神達は、一の女神と共にアーサスで唯一緑がたわわに繁るヴィルドヒルへと降り立った。

 そこだけが、人々が荒々しく変貌し果てたアーサスの地で、一千年の間変わることなくこんこんとアクアティアを湧き出し続け、それを湛えたアクア・ヴィダを覆うように枝を張るエリオスが、アーサスの地を静かに見守っていたのだった。

 四神はエリオスの幹に掌を当てて問うた。僅か一千年の間この地で起こった全ての事を。

 そして、掌を通して語るエリオスの言葉に、年若い神達は愕然とした。

 今から五百年程前の事、神々の住まう楽園から一粒の種子(たね)がこの地に落ちてきたという。それは楽園に時折生える雑草の種子で、その草の名を〈災い(ディア)〉という、厄災をもたらす毒草だった。

 何も知らない無垢なる「人」達は、それを神の贈り物として大切に育て、ディアはたちまちアーサスの地に蔓延(はびこ)った。「人」達はその中で暮らしていくうちに、ディアの撒き散らす毒素の花粉に当てられ、次第に穏やかだった心もすさんで荒々しいものへと変わり果てていったのだという。

 「人」達の変貌が、自分達の楽園からこぼれ落ちた毒草の種子によるものと知った四神は、自らの落ち度として反省し、この歪みを正すべく取り計らった。

 まず、事の元凶であるディアをこの地から一掃して大地を浄化した。そして次に、「人」達の心を(むしば)んでいたディアの毒素を、人々から抜き去ろうとした。

 が、余りにも長くディアの毒素を含んだ花粉を浴び、また、「人」の種が余りにも幼く無垢であった為に、ディアの毒は人々の心の隅々まで染み込み、それを壌土にディアは「人」の心の中にもその根を張り巡らせて、もはや完全に取り去る事が出来なくなっていた。

 もし、無理に取り去ろうものならば、「人」達の心は壊れ果ててしまうだろう。そうなれば、「人」という種そのものが失われてしまう事になる。

 年若い神達は仕方なく、再びディアの根が人々の心に蔓延らぬ事を祈りながら、「人」達の心の底に取り切れなかったディアの根を残したままアーサスの地を去っていった。

 

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