「挨拶に出なくていいのかな? 体はすっかりいいんだし」
「いけません、皇子」
立ち上がり掛けた晶を、アルフィーネは慌てて止めた。
「おじ…エイル様のお許しを貰ってからでないと、わたしが叱られてしまいます」
それを言われると晶も弱い。
でも折角来てくれたのに、会わずに帰すのは礼を欠くようで心苦く思える。
どうしようかと晶が逡巡している内に騒ぎが収まったのか、急に静かになった。
どうやらロドルバンがレイミア親子を追い返すのに成功したらしい。
ほっとアルフィーネが胸を撫で下ろす。
釈然としないまま、仕方なく晶は芝生に座り直した。
そこへフォルドの部屋に続く小道の方から一人の男が姿を現わした。
「勉強は進んでおりますか? 皇子」
そう声を掛けてきたのは、
エイルが来たという事は、先程の騒ぎを収めたのはどうもロドルバンではなく、この宮廷薬師の手柄だったようだ。
アルフィーネが嬉しそうにエイルを迎える。反対に晶は面白くなさそうな
どうもこの宮廷薬師は苦手だった。命の恩人だとは判っている。エイルの調合した薬がなかったら、あの高熱でとっくに死神の手を取っていただろう。
とはいえ、初っ端からやり込められ、その後も色々と、気が付けばいつの間にかいいように動かされている。晶でなくとも苦手意識を抱こうというものだ。
エイルが来たことで、晶達は場所を小川の
そこにはテーブルと椅子が置かれてあり、一息つく為の茶道具まで置いてあった。
「ご気分の方は、とても良さそうですね」
アルフィーネが
「ああ、何とかね」
我ながら子供っぽいとは判っていても、ついエイルに対してぶっきらぼうな態度を取ってしまう晶だった。
だが、エイルは全く気にする様子もなく話を続けた。
「では、気分がよろしい処で、十日後レイミア様の催される、身内だけの午後のお茶会にご出席なさってくださいね」
「おじ様っ」
思わずアルフィーネは抗議の声を上げた。
「アルフィーネ、淑女たる者はみだりに大きな声を出したりはしないものだよ」
小さく溜息をつき、エイルは自分の養い子を
「それに、
「はい、エイル様。申し訳ございません」
「別にいいんじゃないか、ここに居る時くらい。俺も別に気にしないし」
しゅんとするアルフィーネを庇うように晶は言った。
「皇子がそう言うのであれば。でも、できるだけ公私の区別は付けるようにするんだよ」
「はい、おじ様」
「それで、先程のお茶会ですが」
「ああいいよ。もう
実際、目が覚めてからこの方、動ける範囲が部屋とこの庭園だけでは、
もう一つロドルバンが勧める剣術があったが、二度とその手の類いの稽古はやりたくない晶は、やった方がいいんだろうと思っていても、色々と口実を作って後回しにしていた。
ヴィルドヒルについての調べも行き詰まっている今、読書も本当はやりたくないのだが、暇そうにしているとロドルバンがやって来て、フォルドとの想い出話に花を咲かせるので仕方なくやっているのだ。
それらから少しでも解放されるのなら、お茶会だろうと茶摘み会だろうと何だって行ってやる。
「でもおじ様、皇子はまだ……」
「ああ、お前の言いたい事は判っているよ」
憂い顔のアルフィーネの言葉を、エイルはやんわりと遮った。
「だけど皇子が目覚められてもう一ヶ月以上になる。これ以上は流石に人前に姿を見せないで居るのも限界なんだよ」
そろそろ人々が不審がる頃合いだ。いらぬ憶測から何かしでかされる前に無事な姿を見せ、人々を安心させる必要がある。
その手始めがレイミア主催の茶会というのが大いに不安が残るところだが、一度はあの厄介な親子の機嫌を取って置かないと後々困るので、それも致し方なかった。