アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅴ ―カムラス王―

 目の前に、重厚な造りの扉があった。

 供に付いてきたロドルバンがノックする。

 暫くして扉が少し開き、中から年配の女官が顔を出した。

「フォルド様をお連れ致した」

「お待ちしておりました」

 フォルドの侍従長とその(あるじ)、そしてその後ろに控える護衛の騎士二人の姿を確認すると、女官は静かに扉を開け広げ、中に二人を通す。

 付き従ってきた護衛の騎士は中に入らず、廊下で閉じられた扉の前に立った。

 女官は質素な小部屋を抜け、正面の扉を押し開く。

 正面の壁一杯に大きめの窓が広がり、その脇にバルコニーに通じるガラス張りの扉がある。内部は落ち着いた色調で統一された瀟洒(しょうしゃ)な家具や品の良い優美な調度品が並び、中央にゆったりとしたテーブルと椅子が配された広々とした部屋だった。

 女官はその部屋の右端にある扉へと向かい、ノックした。

「フォルド様とその侍従長をお連れ致しました」

 扉越しにそう告げると、中から音がしてカチャリと扉が開く。

 老齢の侍従が晶とロドルバンの姿を見て深々と(こうべ)を垂れた。

「どうぞ、中へ。王がお待ちでございます」

 と、二人を部屋の中へと(いざな)い、自分は部屋の外へ出ると扉を閉めた。

 部屋の中央奥、明るい陽光が差し込む窓の脇にある天蓋付きのベッドに、一人の壮年の男がクッションにもたれ掛かるようにしていた。

 現ソルティア国王カムラスである。長く病臥(びょうが)()している所為か、痩せて肌は青白く、金の髪も艶を無くしているが、深い蒼色の瞳はフォルドによく似ていた。

 そのベッドの脇に白髪に顎髭を蓄えた宮廷薬師の長リヤルドとエイル、そして神官長のオラトリオが控えていた。更にその周囲を護衛だろうか、数人の騎士らしき者がいる。

 入った途端そんな面々に注視され、思わず晶は怯んだ。

 王一人に会うつもりでいたのに、思った以上に人が多い。

 最初会った時に言おうと思っていた言葉が頭から吹っ飛び、何を言ったらいいか判らなくなって晶は狼狽(うろた)えた。

 そんな晶の焦りなど気付かず、ベッド上のカムラスは息子の元気そうな姿に笑みを浮かべた。

「よく来たな、フォルド」

「……病床の身の父上に、長らく心配掛けさせて申し訳ありません」

 話しかけられた晶は、内心の動揺を何とか抑えて言葉使いに気を付けながら応えた。

 知識などは一通り復習(さら)えば得る事が出来たが、フォルドがこの父王をどのように想い、どう接していたかは判らなかった。感情面に起因するものはやはり本人の記憶がなければ知ることはできないらしい。だから晶は「人と対する時は礼節と節度を持って応じるのが基本だよ」と言っていた祖母の言葉通りに王に対するよう心がけたものの、「父上」などと言い慣れない言葉を使うのはものすごく気恥ずかしい。

 カムラスは何とも言えない複雑な表情(かお)をする息子を(いたわ)るように声を掛けた。

「いや、あの事故は其方の所為ではないのだからな」

 と、傍に来るよう扉の前に立つ息子を促す。

 それに逡巡する晶の背を、後ろに控えていたロドルバンが軽く押した。

 軽くたたらを踏んで前に出た晶は、そのまま躊躇(ためら)いがちにカムラスの許へ進んだ。

 

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