アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅴ ―疑 惑(1)―

「フォルド様!?」

 驚き、ロドルバンは扉を開けて出でいく(あるじ)の後を追った。

 突然出て行った皇子達に驚き、何事かと侍従や女官達がやって来る。

 エイルはそれをやんわりと押し止め、中にいた護衛の騎士達も退室させて人払いすると、開け放された扉を閉めて後に残った者に向かって静かに問い掛けた。

「如何思われましたか?」

「……多少態度が…雰囲気も大分変わったように思えるな」

 特に従兄や幼少の時の話など、以前ならあれ程狼狽(うろた)えはしなかっただろうに。

 どこか他人行儀でよそよそしくしていた先程の息子の姿を思い起こし、カムラスは淋しそうに言った。

「記憶を無くしておられるということじゃったな」 

 次いで老宮廷薬師はそうエイルに確認した後で、思案しながら言葉を継いだ。

寄辺(よるべ)の記憶を失い、まだ足が地に着いておらぬやもしれぬ」

 目覚めてから初めて王に会ったのだ。まだ自分の父親だと認識できなくてあのような態度になってしまったのかもしれない。と、気落ちする王を慰めた。

「確かに、リヤルド殿の言われる通りなのかもしれぬな」

 オラトリオは目覚めたばかりの荒れた姿と今回、そしてそれ以前の皇子の姿を脳裡に思い浮かべた。

「やはり皆様もその様に感じられましたか」

 予想通りの答えに頷いたエイルは、そこで意を決したように言葉を継いだ。

「私もその様に思っていました。——今までは」

「今まではとは? 今は違うのか?」

 その様な話は聞いていない。随時皇子の容態の報告を受けていたリヤルドは、驚いた様に白いローブの若者を見た。

「はい、皇子の症状は忘れ(やまい)のそれとは大きくかけ離れております」

 最初は日常生活に支障を来すほどの一般常識や知識が欠落していた。それに皇子が口にしていた妄言——不可解な言葉の数々は、いくら調べても判らなかった。この世にない物ばかりなのだ。その知識を皇子は一体何処から得たのか。

「私は皇子の病の鍵が、皇子が最初に口にした名にあるように思えてならないのです」

「確か、祖王の名を口にしたのだったな。『自分は〈光輝(ショウ)〉だ』と」

 リヤルドは、エイルから渡されていた報告書の内容を思い出して口にした。

「はい、皆様も感じておられたように、以前の皇子とは大分雰囲気が変わってしまわれました。それが、記憶を失った所為ではなく、その『ショウ』と名乗る者の精神(いしき)が皇子の肉体(からだ)に宿ったと考えれば、色々と説明がつくのです」

 目覚めたばかりに比べれば、皇子は随分と落ち着きを取り戻していた。目覚めた直後よく口にしていた不可解な言葉も、アルフィーネには気を許しているのか、今でも時たま思わず漏らすようだが、エイルの前では全く話さなくなった。

 それは一見自分がフォルドであることを認めた様に見える。だがその一方でアルフィーネやロドルバンに、さり気なく以前の皇子のことを色々と聞いてもいるらしかった。

 今の皇子は、その二人の話を参考にフォルドとして振る舞っているようにエイルには思えた。とはいえ、それが完全に上手くいっていない為に、以前の皇子を知る者から見たら違和感を憶え、それが態度や雰囲気が変わったと感じられるのだ。

「——確かに説明は付くかもしれぬが、証拠はあるのか? 皇子が(まこと)その者であるという」

「いえ、これはあくまで私の推論に過ぎません」

 リヤルド老の鋭い視線を受けて、エイルはゆっくりと(かぶり)を振った。

「ただ、昔何かの書物にそれらしき(すべ)があるという記述を見たような気がするのです」

 だが、その書物は今手元にはない。だがからあれから今まで自分の部屋で、それに代わる物がないか書棚やそこに入りきれなくて床に山積みになっている本を調べてはいるが、未だに見つかっていなかった。   

 本当ならばこの話は誰にでも納得できるよう、物的証拠を押さえてからしたかった。

 だが、これ以上皇子を人前に出さずに済ませられない以上、悠長に構えている時間はなかった。

 

 

 

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