「フォルドが別人かも知れぬと言うのか」
険しい顔をしてカムラスは年若い薬師を見た。
その王の鋭い視線を受け止めてエイルは自分の意見を述べた。
「はっきりそうと断言は出来ません。ですが、その可能性を完全に捨て去るのも難しいかと思われます」
「それはもし仮に、記憶を失った今の皇子にもう一度『継承の選儀』を執り行ったとしても、再び担い手として選ばれるのは危ういということか」
エイルの言葉に、オラトリオは愕然となった。
三年前、フォルドは太陽神ソルブレイを祭った神殿で「継承の選儀」を受けた。
それは、次代の王を決める為の儀式で、予め王族だけでなく世継ぎとして相応しいと思われる子供達を各地より集め教育を施した後、この国の宝剣である〈
そして、宝剣がその者を自分の担い手として相応しいと認めた時、剣の柄に嵌め込まれた力の
フォルドがそれを受けた時は七人の子供がいた。
一人、そしてまた一人と宝剣を光らす事が出来ず、もっとも有力候補であると言われていたサウアーにもソーレスは沈黙を守り輝く事は無かった。
今回は誰も選出されないのかと思われたその時、最後に宝剣を手にした最年少のフォルドが力の
同時にフォルドはソーレスの担い手として、ソルブレイ神の力の一端と共に「想い」を受け取っていた。
だが、記憶を無くした今、それは失われていた。
魂に刻まれた太陽神ソルブレイの「想い」を思い出さない限り、ソーレスはフォルドに何の加護も与えない。担い手としてその力を使うことが一切できなくなり、他の者と同様に只の剣に過ぎなくなるのだ。
——〈
それが、ソルティアの祖王以来の大原則だった。
とはいえ、記憶がないと言っても魂に刻み込まれた太陽神の「想い」は決して消える事は無い。最悪皇子の記憶が戻らなくても、再度「継承の選儀」を執り行う事でその「想い」を呼び覚ます事が出来るとオラトリオ思っていたのだ。
しかし、魂が別人ならば、そもそもその魂に呼び覚ます「想い」がそこにはない事になる。
「その可能性が出てきた以上、このまま皇子の記憶が戻らない場合、どうするか考えておく必要があるかと思います」
だからこそ、この場を護衛の騎士をも排してフォルドの病の事を知る者だけにしたのだ。
一度選ばれた者が、死以外でその資格を失うなど前代未聞の事だ。それが公になれば人心は乱れ、騒乱の元となる。
「いや、待つのじゃ」
性急に話を進めようとする若い薬師を、リヤルドは止めた。
「皇子に宿ったという別の者が祖王であるならば、元より魂にソルブレイ神の『想い』を受け取っておる筈じゃろう」
「皇子の中の者は祖王ではありません」
宮廷薬師の長の言葉に、エイルは大きく
「祖王ならば、自分が興した国の事を知らないという事は無いと思います」
実際目覚めた後の皇子は、この国のみならず、この世界の事を何一つ知らなかった。
「では、やはり——」
このままでは、フォルド皇子は次代の王の資格を失うということか。
リヤルドの言葉に一瞬期待したオラトリオは肩を落とした。
「成程、良く判った」
臣下のやり取りを黙って聞いていたカムラスは、おもむろに口を開いた。
「フォルドが別人だと、まだ決まったわけではない。無論その可能性を排するつもりもないが、いずれにせよ、まずは真実が奈辺にあるかをはっきりさせる必要がある」
そこにいる一同に目を向け、重々しく言葉を継ぐ。
「フォルドの病は、全てが
エイルは引き続きフォルドの病の治療と共に、その術の確証を得る為にすべき事をせよ。
オラトリオは今まで通り人心を惑わす者が出ぬようにせよ。
そして、リヤルド——」
と、最後に老宮廷薬師に声を掛け、ベッドのクッションに体を預けて深く息をついた。
「儂は暫し休む。起きるまで人払いを頼む」
「御意」
三人はベッドに横たわる王に一礼し、静かに部屋を後にした。
独り部屋に残されたカムラスは、目を閉じで先程の息子の姿を思い浮かべた。
——あれが本当にフォルドでないとしたら、其方は今何処にいる……
だが、その想いに応える者はいなかった。
【アーサス豆知識①】
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また、世襲制で受け継いだ力の
その力を扱えるのは、祖王のように力の
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