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人々は陽気で温かく人情味に溢れ、シャナン河流域の東にあるソルティアの王都《
そして、その王都の西の外れ、南西に伸びる丘陵の一角である丘に、白い城壁に囲まれてソルティアの王宮は建っていた。
その王宮の奥棟、王族の住まう居住区の広い庭園の一角、白大理石の柱に満開の赤い蔓薔薇が伝う、白と緑と紅のコントラストが美しい東屋の下で、ソルティアの宰相一家が、今日の主賓を今や遅しと待っていた。
「ねえ、お母様。この髪飾りおかしくないかしら?」
髪に付けた髪飾りが曲がっていないかどうか気にしながら、ベルティナは隣に座るレイミアに訊いた。
これで九回目である。何時ものレイミアなら「同じ事を何回もっ」と、とっくの昔に怒りだしている処だが、今日こそはフォルドにベルティナを。と意気込んでいる母親は、そんな取るに足らない事で一々目くじらを立てるのも馬鹿らしいらしく、辛抱強く娘に付き合っている。
「ええ、ベルティナ。お前の蜂蜜色の髪に、紺碧玉を嵌め込んだ金細工の髪飾りが映えて、とても良く似合っていますよ」
「あぁ、それにしてもフォルド様は遅いわ。早くいらっしゃらないかしら」
ベルティナは派手なローズピンクのドレスのシワを直し、不満を零しながらもこれから訪れるフォルドとの逢瀬に胸躍らせた。
それを横目で睨み、サウアーは忌々しげに舌打ちしてそっぽを向いた。
二日前、上機嫌の母親に、明後日フォルドを招いて内輪だけのお茶会を催すから出なさいと命令口調で言われた時、絶対にすっぽかしてやると思ったが、父ルゴスも出席するとあってはそうもいかず、渋々この場に出たのだった。
が、蓋を開ければ、父上は至急の用事が出来たとかで欠席となり、殺しても飽き足らない憎きフォルドは少し遅くなると使いの使者を寄越した切り、未だに姿を現わしもしない。
余りにも馬鹿馬鹿しくてやってられないというのが、サウアーの今の偽らざる心境だった。
「あっ、いらしたわっ」
弾むような妹の声が、サウアーの横っ面に叩き付けられた。
ベルティナの馬鹿でかい声に、サウアーは思いっ切り顔を
「ほら、お母様。フォルド様よっ」
ベルティナは椅子から伸び上がるように立ち上がり、前方を指し示す。その先に、ライトブルーのシャツの上に金糸で縁取りした深い露草色の上着を着たフォルドの姿があった。腰には世継ぎの証である〈
「ええ、ええ、見えますとも」
そう応えてからレイミアは、立ってはしゃぐ娘を
「ベルティナ、その様に騒いでは、フォルドに呆れられてしまいますよ」
母親の一言が効いたのか、ベルティナは慌てて椅子に座り直し、借りてきた猫のように大人しくなった。
「折角招いて貰ったのに、遅れて申し訳ありませんでした。お詫びにこれを。今日の朝、母の
東屋に着くと同時にフォルド——晶は宰相一家に謝った。そして、爽やかな笑顔と共に、手にしていた薄桃色の二つの花束をレイミア親娘にそれぞれ差し出す。
本当はこういった
行く気が全くしないこの茶会に出るために用意した花束が、出かける間際で一つしか無い事に気付いたフォルドの侍従長が『あの親
主催者のレイミア一人に花束をやればいいと思っていた晶はその言葉に驚いた。いくら何でもそれは大げさではと思ったが、迎えに来たエイルも同意見だったので、急遽遅れると使者を出し、アルフィーネに大急ぎでベルティナ用にもう一つ花束を作って貰ったのだ。
その効果があってか、レイミアもベルティナも満面に笑みを湛え、晶が遅れてきた事などすっかり忘れ果てて実に愛想がいい。
ただサウアーだけが射殺しかねんばかりの憎々しげな視線を晶に向けていた。