アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅵ ―お茶会(5)―

 お茶会の席から強引に引きずり出された晶は、フォルドの従妹に引っ張られるまま東屋の脇にあった繁みを抜けると、更にその先にあるロニエの林の中にどんどん入っていった。

 ベルティナの手を振り払いたかったが、出掛ける前、ロドルバンに従妹の機嫌を損ねると、後々とても面倒なことになるから、余程の事が無い限りできるだけ穏便に済ますようにと念を押された手前、無下にこの手を振りほどいていいものか悩んでいる間もベルティナの歩みは止まらない。

 後ろを振り返っても、エイルもアルフィーネも追って来る気配もない。

 何だか段々人気の無い所に行くな。と、晶が不安になり出した頃、ふんわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。

「ここですの。ほら、綺麗でしょう?」

 ベルティナの指差す方を見ると、確かに新緑の中その辺りだけ薄紫色に(けぶ)っている。

 近づいて見ると、枝先に可憐な花の束が咲き誇り、林の中をそよそよと吹き抜ける風に甘やかな匂いを乗せている。

「へぇ~」

 晶は思わず感嘆の声を上げ、アルフィーネに持って行ってやったら喜ぶかな。などと呑気に考えていると、またもフォルドの従妹が勢い良く晶の腕を引っ張った。

「フォルド様、あそこのベンチに座りませんこと」

 ——林の中に、ベンチ?

 晶は怪訝に思ったが、見れば確かに(あつら)えたように優美な造りの白いベンチが木漏れ日を浴びて、花咲くリラの樹の下にあった。

 ベルティナは晶を有無言わせずにそこに座らせると、その隣に当然のことのように腰を下ろし、べったりと晶に寄り添った。

「やっと、二人きりになれましたわね、フォルド様」 

 鼻にかかる甘え声で晶に擦り寄ってくる。

「そ、そうだね……」

 思わず晶は、()()り気味に大きく身を引いた。

 ロドルバンに『気を付けなされ。あの親()はフォルド様の妃の座を狙っておるんですぞ。一寸でも隙をみせたら、何をされるか判ったものはありませんからな』と言われた事を思い出したのだ。

 もっとも、いくら美人でもこうも厚かましくて強引な、一番嫌いなタイプの()が相手では、侍従長に忠告されなくても、自然に腰が引けてくるというものだ。

 確かロドルバンから聞いた昔話でも、フォルドもこの従妹の事は良く思っていなかったようだし。

 しかし、なおもベルティナは擦り寄ってくる。

 母親同様、今日こそはフォルドを自分のモノにして、未来のソルティア王妃の座を我が物にと意気込んでいるベルティナである。露骨に身を引かれたくらいではびくともしない。

「ご病気の間、わたくしずっと祈ってましたの。一日でも早くフォルド様が全快なされますようにって」

 言いながらさり気なくもう一度晶の腕に手を回し、今度は逃げられないようにぎゅっと摑む。

「——何度もお見舞いに行きましたのよ。それなのに、貴方の侍女や侍従長が意地悪をして会わせてくれなかったの。とても淋しかったですわ、フォルド様」

 と、更にぴったりと、ベルティナは少女にしては大きめの胸を晶の体に密着させてくる。

「それは、申し訳ない。爺達も、俺の体を心配してのことなので、許して欲しい」

 ——頼むから、そんなにひっつかないでくれ。

 晶は身の危険をひしひしと感じた。答える声も焦りからつい途切れがちになる。

「ええ、フォルド様は心淋しく想うわたくしの為に、毎日心の籠もったお手紙を下さいましたもの」

「………」

 確かに手紙は書いたが、それは毎日読むのも大変な量の手紙をベルティナが寄越すからで、その返事も面倒だから本当は書きたくなかったのだ。

 でも、ロドルバンに放置すると五月蠅(うるさ)いからと言われ、嫌々ながらに返事を書いただけだった。それもアルフィーネ達に添削してもらった社交辞令満載の当たり障りのないものを。そこには一欠片の心も籠もってはいなかった。

 普通読めば判る筈だが、ベルティナは自分の都合のいいように解釈したらしい。

 確かにロドルバンの言うように、物凄く厄介で御目出度い性格のようだ。

 喩えこれ以上ないくらいきっぱりと拒絶しても、照れ隠しだとか、愛情表現の裏返しなどと曲解して喜びそうだった。

 ——って事は、この状況ってかなりヤバくないか。

 こんな所で何時までも二人っきりでいたら、このフォルドの従妹はこれを利用して自分達は既に相思相愛の仲だと、話をでっち上げて言いふらすくらいやりそうだった。

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