アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅵ ―お茶会(6)―

「えぇと、そろそろ皆の所に帰らないと……」

 内心焦りながら空々しくそう言って、晶はベンチから立ち上がろうとした。

 だが、それを許すベルティナではない。

「あら、まだよろしいでしょう?」

 摑んだ腕をぐいっと引き、強引に晶をベンチに引き戻す。

「ほらこれ、今日の為に特別に造らせた髪飾りですのよ」

 顔を横に向け、ベルティナは金細工の髪飾りを見せる。

「これに付いている紺碧玉は、ほら、貴方の腰の宝剣(ソーレス)の柄の宝石(いし)と同じ物ですのよ」

「〈陽の剣(ソーレス)〉の柄の宝石(いし)と?」

 思わず晶は腰に()く剣の柄に視線を落とした。

 飾り気のない柄の中央に一つ、嵌め込まれた宝石が木漏れ陽を反射して蒼い光を放っている。

「ええ、そして、貴方の瞳の色と同じ……」

 柄の宝石に意識を向けてた晶の隙を突き、ベルティナは従兄の顔に手を添えてると、強引に自分の方に向けさせて瞳を覗き込んだ。

 間近で見つめ合う形になり、晶はうっとなった。

 怯む従兄を逃すまいと、ベルティナがその体にがしっと抱き付く。

 そして、目を閉じて殆ど鼻が触れんばかりに唇を近づけてきた。

 ——じょ、冗談じゃないっ。好きな()とならともかく、こんな、全然好みじゃない()とだなんてっ。

 たとえこの体がソルティアの皇子のものでも、それだけは絶対に嫌だ。

 晶はベルティナの体を引き剥がそうとした。が、離れない。一体何処からこんな馬鹿力が出てくるのか——

 絶体絶命に、晶は焦りに焦った。

 上半身を()()らせ、何とか最悪の事態を引き延ばそうとする。

 自然、二人の体重の殆どがベンチの背もたれに掛かる。

 ぐらりっ

「うわっ」

「きゃっ」

 揺れたかと思った瞬間、二人の体はひっくり返ったベンチから折り重なるように地面に投げ出されていた。

「つっ……」

 晶が打ち付けた後頭部を押さえて横を見ると、ベルティナが晶の唇の代わりに地面と口づけしている。

 ——た、助かった~

 は—っと、晶は思わず安堵の息を漏らして胸を撫で下ろした。

「いったあぁい~」

 額と鼻と唇に土を付けて、ベルティナが喚く。

「あ、ああ、大丈夫?」

 慌てて立ち上がって、晶はフォルドの従妹に手を差し出した。

 が、不意にびくっと肩を震わせ、その動きを止めた。

「フォルド様?」

 怪訝そうにベルティナが晶を見上げる。

 晶は、何かを捜すように、きょろきょろと周囲に視線を走らせていた。

 声を聞いた様な気がしたのだ。

 悲鳴のようなアルフィーネの声を。

 ——気のせいか……

 いや、違うっ

 確かに今聞こえた。

 ベルティナに背を向け、晶は一目散にロニエの林の中を掛けだした。

「アルフィーネっ」

 手入れのされたロニエの林の中で、アルフィーネの姿を捜す。

 その耳に、男の下卑た(わら)い声が風に乗って聞こえてきた。

 ——まさかっ!?

 湧き上がる不安に()かされるように、晶は声の方に向かった。

 繁みを大きくかき分ける。

 その向こうに、探し求めていた者の姿があった。

 両手を後ろ手にサウアーの従者の一人に捕らえられ、口を塞がれたアルフィーネの姿が。

 身動き出来ないアルフィーネの頬は泣き濡れ、ドレスを引き裂かれ、露わになった胸元には大粒の翡翠に似た宝石を嵌めたペンダントが微かに緑の光を放っていた。

 サウアーは嗜虐的な笑みを浮かべ、引き裂いたドレスの胸元を更に押し広げようと手を掛ける。

 それを目の当たりにした瞬間、

 晶の中で、何かが切れた。

 




【アーサス豆知識②】
 神々がもたらした力の宝石(いし)は、それぞれの瞳に似た宝石に自分達の力の一端を込めた物。故に宝石(いし)によって使える力が違う。

 女神テュルミネールの力の宝石(いし)月の輝き(ラナール)〉は、黒曜石のような光沢のある漆黒の宝石。
 男神ソルブレイの力の宝石(いし)蒼の閃光(ソレイア)〉は、紺碧玉のような蒼く澄んだ宝石。
 女神ヴァンデミーネの力の宝石(いし)暁の星(エルーラ)〉は、琥珀のような黄色い透明な宝石。
 女神フェリューリアの力の宝石(いし)森の雫(アルサール)〉は、翡翠のような深い緑色の宝石。

 現在所在が判っている力の宝石(いし)は二つ。後の二つは長い年月の果て所在不明になっている。
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