「それでは皇子、先程日程が決まったのでお伝え致しますね」
「日程?」
訝しむ晶に、エイルは少し長くなるからと椅子を勧め、自分もロドルバンと共にテーブルに着いた。アルフィーネが席に着いた三人に香草茶を淹れたカップを置いていく。
それが全て済んだところで、エイルは説明を続けた。
「本来なら『
出城とは元々《
だが、今は殆ど他王家との交流はなく、国境の警備の為に少人数の騎士団を駐屯させるだけになっていた。
ソルティアでは春のジュールミナル後の民衆が種蒔きを終える頃と、秋の収穫と祖王の誕生を祝う「
しかし、フォルドはこの春のジュールミナルの祭儀で〈太陽の塔〉からの落下事故などで長く伏せっていたので、今年はどうなるのかとかなり前に両出城に駐屯している警備の騎士団長からそれぞれ問い合わせがあったのだが、ずっと回答を保留していたのだ。それが今回ようやく方々の調整が終わって皇子の方に話を持っていくことができたのだった。
とはいえ、このような報告は普通侍従長か文官がするものだが、ロドルバンが皇子にべったりと貼り付いている上、未だに面会の制限をしているので、その役目が制限している張本人であるエイルに回ってきたのである。
「あ、ああ。出城巡りか……」
そう言えば、エイルが置いていった大量の書物や資料の中に、そんな事が書かれていた物があったような気がする。
「——確か、ネールとフェデルだったか……」
「ええ、そうです」
皇子が渡した資料にしっかり目を通してくれていた事に満足してエイルは頷いた。
「まだ完全に
「成程。それでどう巡るんだ、その出城を」
「ここが王都《
エイルはテーブルの上に置いたこの国の地図を指し示しながら説明した。
「——ここまでで五日の日程になります。そしてネールの出城に三日滞在した後、公路を逸れてリーデルの田園方面に向かいます」
「それだと随分遠回りする事にならないか? ダルの森沿いにも道はあるだろ」
地図にはダルの森沿いにかなり広い道が東の方にも伸びている。
「ええ、昔は結構人の行き来はあったのですが、何時の頃か人を襲うオーシグルやバルザームなどの凶暴な獣が、ダルの森の北西辺りに数多く出没するようになったのです」
それらは時には森を出て道行く人を襲い、かなりの被害が出たのだ。その為今ではその道を使う者はおらず、荒れ放題の忘れ去られた道となっていた。
「あ、ああ……そうだった」
——前に聞いた事がある。あれは確か……いや、違うっ。
こめかみを指で押さえ、何時だったか思い出そうとした晶は慌てて
——聞いたのはフォルド皇子だ、俺じゃない。俺は今初めて聞いたんだ。
「皇子、どうかいたしましたか?」
「いや、何でも無い。続けてくれ」
「——判りました」
いきなり頭を振り、
それを聞きながら、晶は膝の上に置いた拳を強く握り締めた。
最初フォルドの知識を得るには書物をある程度読み込む必要があったが、馴れてくるにつれてさっきのように思い出す切っ掛けさえあれば、自然と頭に思い浮かぶようになっていた。それもやけにはっきりとした既視感を伴って。
長くフォルドの振りをしている所為なのか、それとも近頃眠ると時々聞こえてくるようになったあの声の所為なのか、最近思い出す度にこうやって、フォルドの
こんな事が続くと、段々自分が自分で無くなっていくようで怖かった。
——確かに、この出城巡りはいい機会なのかもしれない……
忘れ