アーサス   作:飛鳥 螢

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第一章 《 陽 の 国(ソルティア) 》 Ⅶ ―転 機(4)―

 ——でも、その前に後ひとつだけ確かめなければ。

 晶は説明を続ける淡い金髪(ペールブロンド)の薬師を見た。

「——となります。よろしいでしょうか」

「ああ、判った」

 自分に確認を取るエイルに頷くと、晶は何気なさを装って訊いた。

「ところでエイル。お前はまだ若いのに王宮一の知恵者だと言われているようだけど」

「王宮一かどうかは分かりませんが、人より多少多くの物事を知っているのは確かです」

「それでいいよ」

 と、肯定するエイルに、晶はずっと聞きたくて聞けなかった事を口にした。

「——〈生命の丘(ヴィルドヒル)〉を知っているか?」

「神話に出てくる、あのヴィルドヒルですか?」

 唐突な質問に、エイルは目を瞬かせた。

「ああ、それがこの世界(アーサス)の何処にあるか知りたいんだ」

 晶は真っ直ぐにエイルの赤味がかった菫色の瞳を見据えた。

「何故、知りたいのですか?」

「それは、その……何となく、興味があるというか、何というか……」

 まさかそこに、自分の肉体(からだ)がフォルドの(こころ)と共にあるとは言えない。

 途端に視線を外し、しどろもどろになる晶に、エイルはふっと微笑んだ。

「では、皇子はどの程度まで、それに付いて調べがついているのですか?」

「この大地(アーサス)の中央の何処かにある〈聖なる湖(アクア・ヴィダ)〉の小島の丘の名とだけ」

 ヴィルドヒルが神話に出てくる場所だと知って、ロドルバンに頼んで持ってきて貰った王宮にある神話や伝説関係の本を全て調べたのだが、どの書物もこの世界を最初に荒廃させた人間についての話が中心で、ヴィルドヒルの詳しい記述はなかった。

「そうですね、神々が舞い降りた聖なる場所ですから、詳しい記述を残すのは(はばか)られたのかもしれません」

 皇子の話に、エイルは自分なりの考えを口にした。

「それに、今に伝えられている神話そのものが、本当にあった話なのかどうかも定かでありませんしね」

「でも、全部が全部、全くの架空話って訳じゃないだろう」

 ヴィルドヒルは実在すると言えない晶は、あっさりその存在を否定するような事を言われて慌てた。

「一応この大地(アーサス)の中央の何処かにあるって話だから、その辺りにあるんじゃないか?」

「ええ、神話ではそのように()われてますが——」

 と、エイルは出城巡りの日程を書いた羊皮紙を裏返し、そこに懐から出した筆記用具のペンにインクをつけてこの大地の大まかな地図を描いた。

「我が国はここで、エルティアとアルティアとはこのように隣接し、その二国の向こうに《宵の国(ナイティア)》があります。となるとこの大地(せかい)の中央は一応この辺りになります」

 と、エイルは地図の中央—エルティアとアルティアの間を示した。

「ですが、ここにあるのは深い断層だけです」

「……っ」

 突き付けられた事実に晶は息を呑んだ。

「神話は所詮伝承でしかありませんからのう。事実と異なる事はよくある事ですじゃ」

 ショックを受ける(あるじ)を慰めるようにロドルバンは言った。

 

 

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