フォルド皇子の出城巡りの準備のため、日頃よりも王宮内外を忙しく往き来する人々を、ルゴスは憮然として二階にある自分の執務室の窓から見下ろしていた。
「フォルドが出城巡りに行くか……。民衆に姿を見せる前に済ませたかったのだがな」
「申し訳ございません。レイミア様の茶会でのサウアー様の一件で、警備体制がより強化されまして……」
只でさえ忍び込みにくかったのに、あの一件で衛兵の目を盗んで南棟に入るどころか、近づく事さえできなくなったのだ。とても人知れず事を為すことはできなかった。
マクアークはルゴスの
「サウアーめも困ったものだな」
思った以上にレイミアの影響が大きかったらしい。サウアーは自分がソーレスに選ばれると信じて疑いもしなかった。
フォルドより二歳年上であり、学問にしても剣術にしても、本来なら誰よりも優秀であったものを。母親に唆されて自身を高めるよりも、他の候補者の足を引っ張って貶める事に熱心だった。そんな者をソーレスが選ぶ筈がない。
それなのに選ばれ損ねた現実と未だに向き合おうとせずに、ああやってフォルドに突っかかっては、自分の方がソーレスに相応しいと思い込もうとしている。
それが他人から見ればどんなに滑稽で惨めな事か気付きもせずに。我が息子ながら情けない限りだった。
苦々しい思いにルゴスは溜息をついた。
そんなルゴスに、マクアークが
「——その、サウアー様の事でお話が……」
「なんだ?」
気を取り直して訊くルゴスに、マクアークは息子からの報告を告げた。
「サウアー様は謹慎中にも係わらず、フォルド様が出城巡りに出発する頃合いに、王宮を抜け出して追いかけるつもりのようです」
「そうか……」
——既に行くところまで行かねば収まらぬようになってしまったか……
「かまわぬ、サウアーの好きにさせよ」
「ですが、これが人に知られでもしたら、サウアー様の名に傷が付きますぞ」
マクアークは驚いて思わず反駁した。
口許に冷ややかな笑みを浮かべ、ルゴスは息子の侍従長を見返した。
「そうならぬようにするのが其方の役目であろう」
「は、ははっ」
本当はサウアー様の無謀を止めて貰いたかったのだが、そう言われてしまえば、マクアークにはただ頷く事しかできなかった。
「フォルドの方も、今度こそ抜かるなよ。王宮を出た時こそ好機なのだからな」
冷然と、ルゴスは命じた。
再び
「はい、王宮の外となれば丁度良い者がおります。腕は確かですので、今度こそルゴス様のお心に添うように致しましょう」
部屋の空気が一瞬、冬でもないのにひんやりとなった。